大任町・入札情報公開の欺瞞|追従した権力の犬「読売新聞」の記事

報道に求められるのは、「ウォッチドッグ」=「権力を監視する番犬」としての役目だ。しかし、記者クラブ制度に胡坐をかく日本のメディアは役所や大企業の「広報」と化しており、権力側の「飼い犬」に成り下がる記者さえいる。

そういう輩が何の検証もせず役所の言い分をたれ流せば、結果として、住民を欺こうとする権力側に力を貸すことになる。今月5日、権力に媚びる「読売新聞」が、その典型となる記事を朝刊に掲載した。

■隠されてきた2021年6月以前の入札結果

今月3日、大任町の前総務企画財政課長で7月1日から会計管理者に異動したという幹部職員から、「ご要望をいただいていた2021年以前の入札結果が閲覧できるようになりました」という連絡を受けた。

大任町が発注した公共工事の入札結果を巡っては、2021年6月にハンターが情報公開請求し、同町がこれを拒否。同年7月に審査請求(異議申し立て)したが、町は答申を出すまで2年もかけながら非開示方針を変えなかったため、不当な決定の取り消しを求めて訴訟を提起していた。

本サイトが特に問題視していたのは、2021年6月以前の入札結果だ。大任町は、同月までの入札結果を役場玄関口にある掲示板に貼り出し公開していたと主張していたため、「いったん公表したものを非開示にするのは不合理」だとして、強く抗議した経緯がある。

入札結果非公開は入札契約適正化法違反。国は大任町の入札結果非開示を「違法」と断定したが、永原譲二大任町長は「ヤクザが、落札業者に1,000円のそうめんを1万円で売りつけた」、「町民を守るため入札結果の非公開を続ける」などと強弁し、入札結果を隠蔽し続けていた。

世論の厳しい批判を受けた永原町長は会見で、今年4月から2021年7月以降の入札結果だけを公表すると表明。しかし、永原体制下で繰り返されてきた公共工事の不正を示す2021年6月以前の入札結果は、非開示状態のままだった。

大任町が方針を一変させたのは、福岡県町村会の会長選挙が行われることになっていた先月6日の直前。「訴状は着いたか」という記者の問いに、同町側が返してきたのは「2021年6月以前の入札結果を閲覧できるようにします。ただし、公表できるのは平成30年度からのもので、平成29年(2017年)度分は文書の保存期間が過ぎたため、廃棄しました」」という回答だった。

記者はこの時、「庁舎内の各課のパソコンに、入札結果のデータが残っているという情報を得ている。29年度分もあるはず」と指摘していた。

■実態確認なしのお役所広報

今月3日、確かに2021年6月以前の入札結果が閲覧可能になった。そして下は、大任町の入札結果が公開されることを伝える読売新聞7月5日朝刊の紙面である。

この記事は、「入札情報を公開してやる」という、読者ではなく権力者側の視点に立ったもの。つまり、権力の飼い犬が書いた記事ということだ。記事を書いた新聞社員は、入札結果の公開実態を確認もせず、永原町政の宣伝文をたれ流したに過ぎない。現場を踏んでいれば、こんな内容の記事になるはずがないからだ。その証拠が下の画像である。

ハンターの記者は、大任町からの連絡を受けた翌日の今月4日、役場の担当窓口に行き「一番古い入札情報から閲覧したい」と申し出た。

役場側は、所定の用紙に氏名と閲覧目的を書き入れるよう求めてきたので、これに応じたが、さらに「閲覧についての注意事項がこちらになっております」と、窓口に立てかけられた上掲の文書を指さす。見て、呆れた。

「転載は、禁じます」「知り得た情報は、他に漏らさないこと」。確認したところ、「転載」とは、書き写した入札情報を、他に記載することだという。「知り得た情報は、他に漏らさないこと」は、読んで字の如くということだ。これでは、書き写した入札結果を“記事”にすることができない。

“転載は禁じる、知り得た情報は他に漏らすな、とはどういう意味か?記事にするなということか?”――立ち会った職員を問い詰めるが、この場では返答できないという。記者に連絡をくれた会計責任者に苦情を申し立てたところ、新任の総務企画財政課長と協議して回答するとしていたが、出稿まで返事はなかった。

公開」とは、情報を公衆に広く開放することであり、そこに何らかの条件や縛りを付ければ意味を成さなくなる。「転載するな」「他に漏らすな」という大任町の条件付き閲覧は、「非公開」と同義。読売は町が英断したかのように「町外在住者にも公開」と大きく見出しを打ったが、実態はまるで違うものだった。

そもそも、法に従えば入札情報の開示に条件を付ける自治体などどこにもなく、誰であれ見るのは自由。これまで公開してこなかったことが問題なのに、読売の記事はその点について深く追及していない。それどころか、指定暴力団にすべての責任を押し付けてきた永原町長の主張をそのまま受け入れ、良い方向に進んだと言わんばかりの書きぶりだ。これが「報道」とは聞いて呆れる。

読売の記事の最大の問題は、次の一節だろう。

町によると、当初は公表対象を21年7月以降分とし、それ以前の分については町情報公開条例に基づいて公表する想定だった。ただ、そうすると開示を受けられる人が限られてしまうため、無条件の公開を前提に運用改善を図り遡れる範囲で準備を進めてきた

読売に尋ねる。「転載は、禁じます」「知り得た情報は、他に漏らさないこと」のどこが無条件なのか?この記事を書いた記者は、恥ずかしくて答えることなどできはしまい。

もう一点、「遡れる範囲で準備を進めてきた」とあるが、前述したように、当初大任町が公開可能としていたのは平成30年度以降の入札情報で、29年度分のデータが各課のパソコンに残っているはずだと指摘したのはハンターの記者。実は、4日に役場窓口で開示された「一番古い入札情報」は、廃棄されたはずの平成29年度のものだった。会計管理者は平然と、「それが、ご指摘の通りでした。パソコンの中にデータが残っていたんです」。ハンターの記者が指摘していなければ、29年度分の入札結果は闇に葬られていたということだ。

あたかも大任町が情報開示に積極的な動きを行ったかのような読売の記事は、町民や関係者を欺き続けてきた永原町長の意に沿う内容だ。つまりは権力の飼い犬が、永原氏に命じられたか、あるいは忖度したかのどちらか。実態を調べもせず、権力側に歪められた内容をたれ流す者に、「ジャーナリスト」を名乗る資格などあるまい。

(中願寺純則)

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