高市発言が招く「存立危機事態」|問われる総理としての資質

 先月7日の衆議院予算委員会。台湾におけるどのような状況が日本にとっての「存立危機事態」にあたるのかと聞かれた高市早苗首相は、「戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースだ」と発言。これに中国が猛反発し、日本への渡航自粛呼びかけや事実上の水産物輸入停止など厳しい対抗措置を打ち出した。文化面でも日本排除の動きが顕在化しており、事態の沈静化が見通せない状況だ。

 この国にとっていいことなど一つもなく、目立つのはマイナスばかり。高市発言で喜んだのは右派の連中だけだろう。発言の撤回を拒否し続けているが、やれ国益だの安全保障だのと叫んでいた高市氏の発言が、皮肉にもこの国に“被害”をもたらす状況となっている。

■誤った「前提」、乏しい軍事知識

 台湾有事を日本の存立危機事態に結びつけた高市発言の裏にあるのは、前提となる事実や軍事に関する理解の浅さだ。高市氏は、台湾有事について次のような構図を描いていたのだろう。

・中国が台湾に武力侵攻。
・アメリカが介入して戦闘に発展。
・アメリカの「戦艦」が中国軍に攻撃される。
・日本はアメリカを助けるため集団的自衛権を発動して戦闘に参加。
・中国は日本を敵とみなし存立危機事態となる。

 中国が武力――特に戦闘艦を用いて台湾を屈服させるような事態が起きるとは思えない。使用するとすればミサイルと航空機だ。仮にそうした事態になったとしても、米国が武力介入する可能性は極めて低い。米国第一主義のトランプ大統領は、他国間の仲裁に乗り出すことはあっても、戦争への道を選ぶとは思えない。やるとすれば、せいぜい中国に自制を求めることぐらいだ。

 高市発言は米軍の戦闘参加を前提としたもので、日本の首相がトランプ大統領の方針を勝手に決めつけたも同然。宗主国アメリカに媚びたつもりが、中国と事を構えたくないトランプ氏には不都合な発言となった可能性さえある。

 では、米国が介入しなかった場合はどうなるか?仮に台湾が中国に攻撃されたとしても、日本は黙って見ているしかない。集団的自衛権の発動要件に当てはまらないからだ。

 日本が集団的自衛権を行使できるのは、《我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること》という要件に合致した場合だけ。日本は台湾を「国」として認めておらず、従って「我が国と密接な関係にある他国」ではない。集団的自衛権の行使は、米国の軍隊が攻撃されたケースのみに限定される。

 ただ、台湾絡みで集団的自衛権の議論がなされるたびに思うのだが、米軍は自衛隊が助けに行かなければならないほど弱いのだろうか?果たしてそんな米軍が本当に日本を守れるのか?高市首相がどう答えるのか聞いてみたい。

 ちなみに、米軍と海上自衛隊は「戦艦」など保有していない。世界中探しても稼動している「戦艦」はない。正確には「戦闘艦」と表現すべきところを「戦艦」と言った高市氏の軍事知識に疑問符が付く。内閣総理大臣は自衛隊の最高指揮官だが、軍事や安全保障のことが分かっていない高市氏には重すぎるポジションだろう。

■漏らした「本音」

 中国は、台湾を自国の一部だとする立場だ。アメリカは十分これを承知しているようだが、高市氏の認識は違う。台湾をひとつの国だと思いたいのだろう。しかし、中国にとって台湾のことは国内問題であり、高市氏の発言は内政干渉に過ぎない。歴代の首相は、そこを踏まえた上で台湾有事について発言してきたが、高市氏はあっさり過去の経緯を振り切った。右派は拍手喝采。「発言撤回の必要などない」「経済で中国に頼るな」といった勇ましい言説が飛び交う。戦争に突き進んだ結果がどうなるのか、想像力を欠いている証拠だ。戦後80年で、この国は堕落した。

 高市首相の歯切れのよい物言いに好感を抱く国民が多いようだが、口が達者な人がやりがちなのが、つい“本音”を漏らしてしまうことである。別件ではあるが、自民党の裏金事件以降、問題視されてきた「政治とカネ」を巡る国会質疑で首相は再び口を滑らせた。企業・団体献金の問題を「そんなこと」と言って切り捨て、「議員定数削減」の話にすり替えたのである。日本維新の会との連立合意で降って湧いたように出てきた議員定数削減は、企業・団体献金の廃止という最重要課題から目を逸らそうとする両党の思惑が生んだ産物。企業献金を守りたい高市氏が、高い支持率に浮かれて本音を漏らしたということだ。「そんなこと」は、自民党総裁選の折に裏金問題を「決着済み」だと明言した姿勢にも通底する。

■危険な右派政権

 高市政権発足後、安倍政権の時以上に政治の右傾化が強まった。国是である非核三原則――(核兵器を)持たず、つくらず、持ち込ませず――の見直し、防衛装備品輸出の全面解禁や防衛分野への投資拡大、スパイ防止法……。いずれも国論が分かれる政治課題だが、高い支持率に支えられている高市氏は躊躇せず実現に向けた動きを加速させる構えだ。そうした中で飛び出した台湾有事と存立危機事態を結び付けた「失言」。首相としての資質が問われる事態と言えるだろう。

 そもそも、日本に求められるのは《正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する》と規定した憲法9条が定めた姿勢。台湾周辺で「有事」が起こらないように最大限の努力をするのが日本のとるべき道なのだが、高市氏ら右派の人々の言動が、逆に「日本にとっての有事」を招きかねない状況だ。高市氏は「有事」を理由に戦争ができる国に向けて突っ走りそうだが、勝算もなく危機を煽る姿勢はまさに戦前の軍部と同じである。国民の生命・財産を守るという使命を負った総理大臣が、自説に拘って混乱を招いたのは事実。この国を「戦争」に巻き込むようなマネだけは御免こうむりたい。「過ちては改むるに憚ること勿れ」というではないか。

(中願寺純則)

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