パワハラ事件の江差看護学院、新年度生はたったの8人|議会で募集停止危ぶむ指摘

複数の教員によるパワーハラスメントが認定された北海道立江差高等看護学院で、本年度の新入学生が募集定員の2割に留まっていることがわかった。5月上旬の地元議会では、質問に臨んだ議員から「募集停止の事態を招かないよう本腰を入れて学校改革を」との註文があり、答弁に立った道の担当部長が看護教員養成課程の見直しなどに言及した。

◇   ◇   ◇

北海道議会で1年前からパワハラ問題を追及し続けている平出陽子議員(民主、函館市。下の写真)は5月10日の保健福祉委員会で、道の被害救済対応が未だ充分でないことなどを指摘した。とりわけ代理人を通じた損害賠償提案について、「すでに複数の被害者から合意を得た」とする道の説明には、次のように苦言を呈している。

「何度も何度も弁護士とやり取りし、ヤケになって『まあ仕方ないな』と渋々OKしたケースが多いんですよ。簡単に『もう合意した人がいる』と言うけれど、苦渋の選択として『合意』という形をとったということをちゃんと理解してもらいたい」

関与教員らによる被害学生への謝罪については、議員の「被害者が納得できる形での謝罪が重要」との指摘に、道側は改めて「誠意ある謝罪になるよう取り組んでいく」と答弁。また本年度からの学院の新体制を確認する問いには、ハラスメント再発防止の取り組みなどを説明する答弁があった。このやり取りの中で、平出議員は江差看護学院の入学者数減に触れ、本年度の新入学生が定員の2割に留まった事実を指摘、早期の信頼回復の必要性を訴えた。

「40人の定員のうち、入学したのは8人と聞きます。その新入生に『どうしてここを受験したの』と訊くと『もうパワハラした先生たちがいなくなったと思うから』と言うんです。でも、事実としてはまだ2人残っているんですよ。ここは本当に腹を括って学院改革をしないと、じり貧になることが眼に見えています」

「公立高校の場合、40人定員で実数が1桁になるような状況が3年続くと、募集停止になるんですよ。本当に生まれ変わらなければ、どうなるかわかりませんよ」

質問ではさらに、昨年度あきらかになった千葉県の私立看護学院のパワハラ問題が俎上に載り、看護教員の養成のあり方に抜本的な見直しが必要なことが指摘された。これを受け、本年度の道保健福祉部トップに着任した京谷栄一部長(下の写真、中)は、ハラスメント調査にあたった第三者委員会が「前時代的な教育観」「人権侵害意識の乏しさ」などを指摘していたことを踏まえ、次のように答弁した。
「今後、厚生労働省へ直接出向き、今日の学生の意識や社会全体のモラルに沿った教員養成のあり方などについて提案をして参ります」

ハラスメントで大きな被害を出した自治体が自ら教員養成のあり方を見直し、国に提案するという。議会答弁を伝え聞いた被害学生の保護者の1人は「それも今後の学院にとって大事なこと」と意義を認めつつ「目の前の被害には相変わらず曖昧な対応で、今までと同じようなことしか言っていない」と呆れる。

問題発覚から1年以上が過ぎ、被害救済はなお充分に果たされているとは言い難い。昨年12月に道が代理人を立てて個別対応に舵を切ってからは、被害者間での情報共有が難しくなり、対応の全貌が見えにくくなっている。現時点でまだ教員の謝罪を受けていない被害者の1人は「道は問題が風化するのを待っているのではないか」と疑っているところだ。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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