迷走する新型コロナ対策で落ち込む日本

緊急事態宣言が東京、大阪、京都、兵庫の4都府県に、「まん延防止等重点措置」が7県に発出されたが、新型コロナウイルスの感染拡大は止まらず、収束する見通しは立っていない。頼みのワクチン接種は遅々として進まず、発展途上国並みの接種率に喘ぐ状況だ。「これでオリンピックか!」と政府の暴走に批判が高まる国内だが、菅義偉首相をはじめとする政権中枢には、どうやら現実が見えていない。迷走する政治が招いた現状は――。

■深刻さ増す経済事情

経済への打撃は大きく、飲食店の休業要請が個人消費を5,000億円超押し下げ、失業者が2.5万人増えるとの予想がある。対象地域が拡大したり、期間が延長したりすれば損失はさらに拡大するものとみられている。

感染拡大で業績が悪化した企業は、リストラを加速。東京商工リサーチの集計によると、1~3月に早期・希望退職者を募った上場企業が41社あり、募集人数は前年同期の2.1倍となる9,505人となった。

募集人数が最も多いのは日本たばこ産業で2,950人。次いで近畿日本ツーリストを傘下とするKNT-CTで1,376人、LIXILグループ1,200人と続く。紳士服専門最大手の青山商事は160店を閉鎖、残る約700店のうち約400店の売場を最大で半分に減らす予定だ。また、400人の希望退職を募ったところ、約600人の応募があったと発表している。オリンパスも2月26日、同月に募集した希望退職(社外転進支援制度)について、844人の応募があったことを明らかにしている。

総務省が発表した1月の労働力調査では、非正規の女性は前年同月比で68万人減と、男性(22万人減)に比べ3倍超減少した。外出自粛や営業時間の短縮要請で打撃を受ける飲食や旅行業は、労働者の53%(令和2年)を非正規女性が占めており、雇用を直撃したことが分かる。

内閣府が3月31日に公表した「日本経済2020-21」によると、20年10月~12月期、企業は238万人の余剰人員を抱えているという。

飲食店、ホテルなどサービス業の現場にはこの「実質的失業者」が非常に多い。野村総合研究所が2月に、全国20~59歳のパート・アルバイト就業者6万4,943人を対象に調査をした結果と、総務省の労働力調査を用いて推計したところ、21年2月時点で、全国の「実質的失業者」は、女性で103.1万人、男性で43.4万人であった。

厚生労働省によると今年4月に入社するはずの内定を取り消された学生が、2月末時点で100人いることがわかったという。最終結果が206人だった前年よりも増加ペースが速く、新型コロナ禍の影響とみられている。コロナ禍が、日本経済にとてつもないダメージを与えているということだ。

■お寒い日本

一方、アメリカではバイデン大統領が「5月1日までに成人の希望者全員にワクチンを接種できる体制を整える」と表明。7月4日の独立記念日には「家族や友人と祝える可能性がある」と述べ、正常化の道筋について具体的な日付を示したことで、金融市場ではアメリカの株、金利、ドルが揃って上昇する「トリプル高」が続いている。

日本は欧米諸国に比べて感染拡大がはるかに軽微だったにもかかわらず、成長率は低い見通しだ。G7の中では、深刻なダメージ受けたイタリアの次に低い成長率となり、2022年では最低の見通しになっている。

日本とアメリカの大きな違いはワクチン接種率。ニューヨーク・タイムズがオックスフォード大学のプロジェクトのデータをもとにまとめた世界ワクチン・チャートよると、少なくとも1回のワクチンを接種したアメリカ人は4月23日時点で人口の41%。イギリスは50%に達した。日本は人口の1.2%。2回の接種を終えた日本人は0.7%にとどまり、ラオス、ミャンマー、フィリッピンとほぼ同じ水準。先進国の中では、極端に遅れているのが現実だ。

米英は感染者数や感染死者数では「負け組」だったが、ワクチン接種では先行し、早期のコロナ危機克服と景気回復では「勝ち組」になる可能性が高まっている。逆に日本は「負け組」になろうとしている。

日本は医療先進国だと思われていたのだが、欧米諸国より感染者数がはるかに少ないにもかかわらず、病床不足に陥っている。明確な決断をせずに、重症者用ベッドの使用率が逼迫したと慌てふためき、国民に外に出歩かないようにと呼びかけるだけの場当たり的な対応で、国民は行動を縛られて迷惑している。「もっと頑張れ」「気を引き締めろ」という根性論を掲げるだけでは何の解決にもならない。感染拡大防止のために「通勤も含め、東京に来ないで」と小池都知事は訴えたが、何をしたいのか全く理解できない。

日本では新型コロナウイルスの感染者数も死亡者数も少ないので、こんな頼りない政治であっても支持率が落ちない。もし英国やEU諸国のような事態に陥っていたら、今の自民・公明両党は政権を失っていただろう。不幸なことに日本では受け皿となる野党が存在しない。

■ワクチン接種の問題点

菅首相は4月の日米首脳会談後、9月までに国内のすべての対象者に、新型コロナウイルスワクチンが供給される「めどが立った」と発表した(実際にはファイザーも米国内でワクチンが余り始めたので、誰かに売りたいと思っていたところに菅首相がやってきて「欲しい」と言うので「いいカモが来た」と思ったのだろうが……)。だが、これでワクチンは安心と言えるのか?

接種の円滑な推進と、それとセットでの接種記録の管理が重要となるが、残念ながら、厚労省が開発した「ワクチン接種円滑化システム」(V-SYS)は名ばかりで、単なるワクチン配送システムと揶揄されている。肝心な接種記録の管理が組み込まれていないためだ。マイナンバーカードとの紐づけも発表されたが、結局頓挫している。

菅政権は、「デジタル化」を経済成長の中核に据えたのだが、接種の管理は実際、昭和時代と変わらないアナログ方式で、本人任せとなっている。各自治体から個人に対し紙ベースのクーポンが送付され、接種を受けたかどうかや接種回数も本人しかわからない。政府は「ワクチン接種記録システム」の開発に乗り出したというが、当面は手入力に頼るしかない。

その他にも物理的な問題がある。厚労省の「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き」の集団接種会場の具体的イメージでは、1会場2列体制で、予診に医師2人、接種に看護師2人、薬液充填・接種補助に看護師2人、接種後の状態観察に看護師1人を想定。合計、医師2人、看護師5人が必要になる。この想定では、1会場1日280人しか接種できない。

集団接種会場に、病院や診療所から医師や看護師を大量に派遣する余裕がないことから、全国に3,600万人いる高齢者に2回の接種を行うには4ヶ月近くかかるかもしれない。高齢者の後には、一般人の接種(約7,200万人×2回=1億4,400万回)が控えている。さらに今後、12~15歳も接種対象になるとみられている。ワクチンの効果が1年程度しか持続しないとすれば、大部分の国民が接種し終わるのが来年の夏頃となった場合、また同じように接種体制を確保しなければならないが……。

■無策の菅政権

そうした中、政府は接触を拡大させるGo Toキャンペーンという政策に、2回の補正予算と予備費を合わせて約2.7兆円という予算を充てた。自民党の二階俊博幹事長は4月4日放送のBSテレ東の番組で、新型コロナウイルスの感染状況に留意した上で、停止中の観光支援事業「Go Toトラベル」を再開すべきだと発言。再開により、感染拡大のリスクが高まるのは悩ましいが「恐れていたら何もできない。みんなが家に引きこもっていたら、日本の経済が止まってしまう。経済効果がある」と述べた。どう考えても政府のコロナ対策は基本的なところで間違っている。緊急事態宣言の発出と解除を繰り返すのでなく、一刻も早くワクチンを確保し、接種できる人を拡大するべきなのだ。

順調にワクチン普及が進めば、2021年後半には落ち込んでいた需要の大部分は次第に回復するという予測もある。日本経済研究センターが経済予測を集計したESPフォーキャスト調査(2021年3月調査)でみると、来年初め頃には実質GDPがコロナ前の水準を回復する見通しとなっており、昨年中頃の見通しに比べて景気回復のスピードが大きく速まるとされている。

ワクチンを巡る日本の課題は、医療制度を含めたグランドデザインを描くリーダーがいないことだ。変異株の広がりで感染状況が悪化している現在、眼前の疫病危機は対症療法で切り抜けられるようなものではない。リーダーの強い決断力が必要なのだが、菅首相から明確な政策を聞いた人はいない。

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