北海道南部・檜山管内乙部町の役場に勤務する男性職員が、本年1月に北海道新聞の女性記者を盗撮したとして同7月に懲戒処分を受けていたことがわかった。事案発生から当事者の処分までに半年間あまりが費やされた理由を、同町は「盗撮の事実を把握できたのが4月以降で、その後の北海道新聞との調整に時間を要した」(大意)としているが、取材によれば町幹部は事件翌日には事案の情報を掴んでいた。また被害者と同じ北海道新聞に勤務する男性記者も発生当日に事実を把握していたが、職場や被害者らと情報を共有していなかった。

◆ ◆ ◆
盗撮事件は、本年1月初旬の深夜から未明にかけて発生。町職員ら30人あまりが集まった飲食の席で、参加者に請われて顔を出していた道新の女性記者が被害に遭った。酩酊して前後不覚になった女性記者の衣服の裾が乱れて下着が見えている姿を、町建設課に勤務する60歳代の男性職員がスマートフォンで2度、無断で撮影したという。
被害者を含む道新関係者が事案を把握したのは、年度が改まった4月上旬のこと。道新から問い合わせを受けた町は宴会参加者への聴き取りを通じて盗撮の事実を確認、「考査委員会」を設けて加害職員の行為を審査し、7月15日付で「停職2カ月」の懲戒処分を決めた(執行は8月以降)。道新は同19日付の自社の紙面で経緯を報じ、次のような短いコメントを発表している。
《当社社員が町の職員から不適切な行為を受けたのは大変遺憾です》

記事は盗撮の経緯について最低限の事実関係を伝えているものの、現場に被害者とは別の道新記者がいた事実には一切触れられていない。その男性記者はかつて現地の支局に勤務したことがあり、1月の宴会には被害者とは別のルートで参加していた。取材によれば同記者は、その夜に起きた盗撮事件を翌日になって乙部町長の寺島努氏に伝えたとされる。ところがその後、報告を受けた町長も、それを耳打ちした男性記者も、同じ情報を被害者女性や道新などと共有しようとしなかったというのだ。
これが事実ならば、のちに当事者が停職処分を受けることになる重大な不祥事を、町のトップと被害者の同僚とが事実上隠蔽し続けていたことになる。組織としての北海道新聞がこの件を認知したのは年度替わりを経た本年4月のことで、少なくともそれまでの3カ月間は問題が一切あかるみに出ていなかったのだ。男性記者がそれまで被害者や職場などへ情報を提供していなかったことは道新も4月以降に把握できたはずだが、先述の通り盗撮事案を伝える7月の記事からは男性記者の影がまったく見えてこない。
筆者は8月上旬、先の事実関係を当事者2人に質す機会を得た。取材に対し、乙部町の寺島町長は事件翌日に情報を耳にしたこと自体は否定せず「撮影とまでは聴いていない。ただ、そういうこと(不適切な行為)があったと聴いただけ」と弁明、一方の男性記者は「何も話せない」と、先述の事実を否定も肯定もしなかった。
盗撮事案をめぐっては、乙部町に懲戒処分の公表規定や情報公開条例などが存在しない事実もあきらかとなり、一部のメディア関係者から驚きの声が上がっているところだ。
※ 事件発生後の詳しい経緯を含むレポートは、8月15日から発売中の月刊誌『北方ジャーナル』9月号に掲載。
※※ 上の『北方ジャーナル』記事について8月20日、北海道新聞から筆者及び同誌編集長へ宛てて文書による苦情申し入れがあった。同19日付の申し入れ書によると、同記事には「被害に遭った弊社女性社員の特定につながる情報が複数記載されて」おり「二次被害を招く可能性がある」という。道新は同文書をもって筆者らへ「抗議するとともに、再発を防止するよう強く申し入れ」るとしているが、被害女性自身の代理人からはとくに問題などを指摘する声は届いていない。記事を通じて盗撮事件の詳細を知ったという道新の中堅記者の1人は、今回の申し入れについて「事実を書くなというのは新聞社として天に唾する行為。会社は被害者ではなく同席した男性記者を守りたいのか」と呆れている。
(小笠原淳)
| 【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |















