大任町議長銃撃事件の真相(中)|出所直後、永原町長から1400万円

 2002年(平成14年)7月に起きた福岡県大任町議会の楠木重明議長銃撃事件。指定暴力団太州会の二次団体で、解散した「政時組」の二代目組長O氏(破門)から依頼を受けた実行犯の男性(本稿では「A氏」)は、福岡県警に逮捕され、長い服役を余儀なくされる。

 O氏が漏らしたという「永原譲二」「1,000万用意しとる」という言葉、「チャカは、伊田の駅前のコインロッカー」、「32口径のトカレフ。豆(銃弾)が16発」、「弾が噛むかわからんけん、7発」――ハンターの記者に対し、捜査当局にも明かさなかったという事件に関する細かな事実を淡々と明かすA氏は、出所後、ついに『黒幕』とまみえることになる。

■銃撃指示「元組長」服役で町長に連絡

――2003年(平成15年)の3月18日に逮捕されていますが、捕まったのはどこで?
A氏:大野城市です。福岡の大野城市。

――いきなり道を歩いていて、職質(職務質問)とかで捕まったとか、そういうわけじゃないですよね?
A氏:じゃなくて、(捜査員が)あるところに来たわけです。大野城市のですね。そんなん調べ上げてたんやないんですかね。

――3月に逮捕されて起訴され、一審の判決は(福岡地裁の)飯塚支部ですかね?
A氏:はい。

――一審で懲役12年打たれて、控訴はされなかったんですか?
A氏:控訴したです。

――控訴はされたんですね。
A氏:最高裁までやりました。 それから熊本刑務所。

――満期(出所)ですか?
A氏:いや仮釈貰っとる。なんやかんやで14年以上は務めとんですわ。

 ――ずっと熊刑ですか?
A氏:熊刑です。6か月くらいか、仮釈貰ってます。

――そして、出所されたのが?
A氏:5年前ですね。今年の12月で(出所から)満5年になるんです。

――出られてから、満5年?
A氏:今年の12月でね。

――出てこられてすぐですけど、当然Oさん(襲撃の直接指示者。解散した政時組の元組長O氏)と会われたんですよね?
A氏:いや、Oとは会ってないんです。

――えっ?
A氏:そのころOはパクられてたんですわ。

――ほお。
A氏:ほんで、出てきて、私の友達の話ではね、Oが私のために『2,000万を用意しておこう。家も用意しておこう』と、言っとったというんですわ。

――面倒見るという約束ですもんね。
A氏:そう。ところが、自分が帰ってきたらOはパクられていないでしょ。もうその時は、永原が町長になってたからですね、永原が。だから町長に会いに行ったわけですよ。

■最初は「出所祝い」で100万円

――出てこられてすぐですか?
A氏:まあ、すぐですよ。仮釈の間は(身元)引受人が飯塚におったもんで、飯塚から町長に会いに行ったら、で、そこで、出所祝いといって100万くれたわけですよ。

――永原町長本人が?
A氏:うん、本人がね。100万。

――場所は町長の自宅ですか?町長室ですか?
A氏:いや、大任(町)の「政策研究会」っていう事務所。(*下が「田川政策研究会」の事務所)

――あーはいはい、建設業者などが集まる場所ですね。田川政策研究会ですね。
A氏:そうです。そこで会って、『出所祝いって100万くれたわけですね。それまで永原譲二とは一回顔見たくらい。言葉も交わしてないんですよ。全然知らんのですよ。それまでね。

――それは、連絡取って行かれたんですか?それともいきなり?
A氏:いやいや、連絡取ってね。

――「会いたい」と。そしたら、「ここに来てくれ」と。日にちとか覚えてないですか?
A氏:いや。日にちは覚えてない。

――政策研究会の事務所で、何か会話というか、『あんたに頼まれたよね』っていう話は?
A氏:そこではしてないですね。したらいけんもん。指示したのは永原と分かっていたけんですね。

――ただもう黙って、出所祝いということで?
A氏:帰って来たということで、『ご苦労やったね』って言ってね。

■「道の駅」温浴施設事務所で1000万円

――で、その後は?
A氏:その後、しばらくして、大任(町)の仕事させてもらおうと思って、町長にまた連絡取って、会いたいって言って。そして、そん時は、町長室で会ったんですよ。そこで、話して、『飯食えるようになんか仕事探してくれんやろうか』っていう話をしたんですよ。

――なるほど。
A氏:ほんなら、『それやったら土木の免許を取れ』と。それまでも、土木の免許は持ってたんですけど、もう懲役行っとるけん、流れとうやないですか。ほんで、『新たに土木の免許とって指名願い出せば事欠かんように、仕事やる』という話で。ほんで、軍資金がないって言ったら、『じゃあ俺が1,000万用意しちゃる』って。

――指名願いさえ出せば事欠かんようにしてやろう、と。そして、1,000万用意すると言ったんですね。
A氏:うん。

――永原町長が直接言ったわけですね?1,000万用意するって。
A氏:うん。1,000万。そして、風呂があるけん、道の駅の風呂の事務所で1,000万、自分は受け取ったんです。(*風呂=道の駅「おおとう桜街道」にある温浴施設「さくら館」)

――町長本人からですか?
A氏:本人から。

――道の駅というと「おおとう桜街道」ですが、風呂というのは温浴施設の「さくら館」ですね。で、そこの事務所。温浴施設の事務所ですか?
A氏:そうです。

――事務所があるんですか?
A氏:事務所がありますね。

――そしてそこに来いと言われて?
A氏:そう。そこで1,000万受け取って。

■「おおとう桜街道」木のテーブルで300万円

――2回で合計1,100万円ということですか?
A氏:いや、それから何か月か、たしか1、2か月して、またちょっと『金が足らん』言ったら、300万用意してくれたわけですよ。

――現金で?
A氏:その300万は道の駅で受け取ったんですよ

――道の駅のさくら館の事務所?
A氏:いや、広場があるやないですか、道の駅に。あそこに木の丸いテーブル置いちょうじゃないですか。あのテーブルに座ってですね。そやから、もうそこでね、自分としてはこれ(議長襲撃)は永原譲二が頼んだことやってことは分かってたから。今まで付き合いも全くない人間がですよ、何度も現金ですから。

――黒幕が誰か、はっきり分かりますよね。
A氏:はい。

――たぶんAさんとしても、わざと(銃撃指示のことを)言わなかったというか…。
A氏:そうです。

――普通なら、カネなんか出しませんよね?
A氏:出さんですよ。モノも言ったことない人間にね。

――確認ですが、釈放されて、すぐの話ですね。
A氏:そうです、そうです。

――その後はどうなりましたか?
A氏:自分は仕事(土木)の許可取って、指名願い出して、仕事始めたわけです。仕事は最初、(町長が)ずーっとくれよったわけですよ。都合よくいきよったんですよ。ところが、その後、Oが帰って来たんです。

■狂いだした歯車

――Oさんが出所してきた?
A氏:はい。で、Oが帰って来たから、町長と3人で会おうということになった。ほんで、町長と3人で例の政策研究会の事務所で会ったわけですよ。

――いつ頃ですか?
A氏:一昨年(おととし)ぐらいのことだったかな。けっこう前の話。

――そのときには、Oさんは政時組の組長ではないですよね。太州会から破門もされていた。
A氏:そうですよ。

――政策研究会の事務所では、どんな話をしたんですか?
A氏:私がOに『あんたね、人にね、俺が帰ってきたら2,000万用意しとくって言ったらしいやないか』って。で、『1,000万は町長がくれた』と。『だけん、残り1,000万俺に払ってくれ』と。そこで、『(銃撃した)楠木の事件は、町長、あんたの仕事やろもん』って言ったら、『(永原が)俺は関係ねえ』ってこう言うわけたい。逃げの一方ですたいね、町長は。

――きたないですね。
A氏:で、Oは『銭がねえ』って言うわけたい。だけんね、町長に『あんたが出してやるでいいやないか』って、『それで話は済むやないか』と。町長は『いや、俺は関係ねえ』と。『1,000万今ここで俺が出すって言うたら、俺が頼んだこと、楠木の事件を俺が頼んだことになるやないか』とそう言うけん、呆れて『これ貴様ね、これだけ言うてもわからんのか、こら。なら、なんで1,400万も出した』って言ってやった。そしたら、Oがあわてて中に入ってね、『A、もうやめてくんない。それだけはもう』って止めた。だけど、自分は十何年も懲役に行っとる。金を貰わないかんき、Oに『約束は守れ』って言ったら、Oは『わかった』って。その日は、それで別れたわけですよ。そしたら、そのあくる日にOから電話がかかって来て、『1,000万用意できた』と。ほんでそのあくる日に1,000万取りに行ったんですよ。ほんで、それが最後になった。

――なるほど。
A氏:それからもう町長は俺をプッと切ってしもうた。それからずっと仕事も干された。そやけん、うちの会社はそれで潰れてしまったわけですね。

――何もかもなくなった?
A氏:そうです。それで、従業員も多いときは7、8人くらいおったんですが、辞めてもらうしかなかった。

――役場に行かれたのは去年の6月22日なんですが。
A氏:そうですね。長いこと干されて、仕方なくですね。

――それで、6月に町長室に話に行った。
A氏:そうです。それまでに何回も電話もするし、役場にも行って『町長にいっぺん会わせてくれ』って頼んだ。『用事は何ですか』って聞くから、『仕事の話』と。仕事の話で会いたいと言うけども、全く会ってくれんし、おっても居留守使うし……。ほんで役場に行って、何気なく町長室のドアを開けたんです。そしたら、真っ暗やったんで、そのまま閉めたんです。閉めて帰ったんです。それだけ。そしたら、それが不法侵入になって逮捕。冗談だろと思ったですよ。

――それが6月。で、8月に逮捕でしょ。
A氏:8月の30日でしたかね、逮捕が。

――そうです。おかしな話ですよね。ずいぶん間隔がある。なんかその間にあったんですかね?
A氏:6月から逮捕されるまでに?うーん・・・。ある関係者の話ではね、福岡県警の本部から田川署にしょっちゅう連絡が来てね、“Aをパクれ、Aをパクれ”と。俺を逮捕した田川署も不思議に思っとったみたいですよ。ただ町長室のドアを開けただけなのに、なんで俺のことで本部から電話が来るんやろうと。田川署も不思議に思っとったらしいよ。ほんで、これも聞いた話やけど、東京から県警に電話が来とったらしいです。“Aをパクれ”って。

――警察庁ですね。
A氏:警察庁だと聞いとります。

――ひどい話ですが、裏はなんとなく理解しているつもりです。ところで、議長銃撃の件について、きょう話された内容は警察や検察でも調書になってるんでしょうか?
A氏:いや、ほとんど喋ってないんですよ。警察では。

■捜査当局も疑っていた永原氏の関与

――ここに、こういう記事があります(*当時の記事を示す)。2004年12月の福岡地裁飯塚支部での一審判決の記事です。《有吉一郎裁判長は 「A被告には動機が見当たらず、背後に指示した人物が存在することがうかがえる」と指摘し、懲役12年(求刑懲役13年)を言い渡した》と書いてあります。そういう指摘があったんですね。
A氏:そうですね。ありました。

――警察は事件の黒幕が誰かを、しつこく聞いたんじゃないですか?
A氏:うん。『永原じゃねえんか』って、何度もね、聞かれた。

――だけど、しゃべったら出所しても面倒みてもらえなくなりますから、しゃべりませんよね。
A氏:はい。一切しゃべらんかった。

――だけど、黒幕は永原町長だとわかっていた。
A氏:わかっておったから、(襲撃に)行ったんですよ。

■指示者側から合計2400万円

――基本的なところを、おさらいさせて下さい。お生まれは大任町ですね?
A氏:そうです。

――政時組とのつながりはいつ頃からですか?
A氏:別につながりはなかったんですよ。ただ、政時組の初代の時から付き合いはあったです。

――それで、政時組を継いだOのところに出入りしていた?
A氏:企業舎弟になってやってくれと初代が頼んできたから。ほんで、付き合いは初代のときからしよったですよ。でも、わざわざ組のために動いたりなんだり、ちゅうことは、そんなことはなかった。

――Oさんは政時組の二代目ですね?
A氏:そうです。

――で、いきなり、「ちょっと話がある」と始まったと。そういうことですね?
A氏:初代から、Oをね、ちょっと応援してやってくれと、頼まれていたけんですね。

――なるほど。わかりました。もう一度確認ですが、永原町長から直接渡された現金は、100万、1,000万、300万の3回ということですね?
A氏:そう1,400万。出所祝いで、まず100万。それから1,000万、300万。最後の1,000万円はOからやったけど、どっから出たかは、ね、わかる。

――そうですね。
A氏:それもね、それまでしゃべったこともない人間が、懲役から帰って来て、そんだけの金を出すかっちゅうんですよ。

――出しませんね。
A氏:普通やったら絶対出さんでしょう。そして、自分が気にいらんってなると、パって切る。自分にちょっとでも反抗的な人間は潰す。町民は食い物にされとる。で、これまでのハンターの記事を読んで、永原のことをようここまで書いたなと・・・。そいで、話しておこうと決めたんですよ。全部書いてもろうて、結構です。

――きょうは、本当にありがとうございました。
A氏:こちらこそ。

◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 これまで大任町内で囁かれてきたのは、「議長を銃撃させたのは永原町長じゃないのか」という推測に基づく話だった。だがA氏の告発は、噂を裏付ける形となっただけでなく、永原町長自身が犯罪行為に加担していたことを暴露する内容だ。

 町長という立場になっていた永原氏が、直接A氏に現金を渡していたという事実や、銃撃事件の前に、直接の指示役である政時組(解散)の組長O氏(太州会を破門)の口から「永原譲二」「1,000万円用意した」という発言があったことなどは衝撃的で、“町長の間接的な関与”という当初の記者の想像をはるかに超えるものだった。

 方向を変えて何度か同じ質問をしてみたが、A氏の話はまったくぶれず、覚悟を決めた人間の言葉の強さを感じさせた。「A氏は嘘をついていない」――そう断言しておく。

 では、なぜ永原氏は楠木議長を始末させようとしたのか――?じつは、銃撃事件の背景に、町政絡みの利権を巡る主導権争いが存在していた。次稿で、事件の「動機」を明らかにする。

(つづく)

*本稿に関し、ニュースソースを明示しない勝手な後追い報道や、記事の転用を禁じます)

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