昨年6月に北海道新聞の新人記者が建造物侵入容疑で逮捕された事件で、捜査にあたっていた旭川地方検察庁は3月31日付で同記者を不起訴処分とした。同地検は不起訴の理由をあきらかにしていない。同記者ととともに書類送検されたキャップ(現場記者のリーダー)も同日付で不起訴となった。
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捜査されていたのは、地元の旭川医科大学の学長解任問題を取材していた道新旭川報道部の新人記者(20歳代)と、同報道部でキャップを務める記者(40歳代)。新人記者は昨年6月、取材中に無断で大学の建物に「侵入」したとして大学職員により現行犯逮捕された(のち釈放)。在宅捜査を続けていた北海道警は事件9カ月後の本年3月16日、建造物侵入の疑いで新人記者を書類送検、同記者に指示を出したとみられるキャップも同日付で送検していた。
今回の不起訴処分を受け、道新編集局は次のコメントを発している。
不起訴という検察の判断は、旭川医大の建物への立ち入りが取材目的だったことも考慮された、と受け止めています。
ただ、今回は組織取材の仕方に反省点もありました。このため記者研修の内容を見直すなど、再発防止に取り組んでいます。
今回の教訓を生かし、国民の「知る権利」に奉仕するため、読者や社会の皆さまの信頼を得られるよう全力で取材、報道していく所存です。
道新は当初、取材中だったことがあきらかな自社の記者を「容疑者」呼称で実名報道、現場の若手を含む多くの記者たちを失望させている。今回のコメントは当時の報道姿勢などにまったく触れておらず、同社OBの1人は「不起訴もありそうだった人に社会的制裁を加えたことへの反省が一切ない」と呆れ顔だ。
記者逮捕事件をめぐっては昨年、道新労組も加盟する新聞労連が検証チームを発足、問題の検証作業にあたっている。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |