「命懸けたのに」復旧作業で3癌併発|福島第一作業員、労災・賠償訴訟で尋問

「事故を収束させるために行ったのに、なぜあんなことを言われなくてはならないのか……」――札幌地方裁判所(髙木勝己裁判長)で9月15日午後、震災・津波後の東京電力福島第一原子力発電所で復旧作業にあたっていた男性が国や東電などを訴えた裁判の口頭弁論が開かれ、癌で闘病中の原告男性が法廷で尋問に臨んだ。裁判はこの日で結審し、年内にも判決が言い渡される。

■原発がれき撤去で被曝し癌発症

国に労働災害の認定を求め、また東電や建設業者らに損害賠償を求める裁判を起こしたのは、札幌市に住む元作業員の男性(62)。重機運転士だった男性は東日本大震災後の2011年7月から約4カ月間、福島第一原発の復旧作業に従事した。家族には「行かないで欲しい」と懇願されたが、当時の職場では公共事業の受註が激減、上司に「行かないと辞めて貰うしかない」と言われ、引き受けざるを得なかったという。

現場でのおもな作業は、がれきの撤去。遠隔操作で重機を動かすことを任され、危険な屋外作業には就かなくてもよい筈だったが、重機で集めきれないがれきは直接、手で拾うしかなかった。元請けの大手ゼネコンの所長が率先して手作業にあたることもあり、末端の作業員がそれを拒否できる雰囲気ではなかったという。男性は当時53歳。日常的に放射線を浴びる仕事は、その時が初めてだった。現場の免震棟に掲げられた『命を顧みず来てくれてありがとう』という看板を、9年後の今もよく憶えている。

男性が作業から解放されたのは、累積被曝線量が56mSvを超えた11年10月。その4カ月後、生まれて初めて血尿が出た。翌年6月、地元の病院で膀胱癌の診断。さらにその翌年の3月、東電に促されて癌検査を受けると、胃癌がみつかった。2カ月後の同年5月には、S状結腸癌の診断が下った。3カ所の癌のいずれも、転移ではなく原発性だった。

■冷酷非情な原子力村の代理人

これは労働災害だ――。男性は福島の労働基準監督署に労災を申請したが、労基署の出した決定は「不支給」。被曝線量56・41mSvが労災認定のめやす(100mSv)に達していないことや、被曝から癌発症までの期間が短かかったこと(めやすは被曝から5年後以降)を理由に、被曝と癌の因果関係が認められなかった可能性が高い。この決定を不服とした男性は審査請求(不服申立)に臨んだが、当局はこれを棄却、続く再審査請求も奏功しなかった。

2015年9月、男性は東電などに損害賠償を求める裁判を提起、2年後の17年2月には労災不支給決定の取り消しを求めて国を訴える裁判を起こした。並行して審理が進んだ2件の訴訟では、男性の『線量手帳』で内部被曝量が「0」になっていたことや、現場の放射線教育で使われた教材が原発事故前に作られたテキストだったことなどが明らかになっている。原告代理人の肘井博行弁護士(札幌弁護士会)は、次のように指摘していた。
「事故前に製作された教材には当然、事故原因などに関する記載がありません。内部被曝にもほとんど触れていない。しかも、教育を担当したのは人材派遣業者から送られてきた“派遣講師”だった。放射能の恐さを教えると働いて貰えないから、きちんと教育しなかったのでしょう」

現在も闘病中の原告男性は、自身の裁判の法廷になかなか足を運べなかったが、昨年度に尋問の期日が設定された際には自ら証言台に立つことを決意。その後のコロナ禍で日程が大きくずれ込んだ結果、本年9月になってようやく証言の機会を得た。

膀胱摘出などの手術を受け、64kgから42kgにまで体重が減ったという男性。その痩身に、被告側代理人が容赦なく反対尋問を浴びせ続ける。重箱の隅を突つくようなそれらの質問は、要約すれば「原発作業に関係なく、もともと癌体質だったのではないか」という邪推だ。
――生活習慣の改善を指摘されていなかったか。
――食生活が不規則だったと聴いているが。
――煙草は一日どのぐらい喫っていたか。
――暴飲暴食の上、運動不足だったと。
――飲酒量が多かった筈だが。
――平均睡眠時間は……。

これに先立つ主尋問では、予定時間を超過して質問を続けた男性側の代理人に対し、被告のゼネコン業者代理人が立ち上がって「時間オーバーですよ!」「約束を守れよ!」などと怒鳴り声を上げる一幕が。原告代理人は素直に超過を詫びることになったが、抗議した側の反対尋問を含むすべてのやり取りが終わったのは、予定よりもむしろ1時間ほど早い時刻だった。

弁論後、原告の男性は「言いたいことはすべて言えたと思う」と尋問を振り返りつつ、国や東電、ゼネコンなど原子力村の代理人らの態度には「なぜあんなことが言えるのか、理解に苦しむ」と憤りを隠せない様子だった。原告代理人の高崎暢弁護士(札幌)は「初めてご本人にきっちり証言していただき、被告側も実態を知ることができたのではないか。裁判所にもなんとか理解して貰い、よい判決をいただきたい」と話している。

労災訴訟・賠償訴訟ともに、判決は12月下旬に札幌地裁で言い渡される。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
北方ジャーナル→こちらから

 



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