現職警察官だった一昨年8月から本年5月にかけて盗撮行為を繰り返したとして逮捕・起訴された北海道警察の元巡査(25)の裁判が8月中旬、釧路地方裁判所(水越壮夫裁判官)で結審し、検察側が懲役1年6カ月の実刑を求めた。高校時代から女性の下着などをひそかに撮影する習慣があったという元巡査は、道警に就職後も違法な盗撮行為を継続、本年2月に派遣先の福島県で女湯に侵入して逮捕された。地元の捜査機関は起訴後に元巡査を釈放したが、北海道の実家に戻った元巡査はほどなくして盗撮を再開、5月中旬になって複数の少女のスカート内を撮影したとして再び逮捕、起訴された。捜査の過程では過去の常習的な犯行があきらかとなり、7月にはさらに6件で追起訴、同月中旬に釧路で公判が始まったところだった。当初の侵入事案を含めると、起訴事件は計9件に上っている。
◆ ◆ ◆
元巡査が初めて逮捕されたのは、本年2月8日のこと。当時の福島県警双葉警察署の発表によると、道警機動隊に所属していた元巡査は福島原発の警備に派遣されていた同月初旬、富岡町のホテルの女湯脱衣所に侵入した疑いで逮捕された。県警関係者は当時の取材に「被疑者は犯行を認めていて『性的欲求を満たすためだった』と供述している」とし、逮捕翌日の2月9日に元巡査の身柄を検察へ送ったことを明かした。
のちにあきらかになったところでは、元巡査は脱衣所内の岩盤浴場内に長時間にわたって身を潜め、スマートフォンで浴場ドアのガラス越しに女性の裸体を撮影していた。被害に気づいた女性の1人が声を上げると元巡査はその場から逃走したが、施設内の防犯カメラにより犯行が判明したという。福島地方検察庁いわき支部は2月28日に事件を起訴しつつ、3月3日に元巡査を保釈。身柄を解かれた元巡査は道警を休職した状態で北海道に戻り、札幌の機動隊員寮から釧路市の実家とみられる一般住宅へ居を移すことになった。
その保釈中のさなか、2度目の事件が起きる。元巡査は5月12日、釧路市に隣接する釧路町の商業施設で未成年女性のスカート内を盗撮し、同27日に性的姿態等撮影などの容疑で釧路署に逮捕された。送致先の釧路地検はまず、6月6日付で2件を起訴。容疑は、施設内のゲーム場でプリクラ機を使っていた当時16歳の少女2人のスカート内に動画撮影状態のスマホを差し入れ、それぞれの下着を撮影しようとしたというもの。当初の脱衣所侵入事件を受け、2月の時点で「判明した事実に即して厳正に対処します」とコメントしていた道警は、ここに来てようやく当事者の懲戒処分に踏み切り、6月18日付で「停職6カ月」の処分を決定。元巡査は同処分を機に依願退職し、無職となった。

盗撮事件の捜査を続けていた釧路地検は7月10日、さらに6件の事実で元巡査を追起訴、うち4件は先のプリクラ機を使った別の被害者への盗撮容疑だった。被害者は17歳の少女2人と18歳の少女2人で、先に起訴された件の被害少女を含めると、計6人。脱衣所のケースと同じく、被害者の1人が盗撮行為に気づいて犯行が発覚し、その場から逃走した元巡査の姿が商業施設のカメラに捉えられることになった。元巡査長自身のスマホからも、盗撮行為を裏づける映像が見つかった。
犯行時刻は午後6時ごろ。保釈され、自身の裁判を待つ身でありながら、大胆不敵といえる犯行だったと言ってよい。これだけも充分に驚くべき展開だが、釧路地検の追起訴では過去に遡って同様の行為が立件され、元巡査の盗撮が日常的な習慣として身についていた疑いが濃厚となった。起訴状によれば元巡査は一昨年8月、札幌市の飲食店で22歳の女性の下着の撮影を試み、テーブルの下から動画撮影状態のスマートフォンをスカート内に差し向けた。昨年3月にも同じ目的で、23歳の女性のスカート内にスマホを向け、下着を撮影しようとした。これらの追起訴の翌週に釧路地裁で迎えた初公判で、検察は冒頭陳述を次のように切り出すことになる。
「被告人は、商業施設等においてその性欲を満たすために盗撮を繰り返し、盗撮した動画を見返して自慰行為に及ぶなどしていた」
同日に行われた被告人質問に筆者は立ち会えなかったが、傍聴取材の成果を報じた複数の地元報道によると、元巡査はすべての起訴事実を認めて謝罪したという。盗撮行為には高校時代から手を染め、道警に就職後も警察学校卒業翌年の帯広署勤務時代にその習慣を再開、商業施設に留まらず札幌の道警機動隊庁舎などでも撮影行為を繰り返していたという。
公判は8月18日に結審。釧路地裁の証言台に立った元巡査は「被害者の気持ちを考え、贖罪の念でいっぱい」と反省の弁を口にし、「今後は大切な人たちを裏切らないようしっかりと生きていきたい」と、改めて頭を下げた。検察側は論告で、犯行の悪質性や被害者の処罰感情に言及しつつ、当人の盗撮癖の深刻さについて次のように指摘した。
「起訴後の保釈中という、通常人であれば厳に行動を慎みつつ刑事裁判の判断を待つ立場にあっても盗撮行為を繰り返しており、極めて根深い盗撮癖が窺われる」
「訴因として特定されたもののみで9件もの事実があることに加え、被告人のスマートフォン内には多数の盗撮動画が記録されており、同種事犯の顕著な常習性が認められる」
加えて、現職警察官の犯行には社会的影響も大きかったとし、結論として懲役1年6カ月の実刑を求めた。一方の弁護側は、元巡査に前科前歴がないことや依存症の治療により再犯を防止できることなどを強調し、罰金刑もしくは執行猶予刑が相当と主張した。結審後の取材によれば、地元の釧路地区には元巡査のケースに対応できる医療機関がないといい、元巡査は別の地域で治療を受けることになる可能性が高い。
釧路地裁の一審判決は、9月1日午後に言い渡される。
なお当事者の元巡査は初公判後の7月下旬、再び保釈請求が認められて身柄拘束を解かれ、判決確定前に自由の身となった。その後もスマートフォンを手に地元の商業施設などに出入りしているかどうかは定かでない。
(小笠原淳)
| 【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |















