「入札情報非開示」で揺れる福岡県大任町|噓つき町長が隠す町内支配の実態

「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」(入札契約適正化法)が公表を義務付けている公共工事の入札結果を隠蔽してきた福岡県大任町(永原譲二町長)が、地元紙「西日本新聞」の報道をきっかけに、国土交通大臣、総務大臣、さらには福岡県知事からこれを「違法」だと断定された。国交省と総務省は、すでに入札結果を公表するよう指導したという。

入札結果を非公開にしている同町の対応については昨年6月、ハンターの情報公開請求に「非開示決定」が出たことを受け、経緯をまとめて問題提起(既報)。非開示は不当だとして同町に審査請求していた。

ところが、最近になって入札結果の非開示問題を取り上げた新聞やテレビに対する永原町長や役場の説明は、昨年とは違う内容。そこで、改めて「入札結果非開示」に関する同町の「弁明」とハンターが提出した「反論」を再掲し、この問題の背景を明らかにしておきたい。

■合理性を欠く非開示理由

大任町は、入札契約適正化法で定められた入札結果の公表や、建設業法が公表義務を課す施工体系図を隠すなど、違法な行為を繰り返してきた。特に入札結果については、全国の自治体がホームページ上に掲載したり、所管課の窓口などに常備するなどして自由に閲覧させるのが普通。“誰にも見せない”、“情報公開にも応じない”という異常な方針をとっているのは同町だけだ。

ハンターは昨年6月14日、大任町に対し「平成29年度、30年度、令和元年度、令和2年度、令和3年度の入札結果表」を開示するよう求めたが、同町は同月25日に非開示を決定。理由は、『入札結果を公にすると、人の生命、健康、生活、財産または社会的な地位の保護、犯罪の予防、犯罪の捜査その他公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施期間が認めることにつき相当の理由がある』というものだった。

この非開示決定を受けハンターは、同年7月1日付けで決定の取り消しを求める審査請求書を提出。何度も催促してようやく『弁明書』が送られてきたのは、審査請求から9か月もたった今年4月(弁明書の日付は3月31日付)だった。同町はその中で、非開示処分の理由について次のように述べている。

4 本件処分の内容及び理由
 (1) 本件処分の内容
情報公開請求に係る情報非公開決定処分(添付資料「情報非公開決定通知書」記載のとおり)

(2) 本件処分の理由
審査請求人からの公開請求に係る文書については、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(平成12年法律第127号)(以下、「公共工事適正化法」という。)第8条の規定により、公表しなければならないとなっている。

しかしながら、本町においては、過去公開したことにより、反社会的勢力が知るところとなり、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)(以下「暴力団対策法」という。)第9条各号で規定されている禁止行為を、この勢力が落札業者に行うといった事案が発生した

なお、このような不当な要求に対しては、福岡県暴力団排除条例(平成21年福岡県条例第59号)第17条の2の規定により、福岡県へ通報することとなっているところであるが、小規模な自治体においては、地縁関係が強く、実行に至っていない。

また、令和2年には田川地区において、警察署を含めた安全・安心なまちづくり協定の締結により、公共工事における暴力団排除の連携も確認し合ったところであるが、上記の事案以降、本町においては、業者からの依頼もあり、暴力団対策法第32条第4項に規定される、「事業者等が安心して暴力排除活動の実施に取り組むことができるよう、その安全の確保に配慮しなければならない。」との規定を優先し、入札情報、落札情報の公開を控えてきたところである

審査請求人と反社会的勢力との関係性は定かではないが、条例第4条において、適正に使用しなければならないとなっているところであり、公開することにより、反社会的勢力の知るところとなることは完全には否定できず、暴力団対策法第32条第4項、条例第7条第3号の規定により今回非公開としたものである。

なお、当然にこのような事情(状況)が明確に排除された場合は、開示することに何らかの問題もないものである。

弁明に対するハンターの「反論」は、以下のとおりだ。

1 入札適正化法の解釈について

まず、『公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律』を巡る解釈について。同法は、「地方公共団体の長は、政令で定めるところにより、次に掲げる事項を公表しなければならない」(第8条)ものの対象として、次の2項目を定めている。

大任町による入札情報の非開示は、明らかに条文の規定に違反する行為だ。例外規定がない以上、大任町の主張には法的根拠がないということになる。

そもそも、法律を無視した自治体の勝手な言い分が通れば、国内の建設行政における秩序は崩壊する。そうした意味からも、大任町の主張は退けられることになる。

2 暴対法の解釈について

次に、暴力団対策法第32条第4項を根拠とする非開示について。

まず、大きな前提として、情報公開請求は憲法上の権利である知る権利を保障するうえで重要な権利であるということ。特に、公金を投入する事業は税金を原資とするものであることから、その使途や事業過程は明確に示されるべきだ。

前述のとおり、『公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律』が、行政が発注する工事の入札結果公表を義務付けているのは、そうした前提を踏まえてのものなのだ。従って、入札情報の開示を積極的に行ってこそ、まともな自治体と言えるのだが、大任町は暴対法を持ち出して来て「非開示」の理由に挙げている。その具体的な理由について、同町の弁明書はこう記す。

「本町においては、過去公開したことにより、反社会的勢力が知るところとなり、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第9条各号で規定されている禁止行為を、この勢力が落札事業者に行うといった事案が発生した」

しかし、いつ、誰が、誰に対して、何を行ったのかは全く明らかにされておらず、そのような事実があったことを確認することさえできない。反社勢力にすべての責任を負わせているが、こうした出来事があったという証拠は示されていない。でっち上げを疑われても仕方がない話だろう。

仮に落札業者に対する何らかの働きかけがあったとしても、“落札業者を公開したこと”と、“禁止行為が行われたこと”の間に因果関係があることも確認できない。

大任町の弁明書には「小規模な自治体」とある。同町の人口は約5,000人であり、間違いではない。であるなら、どの事業者が入札に参加しているのか、あるいは落札しているのかが自ずから明らかになる可能性があるということではないのか。公開された情報とは別の情報源から落札業者が知れることは容易に想像がつき、ここでも大任町の主張に合理性がないことが分かる。

3 福岡県暴力団排除条例の解釈について

3番目の問題としてハンターが注目したのは、大任町が弁明書の中で述べた次の一節だ。

「なお、このような不当な要求に対しては、福岡県暴力団排除条例(平成21年福岡県条例第59号)第17条の2の規定により、福岡県へ通報することとなっているところであるが、小規模な自治体においては、地縁関係が強く、実行に至っていない」

つまり、「反社勢力による業者への圧力を認知したが、地縁関係が強いから福岡県への通報をしていない」という趣旨だ。だが、同町が自ら認めているように、福岡県暴力団排除条例は、《建設工事に関し、暴力団員であること又は暴力団と関係を有することを告げ、又は推知することができるような言動を用いて行われる不当な要求その他の暴力団関係者又は暴力団の威力を利用した者からの不当な要求を受けたときは、県に対し、速やかにその旨を通報しなければならない》として、発注者(地方自治体)に対して速やかな通報義務を課している。同町の弁明書の記述が事実なら、永原町長は、通報義務を怠っていたことになる。条例違反は明らかだ。

暴力団対策法32条4項《国及び地方公共団体は、事業者等が安心して暴力排除活動の実施に取り組むことができるよう、その安全の確保に配慮しなければならない》を持ち出して、条例違反の言い訳に使っているが、同法同条の立法趣旨に鑑みれば、大任町長として反社会的勢力を排除するためにも毅然と通報をするべきだったと言わざるを得ない。永原町長は、法をまったく理解していないのかもしれない。

一方では落札事業者を守るためと言いつつ、他方で業者が泣かされた禁止行為について通報すらしないというのは、著しく合理性を欠く対応である。

4 暴力団対策法32条4項について

大任町長の主張は、要するに“過去に入札結果を公開したところ落札事業者が反社会的勢力から禁止行為を受けたので公開しないことにした”というものである。すると、非公開の目的は、落札事業者が安心して事業に取り組めるようにするという点にあるように読める。

しかし、暴力団対策法32条4項は、「国及び地方公共団体は、事業者等が安心して暴力排除活動の実施に取り組むことができるよう、その安全の確保に配慮しなければならない」としている。すなわち、同項が目的にしているのは事業者等が安心して「暴力排除活動の実施に取り組む」ことであって、安心して事業活動に取り組むことではない。

大任町長の主張は、暴力団対策法32条4項の適用されない場面であるのに、同項が適用されるかのように述べた、いわば“まやかし”。意図的に法の適用を誤ったのか、わかっていて強弁の材料に使ったかのどちらかだ。

前述したが、大任町長は弁明書の中で、大任町を「小規模な自治体」、「地縁関係が強い」などと述べている。そうであれば、どの事業者が入札に参加しているのか、あるいは落札しているのかは自ずから明らかになる可能性が高い。落札結果を公表しないことで落札業者が安心できるとは言えまい。暴力団対策法第32条第4項を根拠とする非開示理由は、どの角度から検討しても成り立たない。大任町の主張は、情報の開示を拒むための不合理な方便に過ぎず、法的理由があるものではない。

■「1,000円のそうめんを10,000円」の真相

国は「入札結果を非開示にしているのは違法。改善しなさい」と指導しているが、おそらく大任町はダラダラと時間稼ぎをして、入札情報非開示を続けるつもりだ。永原町長の言うことを聞かざるを得ない国会議員に命じて、非開示を正当化しようとあがく可能性もある。しかし関係省庁の大臣やが明言しているように、入札結果非開示は違法。反社勢力に責任を押し付けるのは筋違いなのである。

永原町長は、地元メディアの取材に、反社勢力が「そうめんや数の子を売りつける」と発言。「1,000円のものを10,000円で売る」とまで言った。入札結果を見た反社勢力が、落札業者にだけそうめんや数の子を売りつけに行ったかのような発言だが、この嘘つき町長の言葉を信じる関係者は皆無に近いだろう。

取材したところ、そうめんや数の子が売られてきたのは事実だが、値段も商売の仕方も違うことが分かっている。地元のある組関係者に話を聞いた。
「そうめんや数の子を売っていたのは事実ですが、1,000円のものを10,000円で売ったという話は永原の作り話。盛り過ぎにもほどがある。実際は、定価3,000円の品物を安く、例えば1,000円くらいで仕入れ、それを定価の3,000円で売るというのがほとんど。少し利益を載せるケースもあったようだが、10倍で売るなんてことはやっていないかった。そもそも、周辺の業者に『買ってやれ』と声をかけていたのは永原。顔つくりの一環だったんじゃないかな。さんざんその反社勢力の世話になっておきながら、いまさら何言ってんだという感じですね。恥ずかしくないのかな」

都合の悪いことは「反社」のせいにして逃げる永原氏だが、彼自身は指定暴力団「太州会」の最高幹部から複数の不動産物件を取得したり、三代目太州会の大馬雷太郎会長(故人)とゴルフコンペで始球式を行ったりと、「密接交際者」であることが明らかになっている(*下の写真参照)。

■「官製談合」が疑われる公共工事発注のカラクリ

なぜ、永原町長は入札結果公表を頑なに拒むのか――?その疑問に対する答えも、ハンターはこれまでの配信記事で明らかにしている(既報)。永原町政にとって、町発注工事の落札状況や施工体系は、絶対に漏らすことのできない極秘事項なのだ。

下は、町発注工事を巡る不正の構図。町が発注する工事を、「スコップ1本持たず、仕事は下請けに丸投げ」(町内の業界関係者)と言われる町内の「ぺーパー業者」に「元請」として受注させ、町長のコントロール下にある複数の建設業者に実務を丸投げする。3次下請けあたりに町長の息子が代表を務める会社が入る場合もある。

 福岡県県への情報公開請求で入手した各業者の「工事経歴書」から、ペーパー業者が大任町から受注した工事の、大まかな件数と契約額を調べてまとめたのが下の表だ。

 平成27年頃から令和3年までに、ペーパー8業者は計117件もの工事を受注し、受注総額は約19億円に上っていた(*工事経歴書にはすべての受注実績が記載されているわけではなく、実際の受注件数や契約額は増える可能性がある)。

8業者のうち5つの業者は法人登記していない個人商店で、いわゆる「一人親方」。その売上高の多さには驚くしかないが、この問題に関するハンターの報道が始まってから8業者のうち少なくとも4つのペーパー業者が廃業してる。

建設業法は一括下請負(丸投げ)を禁止しており、違反した場合は元請も下請も「15日以上の営業停止処分」が課されることになるが、大任町では公然と違法行為が行われてきた疑いが濃い。一連の受注実態を可能とするのは「官製談合」。永原町政下の公共事業の全てに、違法性がつきまとう状況だ。

ペーパー業者が丸投げした仕事を請負っている業者が、大任町から別に多くの工事を受注していることも分かっている。下が、工事経歴書から確認できた各社の実績だ。

 平成28年から令和3年までの5年間に4社で91件、契約額で21億円を超える町発注工事を受注していた。大任町では、平成27年から令和3年にかけて、ペーパー業者を含むたった12の業者が208件もの工事を受注し、その契約額は約40億円を超す。永原町長及びその周辺に従順な関係者だけが、税金を原資とする公共事業を独占している形。永原氏が、こうした町内支配の実態を表に出せるはずがない。それゆえの「入札結果非開示」なのだ。

■町長も役場も支離滅裂

では、大任町はいつから入札結果を非開示にしてきのだろう。最近になって永原町長や町役場は、「昨年7月から」と説明しているが、これは真っ赤なウソ。前述したようにハンターが同町に行った「入札結果表」の開示請求は昨年6月14日、非開示決定は同月25日だった(*下の「情報非開示決定通知書」参照)。

昨年6月、入札結果非開示という法律を無視した決定に驚いたハンターの記者が、同町総務企画財政課に説明を求めたがのは言うまでもない。この時、同課の幹部職員は、次の3つの内容を明言している。
・入札結果非開示は、反社勢力が、その書類(入札結果表)を使って、特定の業者に圧力をかけるという事案があったからだと聞いている。
・いつから非開示にしたのかについては聞いておらず、分からない。
・(会員向けに)九州各県にある自治体の入札情報を報じるサービスを行っている会社にも、一切見せていない。

今月9日、改めて同課に、いつから非開示にしたのか再確認したところ、今度は「非開示にしたのは昨年の7月から」で、「それまでは役場の掲示板に貼り出していた」と言い出した。つまり“掲示する形で公表していたが、7月から非開示にした”というのだ。これほど酷いウソを重ねる役所は、見たことも聞いたこともない。

大任町は、昨年来の自らの対応と現在の主張に整合性が全くないことを理解できていないのか、あるいは、分かっていても「ウソ」を重ねるしかなくなっているかのどちらかだ。繰り返しになるが、同町がハンターの開示請求に入札結果表を非開示にしたのは昨年6月。非開示方針を決めた時期については、「いつから非開示にしたのかについては聞いておらず、分からない」と回答していたのだ。「7月から」と言い出した理由は判然としないが、お粗末すぎるウソである。

さらに、「役場の掲示板に入札結果を貼り出していた」という説明が事実なら、入札結果非開示の理由に挙げた《過去公開したことにより、反社会的勢力が知るところとなり、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律で規定されている禁止行為を、この勢力が落札業者に行うといった事案が発生した》ため《本町においては、業者からの依頼もあり、暴力団対策法に規定される「事業者等が安心して暴力排除活動の実施に取り組むことができるよう、その安全の確保に配慮しなければならない」との規定を優先し、入札情報、落札情報の公開を控えてきたところである》、《公開することにより、反社会的勢力の知るところとなることは完全には否定できず、暴力団対策法の規定により今回非公開とした》とする主張との整合性もなくなる。反社勢力が掲示板を見れば落札結果がわかるわけで、入札結果表を隠すことに意味はない。子供でも分かる話だ。こうした不合理な主張が永原町長の指示によるものだとすれば、大任町の町民も、噓つき町長に騙されていることになる。

国の指導に従わない自治体の首長が、福岡県町村会の会長や全国町村会の副会長を務めていていいわけがない。ましてや永原氏は暴力団の密接交際者。これまで表面化した“事件”の真偽を確かめようともしない町村会や大任町議会は、機能不全に陥っていると言わざるを得ない。だが、国の指導に従って入札情報を公開した瞬間から、永原支配は終焉に向かうはずだ。

ちなみにきょう11日、田川郡添田町で、田川地区1市6町1村や田川警察署などが主催する「田川地区暴等追放総決起大会」が開かれる。田川市以外の6町1村に案内状を発出したのは「田川郡町村会」の会長である永原氏。黒い噂ばかりの暴力団密接交際者が暴追運動の主催者だというのだから、まさにブラックジョークである。

 

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