【ヤジ排除訴訟】力ずくで連行が「犯罪予防」|噴飯ものの道警主張

安倍晋三・前首相にヤジを飛ばすなどして警察に“排除”された市民2人が起こした国会賠償請求訴訟の第7回弁論が2月24日、札幌地方裁判所(廣瀬孝裁判長)で開かれ、被告の北海道警察が一般人を力ずくで連行した排除行為を「犯罪予防のため必要な措置だった」と主張した。排除現場で「雑踏事故」が起こる危険性があったなどと強調するもので、これを受けた原告は「政権批判を排除する目的だったことはあきらか」と、改めて排除の不当性を指摘した。

■人権無視した警察官の行為

これまでの弁論で「ヤフーコメント」などを証拠提出して珍主張を展開してきた道警は今回、安倍前首相に「増税反対」などと叫んだ原告・桃井希生さん(25)への排除行為を正当化するため「原告を睨みつけて不快感をあらわにしていた聴衆がいた」などと主張、桃井さんが周囲の聴衆と衝突する危険性があり「犯罪予防の措置」として排除にあたった、という理窟を持ち出してきた。

弁論後の報告集会でこれに触れた桃井さんは「睨む人がいたから何なのか」と呆れ顔で主張の不自然さを指摘することになる。
「人は一切、人を不快にさせてはならないっていうことでしょうか。公共の場にいろんな考えの人がいるのが民主主義。道警はそれを馬鹿にしていると思います」

原告側はこの日までに、現場には原告のほかにも排除された人たちがいた事実を示し、新たに3人の陳述書を提出している。証言者はすべて安倍政権を批判する声を上げており、警察は狙い撃ちのようにそういう意見のみを排除した可能性が高い。陳述に協力した札幌市の会社員・岩手光雄さん(60)は、報告会に足を運んで排除当日の体験を語った。

「安倍首相が出てきたら当然、ヤジの大合唱になるだろうと思っていましたが、1人『やめろ』と声を上げる人がいただけ。私もそれに続いて『安倍やめろ』と叫んだんですが、すぐに私服の警察官2、3人にギロッと睨まれました。時の政権に異を唱える言論を否定されるなんて、今のミャンマーとどこが違うのか」

同じく年金問題などに言及するプラカードの掲出を阻止された札幌市の山口たかさん(71)は、プラカードが前首相の視界に入らないよう警察官が両手を広げて立ち塞がったと証言する。
「警察官は『危ない、危ない』と繰り返してましたが、何が危ないのか訊くと『車道に出たら危ない』って。その時、たまたま私の姿がテレビカメラに撮影されていたためか、現場の警察官が刑事告発された時には、検察に呼ばれて事情を話すことになりました。そこで調書に署名を求められた時、検察官が計算を間違えて私の年齢を1歳若く記入していたので『間違えないよう、西暦で生年月日を書いてください』と言ったら『あんたは天皇制に反対するのか』って」

■道警トップの証人申請も視野

裁判で道警は、こうした証言に対抗するかのように雑踏事故などのおそれを反覆して主張し続けてきた。だが新しい事実を示す反論は事実上ほとんどなく、今後の争いは双方の証人尋問に懸かっているとみてよさそうだ。報告会で原告代理人らは「現場にいた警察官すべて」を証人申請する考えをあきらかにし、場合によっては警備・公安の責任者や道警トップの本部長の尋問を求めることも検討しているという。

複数の市民が実力で表現の自由を奪われた出来事から、すでに1年半。排除被害を訴える市民が起こした裁判は、早ければ排除3年目の今夏にも証人尋問を迎えることになる。

【首相演説ヤジ排除事件】参議院議員選挙期間中の2019年7月、与党系候補の応援演説で札幌を訪れていた安倍晋三・前総理大臣にヤジを飛ばすなどした市民らが複数の警察官に身体の自由を奪われ、演説現場から“排除”された。被害者の1人は同年12月、地元の北海道警察を相手に国賠訴訟を提起、併せて現場の警察官を特別公務員暴行陵虐などで刑事告訴した(のち国賠原告と刑事告訴人はともに2人に)。翌20年2月、札幌地検は告訴事件で不起訴処分を決定、道警も地元議会で「(排除は)必要な警察措置だった」と報告し、今に到るまで行為の違法性を否定し続けている。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
北方ジャーナル→こちらから

 

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