北海道新聞で相継ぐ在職死、年間6人|局次長急逝では編集幹部に「譴責」処分

地方紙・北海道新聞で、記者など社員の在職死亡が2022年11月からの1年間で6人に上っていることがわかった。12月上旬に設けられた同労働組合との団体交渉で、同社の宮口宏夫社長がこの事態に言及し「痛恨の極みで、たいへん重く受け止めている」と述べていた。溯って11月下旬には社内で懲戒処分があり、7月の編集局次長急逝について編集幹部2人が「譴責」処分を受けていた。亡くなった次長は、時間外勤務が23年3月からの4カ月間で月平均83時間に上り、同80時間を目安とする「過労死ライン」を超えていたという。本サイトが指摘したハラスメント疑いについては、内部調査の結果が11月上旬に報告され、「なかった可能性が高い」とされた。

◇   ◇   ◇

道新内部の『労務情報』や労組の『速報』などによると、同社では22年11月に編集委員の男性が亡くなったのを皮切りに、1年間で6件の訃報が伝わった。同社の全従業員は現在1,200人前後で、単純計算で1年間に0.5%の社員が在職死した形。6人中5人が編集畑の社員で、うち2人については本サイト既報の通り自殺だったことが強く疑われている。時系列でまとめると、以下のようになる。

・22年11月上旬  編集委員(54歳・男性)

・23年1月中旬  常務取締役(62歳・男性)=自殺疑い

・23年5月下旬  車両担当(56歳・男性)

・23年7月中旬  編集局次長(53歳・男性)=自殺疑い

・23年9月上旬  編集委員(59歳・男性)

・23年9月下旬  編集センター勤務(48歳・男性)

最後の1件は40歳代の内勤記者が退勤直後に自宅で突然死した痛ましいケースで、事情を知る同僚らは次のように証言している。

「彼はいわゆる『整理記者』で、亡くなる前日は午後11時ごろまで全道版の第四社会面を組んでいたそうです。ここ最近あまり体調がよくなさそうだったので、デスクに『早く帰れ』と言われていたんですが、実際に帰れる状況ではなかった。それまで急な欠員に備えて配置されていた『総合』という社員が、会社の人減らしで削られたんです。それで、彼のような責任感の強い社員が無理な残業を続けることになった。彼は独身でしたが、急逝した当日はたまたまお母さんを部屋に呼んでいて、母親が第一発見者になってしまいました」

亡くなった記者たちの全員に過労死が疑われるわけではないものの、いずれも決して高齢とはいえない世代。まして6人中2人に自殺が疑われているとなると、事態は深刻だ。12月8日付の『労務情報』には、労組との団交で宮口宏夫社長がこれについて発言した内容が採録されている。以下に、一部を引用しておく。

《ともに働いてきた仲間を失うことは、痛恨の極みだ。可能な限りご弔問にうかがい、ご遺体にご挨拶し、ご遺族にお悔やみを申し上げてきた。多くの場合は葬儀で弔辞も読ませていただいている。お一人お一人の尊い人生に思いをはせる時、社長として、これほどつらく悲しいことはなく、大変重く受け止めている》

再発防止策としては、メンタルヘルスに関する社員研修や産業医らの健康相談などを強化していくという。それらの説明の過程で宮口氏は、7月に急逝した編集局次長の超過勤務について次のように報告した。

《客観的事実として、4月の局次長就任を挟む3~6月にかけて長時間労働があった。産業医など専門家からは、長時間労働が体調変化につながった可能性が否定できないとの見解が示されており、会社として厳粛に受け止めている》

上の事実は、内部調査の結果として11月8日の時点で社員に伝えられていた。局次長の3月から6月までの時間外勤務が「過労死ライン」を超える月平均83時間に及んでいたとの報告だ。社は「労働時間が適正に管理されていなかった」として、編集局長と経営管理局長を「譴責」の懲戒処分とした(11月28日付)。本サイトが指摘していたパワーハラスメント疑いについては、会社として関係者40人あまりへの聴き取り調査を行なったといい、最終的に「事実は確認できなかった」「なかった可能性が高い」との結論に落ち着いた。亡くなった局次長を知る記者の1人は、これを次のように受け止める。

「調査では、勤務時間の記録が実態と乖離していたことなどが問題とされました。一方で『パワハラはなかった』としていますが、そもそもこの調査は社外の第三者とかに委嘱したものではなく、いわば利害関係者らが自ら調べていたようなもので、ハラスメント認定に到るわけがない。役員に直接『お手盛りだ』と苦言を呈した社員もいるようですが、そういう声は無視されているんでしょう。一部の幹部は飽きもせず、今も『ハンター』や『北方ジャーナル』のネタ元を探り続けてますよ」

職員1万人超のNHKで年間10人前後の在職死問題が国会で採り上げられたのは、4年あまり前のこと。対従業員の比率で言えばNHKを大きくしのぐ北海道新聞の在職死問題は、幸か不幸か同社の内部で話題に上っているのみだ。自殺が強く疑われる局次長へのハラスメント被害の疑いも内部調査で事実上否定され、おそらくは遠からず忘れられることになる。

現職記者の1人は、9月に伝わった内勤記者の急逝にからめ、職場への失望を次のように語る。

「亡くなった彼はスポーツ記者だった時代、五輪の取材で上司に無理難題を言われ、大腸に穴が開く憩室炎を発症したことがあります。頑張った奴ほど早死にし、生き残った社員たちも必ずしも正当な評価を得られない。若手の離職率にも歯止めがかからず、うちはもはやブラック企業です」

こうした声は、社の舵取りにどこまで届いているのか。先の『労務情報』に収録されている宮口宏夫社長の声の一部を引用し、本記事の結びとしたい。発言は、「30年後の将来像」を尋ねる労組の問いに答えた一節だ。

《「北海道の健全なジャーナリズム」の中核を担い、地域の課題を掘り起こし、不条理を問い、道民の皆さんの思いにしっかりと寄り添う。それは創刊時も今も30年後も、さらにその先もずっと変わらない》

この機会に、社内の「課題」や「不条理」にも目を向けてみてはどうか。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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