公明党の連立離脱で現実味帯びる「政権交代」

今月10日、自民党の高市早苗新総裁と公明党の斉藤鉄夫代表が会談。公明党は26年間続いた連立政権から離脱する方針を伝えた。衆参で少数与党となっている自民党は、公明の離脱でさらに苦しい状況に追い込まれている。

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「当初、公明党は毎度のごとくゴネているんだろうと思っていた。7日の連立協議後、いつもと違う感触で『公明党は本気で連立を離れるつもりだ』と気づいた。高市さんも『まさか』と真剣に受け止めていなかったが、離脱に向けた動きに関する情報が流れてきて慌てて対応した。まあ、時すでに遅しだった」と自民党の大臣経験者A氏はそう振り返り、「この人が絡むと政権交代のきっかけになる」と麻生太郎副総裁の名前をあげた。

キングメーカーとして自民党初の女性総裁を誕生させた麻生氏。総裁選直後から取り囲む報道陣に「勝負になっただろう」などと豪語し、高市氏の背後で党人事を自在に操った。

義弟の鈴木俊一氏を幹事長、裏金議員の萩生田光一幹事長代行に就けるなど「影の総裁」といわしめるほどの復活ぶり。しかし、強引な人事が公明党の反発を呼び、連立離脱という衝撃の決断につながった。

自民党が持つ衆議院の議席は196、公明党は24で合計220議席と過半数の233に達しない。自民党は、自公政権にプラスして国民民主党か日本維新の会を与党に引き入れ、過半数をとるつもりだった。しかし、公明が離れてしまった現在、その計算は成り立たない。

一方、148議席の立憲民主党、35議席の維新、27議席の国民民主に24議席の公明党が入れば234議席となって過半数を超える。1回目の投票で過半数に達する勢力がなく決選投票になった場合でも、自民党は196議席しかないので、立憲民主党と国民民主党、維新で210となり勝てない。

首相指名選挙を行う臨時国会は、今月20日もしくは21日の開会が濃厚とみられていたが、どうなるか分からない状況。女性では初となる総理の椅子を目の前にして、高市氏は政権交代の危機を迎えることになった。

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2009年、旧民主党に政権を明け渡した自民党の総理は麻生氏だった。今度は「影の総理」として君臨したとたん、自ら政権交代の危機を生み出してしまった格好だ。

当初、自民党内では公明党との間に「首班指名だけは、高市氏に投票する」という“密約”があるとささやかれていた。しかし、公明党の斉藤代表は「(首班指名選挙では)斉藤鉄夫の名前を書く。高市早苗とはとても書けない」と断言。さらに「閣外協力もない」と突き放した。

公明党はさっそく、「野党国対委員長会談に出席したい」と立憲民主党などの野党に申し入れ。高市氏は土壇場に立たされた。

ある公明党の衆議院議員が、怒りを込めてこう話す。

「自公政権から離れるということは野党になるということを意味する。野党の国対委員長会談に出席させてもらい挨拶するのは当然です。政治とカネの問題はもちろんですが、うちが連立から離脱した最大の原因は麻生さん。『公明党を切ってもいいから、国民民主党を取り込む』という麻生氏の意向に高市新総裁が操り人形のように従い、党人事を決めたからですよ。その象徴が10月5日の高市さんの動き。うちより先に国民民主党の玉木代表と極秘で会談を持った。それも国民民主に太いパイプを持っているという麻生さんの仕掛けでしょう。こちらの堪忍袋の緒が切れたということです」

公明党を支える創価学会の幹部は次のように解説する。

「公明党が重視してきたのは平和と福祉。自民党の右寄りな主張とは相容れないものだったが、政策実現と人間関係で支えてきた。麻生さんが公明嫌いであることは有名ですが、そこも我慢してきた。衆議院選挙、参議院選挙で負けたのは自民党の政治とカネの問題があったから。公明党はずっと改革するよう求めてきたが、最後まで納得できる回答がなかった。最悪だったのは裏金議員の象徴的な存在である萩生田光一氏を幹事長代行にしたこと。これほどまでにコケにされたら支えることはできないでしょう。正直言えば自民党が入らない形の野党政権を目指し、新たに与党入りした方がいい」

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これまで自民党との連立を想定し、高市氏との極秘会談まで行っていた国民民主党の玉木代表は、公明党の政権離脱が報じられた翌日の11日、大阪駅前の街頭に立った。“次の総理”を期待してか駅のコンコースや歩道橋にまで人があふれる中、「高市さんの自民党がやろうとする政策が国民の皆さんにとってプラスなら賛成します。しかし間違ってるんだったら反対します」と述べ、大きな拍手をもらう。「公党の代表として内閣総理大臣を務める覚悟がいつでもあります」と訴えるとその場の興奮は最高潮に達した。

国民民主党の中堅議員は「自民党と組んでも政権与党に入れる確約がなくなった。玉木代表が首班指名で選ばれるなら、他の野党と組み政権をひっくり返すのが筋だ。うちには麻生さんとツーカーな関係にある幹部がいるが、キングメーカーとして強引な手法で高市氏を操る姿には『一緒にやれない』と思っていた議員が多くいたのも事実。自民と組むことはなくなった」と“玉木首相”の誕生に期待を寄せる。

前出の大臣経験者A氏は、「無理だとは思うが」と前置きして声を絞り出した。

「麻生さんは次の衆議院選挙には出馬せず世襲を考えていたようだ。しかし、高市新総裁の後ろ盾となりパワーアップしたことで気が変わってしまい、国民民主党を連立入りさせ、さらに盤石の地位を築こうとしたんだろう。その結果が、政権交代の危機。麻生さんのおかげで高市と自民党はすっかり悪者になってしまった。麻生さんは自ら副総裁を辞め、我が党が下野せずに済むよう事態の収拾に乗り出すべきだ」

しかし麻生氏がそんな声にうなずくわけがない。政権交代が現実味を帯びる中、臨時国会までの時間が令和最大の政局となりそうだ。

 

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