腐敗した鹿児島県教育界の隠蔽体質が、数々の“いじめ”を放置し、被害を拡大する原因になっていた。
今年になって、次々と明らかになった鹿児島市内の公立小・中学校で起きた「いじめの重大事態」が、当該校と鹿児島市教育委員会によって隠されていたことは報じてきた通りだ。
学校や市教委が優先してきたのは、子供ではなく自分たちの立場。市教委が設置した第三者委員会が検証している3件のいじめ事案に共通する、「いじめが解消」したという虚偽の記録こそが、その証拠である。その点について、いずれの被害者家族も怒りを隠そうとしない。
■「解消」されなかったいじめ
――残されていたいじめの報告書によれば、学校も市教委もきちんと対応したことになっていて「いじめが解消」と記載されていました。本当にいじめは解消していたのですか?
Bさん: とんでもない。解消していません。だからこそ、中学にあがる時点で、学区変更の申し出を余儀なくされたんです。市教委からは、学校が変わったから、いじめがやんだと言われましたが、『それは違うでしょ!』と言いたいですね。
Cさん:県外の学校に転校し、加害者と離れたことで、いじめの行為から逃れられただけで、いじめは解消されていません。よって、いじめの解消の定義は成り立っていない。そもそも、加害者側の言動や行動に、反省した様子は見られませんでしたから。学校や市教委は、ふざけているとしか思えません。
Aさん:いじめが解消しなかったため、やむを得ず転校を申し出たのです。報告書に「解消」とあったのを見て唖然としました。酷いでっち上げです。うちの子供は、転校後にようやく教室で授業を受けられるようになり、今は元気に高校に通っています。しかし、転校後も元級友に街で睨みつけられたりすることがあったため、今でもあまり外出したがらないのです。いじめが解消していれば、そんな思いをすることはなかった。学校や市教委には、憤りを感じます。
各校が学期ごとに市教委に提出している「いじめの実態報告」には《いじめの現在の状況》について記入する欄があり、実情に応じて次のように4つに区分するようになっている。
・ア いじめが解消しているもの
・イ 一定の解消が図られたが、継続支援中
・ウ 解消に向けて取組中
・エ 他校への転学、退学等
3件のいじめはいずれも解消していなかったが、報告書には「ア」(いじめが解消しているもの)と記載されていた。明らかな虚偽だ。特に伊敷中のケースは学期途中で転校を余儀なくされており「エ」(他校への転学、退学等)であったことは疑う余地がない。
継続していた陰湿ないじめを止めることができなかったにもかかわらず、解消したとして「終わったこと」にした学校と市教委――。全国でいじめが事件化する度に繰り返されてきた、教育現場の「隠蔽」と同じ構図だ。
保身に走った学校や鹿児島市教委は、いじめを助長し、被害者を増やしている元凶といえるだろう。では、学校や市教委の不作為によって、いじめの被害を受けた子供たちはどうなったのか――。
■いじめ継続で転学、学区変更
――いじめが継続した結果、皆さん方のお子さんは登校できなくなったり、特別教室での自習を余儀なくされるなど大変な事態になっていました。その結果、どうなりましたか?
Bさん:重大事態だと訴えているのに、学校も市教委も無視。何もしてくれない。子供は、卒業まで必死でがまんして、中学校に上がる時点で、学区変更を申し出ました。いじめが続いている以上、加害者と同じ中学には通えませんから。
Cさん: 日常生活はもちろん、将来にわたって支障をきたす可能性が高いけがを負っているというのに、加害者本人やその保護者が誠意を見せることも、自ら謝罪することもありませんでした。うちの子供の精神状態は時間と共に悪化し、恐怖心が増すばかりになっていました。学校や市教委は加害者を指導することもせず、うちの子供に『別の学校に行け』という始末。進級しても「いじめは解消されない!」と確信して、やむを得ず県外の学校に転校しています。
Aさん:いじめが解消しなかったため、学期途中でしたが、やむを得ず転校を申し出ました。転校後は、教室で授業を受けられるようになり、今も高校に元気に通っています。しかし、転校後も元級友に街で睨みつけられたりすることもあったこともあり、今でもあまり外出したがりません。いろいろ気を遣って過ごしているというのが実情です。
3人の保護者の話から見えてくるのは、いじめの加害者が野放し状態になっているため、被害者がびくつきながの暮らしを余儀なくされているという現実だ。学区変更で環境を変えても、いじめの記憶はなくならない。トラウマが長く子供を痛めつけるという事実を、教育関係者は肝に銘じるべきだろう。
そもそも、いじめの加害者が罰も受けずに学校に残り、被害者が本来の通学校を変更させられるというのは理不尽極まりない話だ。いじめが犯罪行為である以上、大人の犯罪者が裁かれて社会から隔離されるように、反省しない子供にこそ別の学校に移すなどの処分を下すべきではないだろうか。
■学校、市教委に言いたいこと
――3つのケースで共通しているのは、いじめの訴えにきちんと向き合わず、場当たり的に解決しようとした学校や市教委の姿勢です。Bさんは、明確に「重大事態」だと申し立てたにもかかわらず、一顧だにされなかった。AさんやCさんのお子さんも、事態が悪化して学区変更や他県の学校への転校という道を選ばざるを得なかった。先ほどの話でも出ましたが、学校や市教委がは「解消した」と虚偽の記録を残していました。彼らに対して言いたいことは?
Aさん:担任と校長、そして市教委のいじめに対する対応は法令に違反しています。担任がいじめに対応しない場合、校長が指導すべきですが、校長も指導しなかった。その場合、市教委が指導すべきですが、市教委も指導しなかった。さっきからの話の通り、個人情報開示請求で分かったことですが、中学校は市教委に「いじめが解消した」という嘘の報告を行っていました。
一方、市教委もいじめが解消していないことを申立書で知っていたにもかかわらず、今年6月の教育委員会定例会や8月の市議会閉会中審査に対して「いじめは解消した」という嘘の報告書を出しています。
私たちは、第三者委員会での調査の様子を確認したくて情報開示請求をしましたが、市教委は現在までのところ、必要以上に黒く塗りつぶされた書類しか開示していません。市教委が、調査を妨害しているとしか思えない。当時の担任、学校、教育委員会は、私たち被害者に寄り添うどころか、さらに痛めつけてきているんです。第三者委員会による調査については、期待している一方で、市教委のつくった委員会であることから、果たして機能するのかという懸念もあります。
Cさん:長くなってもいいでしょうか?(全員同意)
短く言うと、ショック、騙され続けていた、裏切られた、最低な対応、誰も信頼できない――ということです。学校や市教委が、「当たり前のこと」を「当たり前の時期」に「当たり前にしなかった」ことにより、私の子供は大きな傷を負っています。早い時期に「重大事態」であることを認めて学校が動いていたら、被害はもっと少なかった。つまり、いじめ防止対策推進法や重大事態に関するガイドラインは全く守られていないということです。
相談を重ねても、その後の対応は全くなし。つまり相談したこと自体が無駄だったということです。この際、市教委の青少年課の業務内容をすべて公開し、いじめ事案の相談内容等の報告書に押印・決裁した理由や意味を明らかにして欲しいと思います。「いじめが解消」で決裁印が押されている以上、責任は、教育長や青少年課課長が取るべきでしょう。なのに、謝りもしない。
12月2日に市教委から「重大事態に認定するような事案」と報告を受けたのですが、「認定するような」ではなく、「重大事態に認定する」と報告するべきです。市教委はどんな指導をしているのでしょう?
今年の6月14日に開かれた市議会での教育長の答弁「いじめの解消は教職員の力量による」は、鹿児島市教育界のトップの言葉とは思えないお粗末なものでした。自分たちには責任がないという逃げ口上。本当に腹が立ちました。
2018年から2020年にかけて起きたいじめの事案が、2021年になって次々に重大事態と認定されるという異常な事態ですが、それは教育長の責任だと強く言いたい。「いじめが解消できなかったことは、教育長の私の責任が大きい」と答弁して欲しかったですね。本当に残念です。
市議会での教育長の答弁にも呆れました。「特にいじめられている側の生徒、保護者の心情に立った対応がなされていないことを大変遺憾に思う」――。そっくりそのままの言葉を、教育長、青少年課課長に返したいですね。
Bさん:なんか、Cさんが全部言ってくれたという感じです。私はいじめが顕在化した時点で、「重大事態」であることを、学校にも市教委にも訴えていました。それが「解消した」……。いじめ防止対策推進法やガイドラインも必死で勉強しましたが、それを守らなければならない学校や市教委が無視したことが許せません。報道があったとたん、「重大事態でした」……。学校や市教委を信用しろという方が無理でしょう。市長が代わっていなかったら、また隠蔽されていたかもしれませんね。伊敷中の問題で、再検討を指示された下鶴(隆央)鹿児島市長には本当に感謝しています。
(以下、次稿)