刑事告発された兵庫県尼崎市(上)学校用地巡りトラブル

「協定書に書いてあることを、行政、市役所が反故にする。こんなことがあっていいのでしょうか」――憤りの表情で語るのは、学校法人重里学園(大阪府北区)の重里國麿理事長。手にするのは、神戸検察庁への告発状だ。告発相手は、大阪市に隣接する人口45万人という兵庫県尼崎市というから、ただ事ではない。

■発端は専門学校があった市有地

重里学園は学校法人として40年の歴史を誇り、日本で唯一の分析化学学校「日本分析化学専門学校」(大阪市北区)を運営している教育機関だ。1995年、兵庫県尼崎市の公募に応じて、系列校として「環境学園専門学校」の設立を提案。選定委員会の議決を経て、尼崎市と「工業系専門学校の設置に関する基本協定書」を締結した。

学校の土地は30年間の土地使用貸借契約に基づき無償貸与されたもの。地元から建物建築代金の寄付5,000万円を受けるなどして誘致を受け、歓迎される形で開校した。

環境学園専門学校は、環境調査や森林保護、都市緑化、バイオテクノロジーなどのコースを設置。当初は、生徒数約200人で好調な学校経営だったが、近年は生徒数の減少で2019年3月末をもって廃止となる。そこが、紛争の発端となった。

■尼崎市の協定破り

重里学園は2018年8月に環境学園専門学校の廃止を尼崎市に報告。次のステップとして日本理化科学専門学校(仮称)という、土壌分析に特化した専門学校を開設する計画を立て、同年11月に今後のスケジュールを伝えた。

その際、重里学園は前述の協定書にある《将来土地について譲渡の申し出を受けたときは協議のうえ、時価で譲渡するものとする》との条文に従って、土地を時価で買い取る意向であることを表明。尼崎市に土地売却を要請する。私立の専門学校新設には、認可基準に校地、校舎、施設は原則として自己所有か、国、地方自治体が所有の場合は長期にわたり安定して使用できる権利を有していることを文部科学省が定めているためだ。

重里学園は、協定書の記載内容から土地を時価で購入できるものと信じて、計画を立案していたが、尼崎市は煮え切らなかった。

当初、「法的な部分もあり、私たち考え方だけでは言えない」と口ごもるばかりだった市は、時間の経過とともに態度を一変。「学校を廃止されるのではあれば、更地で返還していただくというのが基本になる」「廃校となり(賃貸として)有償になった場合、ざっと700万円から800万円位の年間賃貸料が発生する見込み」と言い出した。“土地は売らない”というわけだ。

協定書が結ばれたのは1994年6月。土地所有賃貸契約書は1994年11月に締結された。重里学園の主張は、『協定書』を前提にしたものだ。ところが尼崎市は、協定内容を基にしたはずの契約書がすべてだと主張しているのだ。協定書通りに時価での買い取りを求める重里学園と、更地にして明け渡せという尼崎市は。激しく対立し交渉自体が暗礁に乗り上げた。

■民事は学園側主張認める形で和解したが・・・

2019年2月、尼崎市は『土地使用貸借契約の解除について(通知)』を稲村和美市長名で重里学園に送付。一方的に契約解除を決定する旨を伝えてきたという。重里学園も、買い取りを求める文書を発送したが話し合いは平行線。2020年6月、重里学園は仕方なく民事調停を申し立てる。すると今度は尼崎市が土地や建物を明け渡せと本訴を提起。重里学園は応戦すべく反訴と民事訴訟にもつれ込む。こうなると泥沼。争いは大きくなる。

当事者である重里理事長は。厳しい表情でこう指摘する。
「協定書が先に作成されて、その後に契約書でしょう。当然、協定書があっての契約書。それを尼崎市は契約書がすべてだという。それなら、時価で買い取る協定書の条項は相反しかねない内容ですよ。しかし、これまでそこには何ら異議もない。それにこちらは協定書の買い取り条項を前提に2004年には隣接する土地を1億2千万円で買って拡張する計画まで考えていたのです」

双方が書面で主張を展開。神戸地裁は2021年12月に和解勧告を行う――尼崎市は、重里学園に対し、本日、別紙物件目録記載の土地を代金1億5,300万円で売り渡すこと――。尼崎市は協定書通りに時価の金額で売却し、土地や建物の明け渡しを放棄せよという内容で、重里学園の訴えをほぼ認めた形だった。

“やっと、専門学校の新設へとスタートを切れる”。ほっとした清里理事長だったが、尼崎市が裁判所に提出した市議会資料の記述を確認して愕然となる。『重里学園は建物を収去しないまま本市所有の土地を不法に占有』――不法に占有していれば神戸地裁は重里学園の主張通りの和解勧告などしなかったはず。「看過できないものがいくつもあった。行政が、公務員がここまで、ウソをついていいものなのか。信じられない内容だった」。さらなる市側の不法行為を発見した重里理事長は、刑事告発を決断する。

(つづく)

 

 

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