今こそ「米百俵」 ― コロナ禍で問われる大学と国の姿勢 

『困窮学生救え 大学動く』――今月1日の西日本新聞夕刊、1面の見出しに違和感を覚えた。

記事は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴ってアルバイトの収入などが減った学生を支援するため、全国各地の大学が独自の支援策を打ち出しているという内容。あたかも大学側が積極的に学生第一の対応をとっているかのように感じる見出しだが、「学生ファースト」ではなく「経営優先」としか思えないケースがあるからだ。

個々の学生の窮状と、きちんと向き合っていない大学もあり、同じ紙面の中ほどにある『「退学検討」2割超』という記事こそ、現実ではないだろうか。

■後手に回った大学の対応

学生団体「高等教育無償化プロジェクトFREE」(以下、FREE)が、4月9日から21日にかけてインターネットで実施したアンケート調査によれば、当初13人に1人の学生が「経済的理由で大学中退を検討している」と回答していたものが、その後2割にまで増えたとしており、学生を取り巻く状況は悪化するばかりとなっている。

先月22日の中間報告の時点で、「家族の収入が減った・なくなった」と答えた学生は約4割。バイト代を生活費や学費に充てている人はおよそ8割で、収入が途絶えた学生は国や大学の支援に頼らざるを得ない状況になっている。

FREEは政府に対し、全国の大学で一律に授業料半額免除とすること、遠隔授業化に伴う費用の補填などを講じるよう緊急提言を行ったが、関東地方の大学では独自に学内で学費免除を求める署名活動も行われているという。

冒頭の新聞記事にあるように、全国の国公立・私立大学が相次いで学生への支援策を発表しているのは確かだ。しかしこれは、学費半減などを国に訴えたFREEなど学生側の動きが顕在化してからのこと。詳細を調べてみれば、「形ばかりの弥縫策」(福岡市内の男子大学生)としか思えない対応も目立つ。

福岡県内の大学は、学生の窮状を前にどう動いてきたのか――学費の取り扱いなどについて県内の主な大学に取材した結果は、次の通りだ。

県内の主要大学は4月末に慌てて対応策を発表したが、緊急事態宣言が発令されてから既に3週間以上経っており、学費納入期限ぎりぎりにアリバイ作りを行った形となっている。

まず学費については取材した6校のうち九州大学以外の5校が、延納を認めていた。最も長期にわたる延納を認めているのは、福岡工業大学で10か月。久留米大が4か月、九産大が約1か月半、西南と福大は1か月となっている。

■声を上げる学生や親たち

問題は、学費の延納を認めることを公表したタイミングである。九産大は4月21日と早かったが、残りの5大学はすべて月末。ほとんどの学生が、学費を納めた後だったとみられている。学費の工面に困る学生や親たちへの配慮は、微塵も感じられない。福大に至っては納入期限の30日に方針を公表しており(下の画面参照)、不親切な対応が目立った。

複数の子供を福大に通わせてきたという福岡市の会社経営者は、次のように話す。
「最後の子が4年生なんですが、福大の対応にはがっかりしてます。大学が入構を禁止したのは、新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が出た4月の7日。で、その7日に学費の納付書が送られてきてました。学費の納付書はスケジュール通りに送っただけでしょうが、どうにも間が悪かった。それ以来、うちの子は新学期になって一度も学校に行っていない。仕方がない状況ですが、授業は受けられない、理系の学生なんかは実験ができない、もちろん食堂などの利用もできない――。学費の中には施設利用料も入っているはずですから、当然学費の減額があるものと思っていました。でも、なしのつぶて。仕方がないから満額払いましたが、納入期限の30日になって、いきなり「支援策」だといって方針を発表した。『なんだ、これ』って感じですね。福大の経営陣は、学生の方を向いていない」

西南学院大学に通う女子学生は、大学がやるべきことと国の責任とを分けた上で、こう批判する。
「施設利用ができないのだから、授業料の額も考えるべきです。大学側は貸付や奨学金を用意してくれたようですが、その金額で根本的な問題が解決するとは思えません。やはり、授業料の減免をすべきです。ただ、学費や学生の暮らしの問題は、大学ではなく国が責任を持つべきで、大学側だけに無理をいうつもりはありません。大学側が良くなかったのは、授業料の納付期限ぎりぎりに延納を認める発表をしたこと。これは、もっと早くすべきだった。不親切との批判は、出るでしょうね」

各大学には「施設使用料」の考え方についても確認したが、いずれの大学も「年間通じた施設維持費用」「遠隔授業で大学の負担増」などとして、減額には応じない構えだ。代わりに打ち出した支援策も、本当に困っている学生には“焼け石に水”でしかない(下の表参照)。

コロナ禍の影響を受けた学生に対する大学側の支援が、後手に回っていることは否めない。学費納入期限ぎりぎりになって、ようやく延納を認めることを公表する姿勢も、学生ファーストとは言えないだろう。最高学府である大学には経営優先の姿勢を見直し、「教育を守る」という強い信念を持ってもらいたい。

■学生と大学に十分な補助を!

学費が払えない、暮らしも立ち行かないという学生が数多くいる現実を、私たちの社会は直視すべきだろう。もちろん、苦しいのは学生だけではない。多くの大人が仕事を奪われ、収入を減らすという事態に直面している。小中学校や高校、保育園、幼稚園でも、“通えない”という異常事態が続いており、まさに教育の危機だ。

残念ながら政治の無能ぶりは、救いようがない。新型コロナの水際対策に失敗し、その後の対応も後手に回った。「37度5分以上の発熱で4日以上」という根拠不明のルールも、今頃になって変更するという体たらくだ。500億円近い税金を使って役に立たないマスクをばら撒いた責任をとるべき安倍晋三氏は、反省するどころか実績を誇示するという馬鹿なマネをやっている。

新型コロナウイルスが経済や社会生活にもたらす影響は計り知れない。本当の“被害”が顕在化するのはこれからだと言われており、教育を取り巻く状況が良くなる保証はない。しかし、次代を担うのはいまの若者たち。教育支援に思い切った額の公費を投入するよう国に求めるのは、私たち大人の義務だろう。政府は、これ以上ムダな予算を費やさず、困っている学生や大学に十分な補助を行うべきだ。「米百俵」の故事もある。

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