鹿児島県が指定した新型コロナウイルスの療養施設などで、県医師会の職員が女性スタッフにわいせつ行為を行っていた問題を巡り、同会の役員が2月に開かれた会議で男性職員の言い分だけを一方的に発表し、「合意の上での性行為」だったと結論付けていたことが分かった。事件を受けて医師会が立ち上げた調査委員会での議論を前に、組織内部に予断を与えた格好だ。
ハンターの取材に「複数回の性交渉は合意があった証拠」といった趣旨の発言をした県医師会・池田琢哉会長の主張と重なる内容で、療養していたコロナ患者や性被害を訴えている女性スタッフのことを軽んじる動き。規範意識を欠いた県医師会上層部の姿勢に、内部からも批判の声が上がる状況となっている。
■「合意」にこだわる常任理事
問題の発言を行ったのは、県医師会の常任理事。同理事は今年2月22日に開かれた県医師会郡市医師会長会議(以下、「会議)」の席上、医師会の聴取を受けた男性職員の「合意の上での性交渉」とする主張を、約10分間にわたって一方的に発表していた。
その内容は、あたかも女性スタッフ側から積極的に接触したかのような印象を与えるもので、「男性職員から聞き取った内容が、(女性スタッフ側の主張を軸にした)新聞報道とかけ離れている」と明言、『合意はなかった』として刑事告訴した女性スタッフの言い分を真っ向から否定する内容だった。現段階で、医師会による女性スタッフへの聴取は実現していない。
常務理事は、池田氏が会議の冒頭で話した「性交渉が5回で、すべて合意のもとであった」を前提に据えた上で、男性職員が陳述したという女性スタッフとの出会いから最後の性交渉までの経過を、事細かに説明。女性スタッフを派遣した医療法人の代表者が、男性職員に女性や法人に対して慰謝料請求したことでその職員が体調を崩した、などとして性行為を行った職員を庇うような発言を行っていた。
常任理事は12日、会議での発言内容について確認を求めたハンターの電話取材に対し、「合意のあるなしにかかわらず、男性職員の行為が良くないものであることは認める」とした上で、「(残された記録から)強制性交でないことは明らか」「相手の女性が医師会側の聴取に応じない」などと事実上の女性スタッフ批判。「医師会として近く会見を開き、今回の件についての何らかの調査結果を公表する必要がある。医師会としての責任は認めるが、(事件を報じた)南日本新聞の記事は女性側の言い分だけを書いた一方的なもの。男性職員の話はまったく違っており、残された証拠からも合意があったことは明らか」と反論した。
記者とのやり取りの中で常務理事は、女性スタッフの勤務先から厳しい追及を受けた男性職員が精神的に追い詰められ「自殺しかねない状況」だったと職員を庇う。しかし、男性職員を訴えた女性スタッフの心情はどうなのかという点については、一切斟酌なし。“医師会の聴取に応じない方が悪い”という姿勢だ。ここまでの問答には、新型コロナの療養施設で静養していた患者が、この事件をどう見るかという肝心な話は出てこなかった。
■問われる「調査委員会」の意義
“合意に基づく性行為”を喧伝する県医師会の池田会長や常務理事の姿勢は、問題の本質を無視する歪んだ組織体質の象徴だ。一連の男性職員擁護発言は、事件を受けて自分たちが立ち上げた「調査委員会」の議論を縛ることになる。目的が、当事者男性と医師会の責任を軽くすることにあるとみなされても仕方があるまい。
県医師会は事件を受けて、三つの組織を立ち上げている。まず「調査委員会」で事件の詳細を検証し、次に調査結果に基づき「懲罰委員会」で男性職員の処分について検討、組織として過ちを繰り返さないよう「再発防止等改善検討委員会」でも議論するのだという。
だが、医師会上層部の会議で、会長や常務理事が「合意があった性行為」と断定してしまえば、調査委員会のメンバーに予断どころか「結論」を与えたも同然。始まる前に調査委員会の方向性を決めた格好になっている現状は、明らかに公平性を欠く。ガバナンス上の問題が指摘されるだけでなく、組織の自浄作用の有無が問われてもおかしくあるまい。
鹿児島県医師会の上層部は、“県民の生命を守るため税金を投入して新型コロナ感染者を療養させるという重要なミッションの現場で、同会の職員が業務期間中に、患者そっちのけで性的行為を行っていた”ということの重大性を理解していないのではないか――。さらに取材を進めるうち、郡市医師会長会議に出席していた別の医師会幹部が、とんでもない発言を行っていたとことが明らかとなる。
(つづく)