ヒグマ駆除ハンターが全面勝訴|銃所持取り消し「著しく妥当性欠く」

自治体の要請でヒグマを駆除したハンターが地元公安委員会から銃所持許可の取り消し処分を受けた問題で17日、同ハンターが処分を不服として公安委を訴えた行政訴訟の判決言い渡しがあり、札幌地方裁判所(廣瀬孝裁判長)が当初の処分を取り消す判断を示した。有害獣駆除のあり方を問う裁判は事実上ハンター側の全面勝訴となり、原告の男性は「多くのハンターにとって朗報」と地裁判決を高く評価した。

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昨年5月に北海道公安委員会を相手どる裁判を起こしていたのは、北海道・砂川市の地元猟友会支部長・池上治男さん(72)。本サイト既報の通り( https://news-hunter.org/?p=3750 )、池上さんは2018年8月に市の要請でヒグマを駆除し、その2カ月後に突然、鳥獣保護法違反などの疑いで捜査を受けた。事件そのものは不起訴に終わったが、調べにあたった北海道警砂川警察署(のち滝川署に統合)は池上さん宅からライフル銃など4丁の猟銃を押収、翌19年4月に道公安委が銃所持許可の取り消し処分を決めた。これを不服とした池上さんは公安委に審査請求を申し立てたが、同委は昨年4月に請求棄却を決定、池上さんは同5月に今回の裁判を起こすに到った。

当初の処分時から提訴後の今日に到るまで、道公安委と道警は池上さんの発砲行為を違法と主張し続けている。いわく、「建物の方へ向かって撃った」――。駆除現場でヒグマめがけて発射された銃弾が、付近の民家に当たるおそれがあったというのだ。しかし現場には高さ約8mの土手があり、これが狩猟時の「バックストップ(弾止め)」となったのはあきらかで、警察や公安委のいう「建物」は土手の上を走る車道のさらに上方に建っている。当時の砂川署はこの8mの高低差を無視し、現場を真上から見た「平面図」を根拠に駆除行為は違法だったと論を張り続けたのだ。なお、すでに本サイトで繰り返し報じた通り、当時の現場に立ち会った警察官は池上さんの発砲を制止せず、駆除が行なわれる前提で周囲の人払いにあたっていたことがわかっている。本年10月の証人尋問では、被告側証人として出廷した同警察官が改めてその事実を認め、「駆除は適切に終了した」との証言を残したところだ。

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札幌地裁の廣瀬孝裁判長は昨年10月、現場の高低差を確認するため自ら現地に足を運び、異例の「検証」を行なっている。この時の調査が今回の判決に影響した可能性は小さくないとみられ、廣瀬裁判長は17日の言い渡しで被告側の「建物に向かって撃った」主張をばっさり斬り捨てることになった。

《原告が発射した弾丸については、本件ヒグマから逸れたりすることもなく、これに命中したものである。またこの弾丸がヒグマの身体を貫通し、さらに跳弾してどこかへ飛んだような事実を窺わせる証拠もみあたらない。そもそも原告が発射した弾丸が現場付近の建物に当たったとか、その建物を損壊させたなどといった事実は、本件証拠上まったく認められない》(判決理由)

これに先立つ主文で廣瀬判事は、公安委の処分を「取り消す」と明言、池上さん全面勝訴の結論を言い渡した。のみならず、仮に今回の駆除で法令違反にあたるような行為が疑われたとしても、当局が猟銃を取り上げるのは「著しく妥当性を欠く」と指弾、公安委の判断を「違法」と言い切った。

《仮に原告の発射行為が鳥獣保護法・銃刀法に違反したものと判断する余地があるとしても、これを理由に本件ライフル銃の所持許可を取り消すというのは、もはや社会通念に照らし著しく妥当性を欠くというべきであって、裁量権の範囲を逸脱し、またはこれを濫用したものと言わざるを得ない。従って、本件処分は違法となるものというべきである》(同上)

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言い渡し後、池上さんは「私の言いたいことを裁判長が代わりに言ってくれた」と評価。地裁判決を「当たり前の結論」と受け止めつつ「多くのハンターにとっても朗報」と歓迎した。代理人の中村憲昭弁護士(札幌弁護士会)は、判決が指摘した「裁量権の濫用」を改めて深刻視し、そこに斬り込んだ裁判所の判断を高く評価している。

「行政の裁量権は非常に幅広く、よほどのことがないと裁量権の逸脱・濫用は認められません。銃刀法などの場合、『抽象的危険』を盾にいくらでも処罰できる。それで無力感を覚えることもありますが、今回は『著しく妥当性を欠く』との結論でした。池上さんの発砲行為への謙抑性を認め、緻密な判断をしていただいたと思います」(中村弁護士)

一方、判決が今後のヒグマ駆除に与える影響については「必要条件だが必ずしも十分条件ではない」と池上さん。裁判をきっかけに改めて地元自治体・北海道・警察の3者が協議の場などを設け、ハンターへの駆除要請のあり方を考えるべきと呼びかけた。判決後の記者会見に同席した道猟友会砂川支部の山岸辰人・奈井江部会長(69)は、現在の駆除をめぐる猟友会への「丸投げ」状態について、次のように苦言を呈している。

「池上さんの件があった後も、ヒグマは出続けています。昨年、砂川市内の養鶏場に出没した個体を箱罠で捕獲した時、市・道(空知振興局)・道警・猟友会の4者で対応を話し合ったんですが、銃による駆除の是非について警察は何も具体的な方針を述べず、ただ『何かあったら逮捕しますよ』と。これではとても撃てないですよ」

銃による駆除再開のための「十分条件」は、むしろ判決確定後の当局の対応にかかっていると言ってよい。

被告の道公安委は、現時点で控訴の意思の有無をあきらかにしていない。地裁判決を受け、当時の駆除要請を出した砂川市、及び公安委の事務を担当する道警は、それぞれ次のようにコメントしている。

《正当な行為が認められてよかった。これまでの3年あまり、池上さんには不自由な思いをさせて申しわけなく思っている》(砂川市農政課)

《このたびの判決内容を精査し、今後の対応を検討して参りたい》(道警本部広報課)

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

 

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