鹿児島市内の公立小・中学校に通っていた3人の子供たちが、いじめ防止対策推進法が規定した「重大事態」にあたるいじめを受けていたにもかかわらず、学校と教育委員会によって真相を歪められ、転校や通学校区の変更を余儀なくされていた。
隠蔽の背景にあるのは、保身に走り、いじめを「解消した」とする虚偽の記録を残した学校と市教委の醜い姿勢。人を教え、導く立場の人間とは思えない悪魔の所業に、被害を受けた子供たちの保護者は怒りと不信を募らせる。では、その市教委が設置した第三者委員会や、地域社会のトップリーダーである市長や知事に何を望むのか――3人の保護者に聞いた。
■第三者委員会、市長、知事に望むこと
学校や市教委が信用できないことは、私たちの取材でも明らかになっています。市教委は、存在する文書を屁理屈付けて『ない』などと平気で嘘をつきますし、文書の隠蔽も当たり前のようにやっています。課長をはじめ幹部職員が居留守を使うことは、皆さんも経験されているようです。このとんでもない組織が設置した第三者委員会が、報道を機に「重大事態」となった一連のいじめを検証しているのですが、要望したいことがありますか?また、鹿児島市長や知事に望むことがあれば、教えて下さい。
Bさん:第三者委員会の人たちにはどこを目指すのかを決めて、最終的にどういう風にしたいかという思いをみんなで共有しながら、しっかり手順を追ってやって欲しいなという思いがあります。それから、市や県にお尋ねしたいことは、教育委員会は必要なのかなということ。機能しない組織が必要なのかどうかということです。
広島のある女性が校長先生まで勤められて、自分の現職の時期から“市教委っていらないんじゃないかな”って思っていたそうで、退職後に教育長になられてから自分で学校に足を運んで、ちゃんとこういうことが守られているかとか様々なことを確認しているということでした。現場の学校の先生たちも、市教委も、もっと勉強して欲しいですね。それと、教育委員会には、他の分野の優秀な人を連れてくるべきだと思うようになりました。
いじめ防止対策推進法ができたきっかけの大津のいじめの第三者委員会には、有名な尾木ママ、尾木直樹さんが入っていました。だから、そういう方はどうやったらやってくるのかなって。どういう手法で呼んでいるのかなって。呼べるなら呼んで欲しいって思います。
Cさん:箇条書きみたいになりますが、考えてきたので読み上げますね。
・息子の楽しい人生を返して欲しい。
・息子の将来の人権を守って欲しい。
・子供の笑顔を返して欲しい。
・鹿児島の学校生活に不安を感じることなく、どこの中学校・高校に登校しても安心して笑顔で楽しく過ごせる状態を作って欲しい。
・息子が、学校の教職員に笑顔で会える状況を作って欲しい。
・信頼できる教職員のいる学校を紹介して欲しい。
・娘の楽しい中学生活を返して欲しい。
・加害者親子への責任追及。
・家族全員が、今回の苦しい思いを1日も早く忘れて、心から笑える日が訪れるよう最善を尽くして欲しい。
・重大事態の認定を怠っていた学校の管理職、市教育青少年課課長、教育長の処分を考えて欲しい。
――以上です。Aさん:今の第三者委員会が機能しない場合は、いじめ防止対策推進法の規定に従って市長部局で新たな第三者委員会を設置し、改めて調査してほしいと思います。その上で、いじめが起きた当時の担任、学校、市教委に対して指導を行い、再発防止を図ってほしいですね。これによって、鹿児島市をはじめとする鹿児島県の子どもたちが、安心・安全の環境の中で成長できる環境を作っていただきたいと願っています。
2時間余りにわたったインタビューを通じて分かったのは、いじめを受けた子供たちはもちろん、その子らの保護者も悩み苦しみ、時に絶望を感じながら理不尽と戦ってきたという現実だ。「理不尽」とは、いじめを訴えても正面から向き合おうとせず、加害者による形だけの謝罪で事を済ませ、「いじめは解消」と虚偽の記録を残して幕引きを図った教員や市教委の行為や、その結果、被害者が転校や通学校区の変更を余儀なくされたことを指す。何度も述べてきた通り、理不尽を招いているのは、いじめられた子供ではなく自分たちの立場や将来を優先する愚かな教員や教育委員会の職員だ。だから、ハンターの報道が始まるまで、鹿児島市内で起きた何件もの「いじめの重大事態」は隠蔽されていた。
実は、こうしたいじめの隠蔽は、鹿児島市教委に限ったことでなく、県内自治体すべての教育現場で起きていると考えられている。ある県の教育関係者は、「大きな声では言えませんが」と断った上で、こう話す。
「ハンターの県教委への情報公開請求で明らかになっているように、少なくともこの5年間、県にはいじめの重大事態は報告されていませんでした。『0件』ですよね。あり得ないと思っています。ハッキリ言いますが、市町村の教育委員会で、本来首長や県教委に報告すべき事案が、止まっているということです。言葉を変えれば“大規模な隠蔽”。今回のように報道でいじめの実態があぶり出されれば、次から次へと重大事態が出てくるはずです。鹿児島のこうした現状は、「いじめ防止対策推進法」や「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」が求めるいじめ根絶の方向性とは合致していません。ご指摘のように、教員免許を持った者どうしのかばい合いや、教育委員会の機能不全があることは確か。教育界には、新しい風が必要なんです」
“大規模な隠蔽”という教育関係者の話を裏付ける事実がある。福岡市教育委員会への情報公開請求を通じて確認したところ、平成30年度から令和2年度までの3年間に、市内の公立小・中学校で起きた「いじめの重大事態」は疑いも含めて6件。鹿児島県全体で、5年も6年も重大事態が1件も発生しなかったという話が、いかに現実味のないものか分かる。では、鹿児島県のいじめ対応は、どこが間違っているのか――次週の配信記事で、詳しく検証していく。
(以下、次稿)