元財務官僚が提示する新型コロナ不況の処方箋(上)

幕末から明治維新期にかけての回天事業で主役となった、薩摩藩の財政を立て直したことで知られる家老・調所笑左衛門。その7代目である調所一郎氏が仕掛け人となってまとめられたのが、経済関係者の間で評価の高い「永久国債の研究」(光文社)である。主論文は調所氏の勉強会仲間で、当時現役の財務省キャリア官僚だった松田学元衆議院議員によるものだが、今回のコロナ不況と言うべき状況への処方箋も含めて、松田氏がHUNTERに提言を寄せた。

■「ふくらし粉」いっぱいの緊急経済対策

史上最大の規模と銘打った今回の政府の緊急経済対策は、事業規模が108.2兆円から117.1兆円へと増額修正されました。しかし、本当に国家存亡の時における「緊急」の対策なのか、疑わざるを得ない内容だと言うしかありません。

大蔵官僚だった私も、幾度となくこうした経済対策に関わってきたのですが、そのたびに、政府はその規模を実際に無償資金として支出されるリアルマネーより過大に見せる操作を行なってきました。今回は、“ここまでやるか!”と驚くほどの「ふくらし粉」がいっぱいの対策です。

リアルマネーとは、政府が財政支出を追加する補正予算の規模ですが、最初は4月7日に決定された16.8兆円でした。その段階では、家計への給付金は日本の全世帯のうち4分の1に限定して各々30万円を配布するというものでした。

しかし、いまの事態に求められるのは、国民が安心して外出自粛ができるよう、一日も早く全国民にお金を届けることであり、平時の発想を超えた有事対応が必要な局面です。

アメリカは早々と、富裕者を除く全国民に、大人であれば一人当たり約13万円になる給付を決めていました。その対策の規模は全体で約220兆円、ほとんどがリアルマネーです。

一方日本では、財政規律を気にする財務省が渋ったのですが、結局、安倍総理は自民・公明の両党から突き上げられて全世帯一律10万円の給付へと舵を切りました。閣議決定された補正予算を修正するという、前代未聞の出来事です。

30万円という最初の案に両党内部からは、「これで本当に政治的にもつのか」と懸念する声が上がりました。国民からも不評でした。財務省も首相官邸も、国民感情と政治の動きを見誤ったといえるでしょう。

修正後の事業規模は117.1兆円。補正規模のリアルマネー25.7兆円との差額は91兆円以上で、事業規模の8割近くにものぼります。その91兆円の中身は、なんと、昨年度に決定された経済対策の未執行分とか、税金や社会保険料の支払い延期(これは免除ではありません)、あるいは信用保証枠の追加(これは実際に必ずお金が国から支出されることになる金額ではありません)……等々で、もちろんこれらも必要な対策ではあるのですが、数字上は「ふくらし粉」なのです。

給付金を一律10万円としたことで国債の発行はさらに8.9兆円増えますが、こうした有事の際にも、財務省は国債の追加発行を抑えたいという平時の発想で臨んだのでしょう。古巣の財務省には悪いのですが、今回の緊急事態で国債発行を数兆円渋ることに、どんな意味があるのか、聞いてみたいものです。

■今だからこそ「国債発行」

そもそも、なぜ国債を大量に発行するといけないとされているかというと、短期的には金利の急上昇を招いてしまうからです。ですが、よく考えてみれば、いまの局面は国債を増発しても、経済や財政に弊害が起きる状況ではありません。アベノミクスのもと、すでに日銀による異次元の金融緩和政策が7年も続いている状況だからです。その流れで、増発された国債は日銀が買うだけのこと。金利は上がりませんし、2%インフレ目標に向けて日銀をサポートすることにもなります。

この7年で日銀が保有する国債は360兆円も増えています。年間で80兆円も国債を買っていた年もありましたが、インフレ目標達成の目途は未だに立たっていません。

現状では20兆円程度まで年間購入額は減っていますから、80兆円との差額の60兆円まで、国債増発の「枠」があるようなものです。そこまで買ってもインフレで困る懸念などありません。新型コロナウイルスが深刻な不況を招いている今だからこそ、国債発行なのです。

つづく

松田 学 

松田 学:まつだ まなぶ】

未来社プロデューサー 松田政策研究所代表、元衆議院議員

経歴:東京大学経済学部卒業後、大蔵省に入省。西ドイツ(当時)留学、洲本税務署長、大阪国税局査察部長、成田税関支署長、内閣官房内閣審議官、大蔵本省課長、東京医科歯科大学教授、(独)郵貯簡保管理機構理事等を経て、2010年国政進出のため退官。2012年~14年衆議院議員、内閣委員会理事、次世代の党政調会長代理等。その後、東京大学大学院客員教授等を経て、現在は、松田政策研究所チャンネル等を中心に政策提言・発信活動に携わるほか、会社社長、団体役員等としてITや革新素材など未来の社会づくりに向けた様々な事業活動を展開。

【主な著書】「競争も平等も超えて」(財経詳報社、08年)、「永久国債の研究」(共著、光文社、09年)、「TPP興国論」(kkロングセラーズ、12年)、「ニッポン興国論」(kkロングセラーズ、12年)、「国力倍増論」(創芸社、14年)、「サイバーセキュリティと仮想通貨が日本を救う」(創芸社、18年)、「米中知られざる『仮想通貨』戦争の内幕」(共著、宝島社、19年)、「いま知っておきたい『みらいのお金』の話」(アスコム、19年)等多数。
【ホームページ】http://matsuda-manabu.jp/
【ブログ】http://ameblo.jp/matsuda-manabu/
【E-mail】(松田政策研究所)matsuda@yd-con.com
【松田政策研究所ホームページ】https://matsuda-pi.com/index.html
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