「犯罪被害者に支援の手を」| “39条事件”遺族がNPO設立へ

殺人事件の遺族が、同じ立場の犯罪被害者などを支援する団体の設立に向けて準備を進めている。当事者の日常生活再建に必要な手を延べ、権利や尊厳の回復をはかる取り組みで、今秋にもNPO法人を立ち上げて具体的な活動を始める考え。代表を務めることになる男性は「民間による支援のモデルケースをつくり、被害者が“置き去り”にされがちな現状を変えていきたい」と、幅広い理解と協力を求めている。

◇   ◇   ◇

NPO法人「さっぽろ犯罪被害者等援助センター」を設立するのは、札幌市の木村邦弘さん(76)。8年前に起きた殺人事件で息子を喪い、被害者遺族としてさまざまな理不尽に直面してきた。

木村さんの長男・弘宣さん(当時35)は2014年2月、精神障碍のある男に刺されて命を落とした。加害者はその後の捜査で刑事責任能力のない「心神喪失」と認められ、事件は不起訴処分に。遺族となった木村さんは「なぜ事件が起きたのか」を問い続けることになったが、加害者の処遇などは「刑法39条」「医療観察法」の壁に阻まれてブラックボックスとなり、事件に関する情報をほとんど得ることができなかった。

亡くなった弘宣さんはもともとシステムエンジニアだったが、母の雅子さん(故人)の若年性認知症発症を機に福祉職へ転身、事件当時は精神障碍者の自立支援施設に勤務していた。加害者の男は施設の利用者で、その支援にあたっていた弘宣さんは居室訪問時に被害に遭ったという。父の木村さんは、障碍者支援を「天職」と話していた弘宣さんの遺志を継ごうと「精神障害者の自立支援を考える会」を設立。弘宣さんの労災給付金500万円を地元の札幌市に寄附し、福祉団体などを助成する基金をつくるなどの活動に奔走してきた。

一方で、被害者遺族としては数々の理不尽に直面、その後も「なぜ事件が起きたのか」がわからないだけでなく、生活再建のための公的な支援にアクセスしにくい現実を目の当たりにした。捜査機関からは「犯罪被害者等給付金」の説明がなく、公的な相談窓口を訪ねてもほとんど有益な情報を得られなかったという。刑法39条事件についてはその後、木村さんが当事者として法務当局へ届け続けた声が功を奏し、2018年の法務省通達で加害者の処遇情報が被害者遺族に一部開示されるようになった。厚い壁に一穴を開ける成果と言えたが、これも被害者自身が当局へはたらきかけなければ実現しなかったことだ。まして生活支援の制度については、何の情報も得られず声を潜め続けている犯罪被害者が多くいることが充分予想された。

必要な支援が、それを必要とする人に届いていないのではないか――。木村さんは指摘する。
「情報提供や心のケアだけでは、被害者の権利や尊厳が回復できるとは言えません。日常生活の再建という現実的な問題をどこに相談したらよいかわからない人たちは、今もたくさんいる筈です。ならば民間で支援団体を立ち上げ、積極的に当事者に寄り添ってワンストップで相談対応などができる体制をつくるしかない、そう思いました」

今秋を目途に設立を目指すNPOでは、精神保健福祉士などが「コーディネーター」として積極的に被害者に声をかけ、一人一人の状況に応じた支援を進めていく構想。当面は無償で支援活動にあたるほか、当事者の孤立を防ぐブックカフェも運営する。代表の木村さんは多くの理解と協力を呼びかけ、現在クラウドファンディングで運営資金を募っているところだ。

不意の事件で否応なく「遺族」になってから、すでに8年あまり。木村さんは「これが最後の仕事になると思っている」と力を込め、「新たな取り組みで可能な限り被害者支援を拡大し、モデルケースとして次の世代に繋げたい」と話している。

クラウドファンディングの受け付けは、5月18日午後11時まで。詳細は特設サイト参照。弘宣さんの事件や木村さんのこれまでの活動については『木村弘宣ひまわりネット』で。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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