FAX利用で個人攻撃|久留米商工会議所・会頭選挙の「怪文書」(下)

長年、選挙に関わってきたことで、対立候補のスキャンダルなどを記した様々な「怪文書」を見てきた。どれも程度の低い内容ばかりだったが、これほど酷いやつにお目にかかったのは初めてである。

昨年11月に行われた福岡県久留米市の商工会議所会頭選挙で、現職の本村康人氏(75)を支持する「心ある幹部」(文書中の自称)らが、会議所の議員あてにFAX送信した2通の文書は、小学生でさえ笑うようなお粗末なものだった。

今回紹介するのは、昨年10月23日に商工会議所の近くにある「セブンイレブン」から送信された怪文書第2弾。内容は対立候補に対する一方的な誹謗中傷で、自分たちが担ぐ現職の本村氏を讃え過ぎたため、逆にいやらしさを演出する格好となっている。

■発信元は会議所近くのセブンイレブン

昨年10月6日に別のセブンイレブンから発信された第1弾は、会頭選挙に関する報道を続けていた西日本新聞を非難する内容で(既報)、その最後の段落に「明らかに報道の名を借りた本村会頭への個人攻撃」という一文があった。

公平・公正を旨とするのが大手メディア。本村氏を攻撃する内容の記事など西日本新聞のどこを探しても見つかるはずはないのだが、本村氏を支持する「心ある幹部」たちにとっては、会頭選挙について報じられること自体が迷惑だったのだろう。

「選挙」になったのは39年ぶり。つまり、本村体制に危機感を募らせた人々が数多くいるということの裏返しであり、そうなった原因が、本村氏が主導してきた“会議所の政治利用=商工会議所法違反”であることが広まるからだったに違いない。

新聞批判に効果がないことを悟ったのか、「心ある幹部」を名乗る連中は、第2弾を発信。今度は、本村氏の対抗馬になった筑邦銀行の佐藤清一郎頭取に牙を剝いた。下の画像がその第2弾の怪文書で、前半と後半に分けて書き写し、内容を検証する。

 

久留米商工会議所議員各位

時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

このたびは、新議員になられた皆様、誠におめでとうございます。

今度は11月1日の臨時議員総会の会頭選任を経て新たな体制で出発することになりますが、会頭選任をめぐり、一部マスコミで記事や取材が偏っていると思われるような報道がなされております。私どもとしては看過できない事態と重視しております。

このため、過日、久留米商工会議所の心ある幹部たちが協議した結果、可能な限り正確な情報や動向をお伝えできるよう努力いくことを申し合わせました。皆様には適宜、FAXが届くようになると思いますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。なお、このFAXは2号目のものとなります。

11月1日の久留米商工会議会頭選任には、本村康人現会頭はまだ去就を明らかにされていませんが、衆目の見るところ立候補を表明された筑邦銀行の佐藤清一郎頭取と現執行部が推す候補との一騎打ちが確実な情勢です。

私どもは本村氏に立候補して頂き、もう1期会頭の重職を担ってもらい、後継者に安定した会議所運営をバトンタッチしてほしいと願っています。本村氏は長期政権、ワンマンだというような批判があるのは承知していますが、反面、久留米商工会議所の活性化、市内の零細中小企業の振興に尽くされてきたのは皆さん、よくご理解をいただいているところです5期15年間の実績がてことなり、久留米経済が衰退の土壇場で踏みとどまっていることが、その証左だと思っています。商店街に賑わいを取り戻すためのイベントやお祭りの創造などアイデアを自ら考え、歴代のどの会頭にも引けを取らない実績を残されています。私たちは本村氏に有終の美を飾っていただき、そのうえで安定した会議所運営を引き継いでいっていただきたいと念願しておりますし、私どもも、次の3年間で素晴らしい後継者を全力で産み育てる覚悟をしております。

まずは、前段。「久留米商工会議所の心ある幹部たち」がこの怪文書を発信した目的は、どうやら「本村氏に立候補して頂き、もう1期会頭の重職を担ってもらう」ため、ということのようだ。「心ある幹部」たちが誰を支持しようと勝手だが、その理由がいただけない。曰く、「(本村氏が)久留米商工会議所の活性化、市内の零細中小企業の振興に尽くされてきた」、「5期15年間の実績がてことなり、久留米経済が衰退の土壇場で踏みとどまっている」――。笑止の沙汰である。

商工会議所の会頭が「会議所の活性化、市内の零細中小企業の振興」に尽くすのは当然のことで、あえて功績に挙げることではない。商工会議所法には《商工会議所は、その地区内における商工業の総合的な改善発達を図り、兼ねて社会一般の福祉の増進に資することを目的とする》と定められているからだ。

「5期15年間の実績がてことなり、久留米経済が衰退の土壇場で踏みとどまっている」に至っては、牽強付会の妄言と言うしかない。見方を変えれば、本村体制が続いたために「久留米経済が衰退の土壇場」から抜け出せておらず、発展していないということだろう。そもそも、商工会議所だけの力で地場経済が動くという考え自体が間違いだ。

■「本村氏への個人攻撃」を批判しながら他者を激しく「個人攻撃」する矛盾

後半部分は支離滅裂。怪文書を作成した「久留米商工会議所の心ある幹部たち」は、自分たちの主張が矛盾していることに気付いていない。興奮して我を忘れたのか、ただのバカかのどちらかだ。

翻って佐藤氏とその周辺の動向は、商工会議所会頭選びには相応しいとはとても思えないものがあるようです。周辺の人物からは本村氏への個人攻撃しか念頭にないような物言いや陰湿な動きが目立ちます。「佐藤会頭」が出来れば、スムーズな会議所の運営が乱れ、強権的な運営が行われるのではないか。そんな印象を持たれている議員さんたちは多いことでしょう。会議所運営でも銀行員が委任状集めで圧力を加えたような、時代錯誤の「恐怖政治」がまかり通るようになるのでしょうか。自由な風通しのよさを好む商売人にはとても受け入れられません。

会議所議員さんたちは佐藤氏について、銀行の頭取という肩書以外の人物像をどれだけご存じでしょうか。久留米市に生活拠点もおかず、こうした実態はほとんどの人が知らないと思います。立候補されるということなので佐藤氏の会議所議員としての活動を中心につまびらかにお伝えしましょう。

福岡市内の修猷館高から慶應義塾大学に進み、大手の銀行に就職して、筑邦銀行の頭取に就任しました。頭取就任から長くたちますが、会議所の議員になったのは今年7月25日です。それまでは筑邦銀行としては別の銀行幹部が議員職務執行者として会議所活動に参加していました。しかし、佐藤氏が議員職務執行者となってわずかです。7月に代理をおろし、自ら会議所議員となり、立候補する。見え見えの行動です。7月25日に議員になって以降、8月の臨時議員総会は代理で済まし、それ以外の本人出席はゼロです。会議所活動のイロハさえご理解されておらず、議員になったのは会頭の座を狙うための動きとしか映りません。まさに銀行マンとは思えないような政治色濃厚なお人柄だとお見受けします。今回の一部マスコミをも巻き込んだ会頭選任問題の混乱の責任の所在がどこにあるか、お分かりかと思います。

今月16日付け西日本新聞朝刊に掲載された筑邦銀行創立70周年記念の全面広告には正直びっくりしました。佐藤頭取と曽山茂志西日本新聞久留米総局長のインタビュー方式の広告です。そしてはたとひざを打ちました。「そうか新聞にあれこれ書かせ、その報酬として広告という“アメ”をしゃぶらせた」と。その癒着構図の行きつく先がこれか、と妙に納得しました。最近では、銀行の役職員が優越的地位を濫用し委任状獲得に奔走しているとの話しも聞きます。議員の皆さん、こうした欲の絡んだ背景、行動に目を凝らせ、会頭選任問題の混乱の本質を良くお考えいただけたら幸いです。

令和4年10月24日

久留米商工会議所議員 同志一同

文中の「佐藤氏とその周辺の動向は、商工会議所会頭選びには相応しいとはとても思えないものがある」は、まさに噴飯ものだ。『佐藤氏とその周辺の動向』とは、後に続く『本村氏への個人攻撃しか念頭にないような物言いや陰湿な動き』を指しているようだが、名前を明かさず「怪文書」をまき散らすことこそ陰湿。さらに言うなら、会議所組織を使って政治活動を行い、県から「商工会議所法違反」を指摘されて前代未聞の改善指導を受けた“本村氏とその周辺”こそ「相応しいとはとても思えない」存在だろう。

数行後の「銀行マンとは思えないような政治色濃厚なお人柄」も同様に、本村陣営にとってのブーメラン。国会議員の後援会幹部として強権を振るってきた本村氏こそ、「会頭とは思えないような政治色濃厚なお人柄」なのである。

最悪なのは、「周辺の人物からは本村氏への個人攻撃しか念頭にないような物言いや陰湿な動きが目立ちます」として「個人攻撃」を批判しながら、佐藤頭取について「会議所活動のイロハさえご理解されておらず、議員になったのは会頭の座を狙うための動きとしか映りません」、「新聞にあれこれ書かせ、その報酬として広告という“アメ”をしゃぶらせた」と述べたこと。これは裏付けのない虚構であり、佐藤氏に対する明らかな個人攻撃だ。しかも、「(本村氏への)個人攻撃しか念頭にないような物言い」などという生易しい表現ではなく、佐藤頭取の人格を直接的に攻撃しているのだから悪質という他ない。明らかな名誉棄損である。

実は、2度にわたって怪文書を作成し、コンビニから会議所の議員あてにFAXを送った“犯人”は割り出し済みで、訴えられる可能性がある。そうなったとして、「心ある幹部」はどのような言い訳をするのだろうか……。

ちなみに、久留米商工会議所が商工会議所法に抵触する政治活動を行っていたことが発覚したきっかけは、本村氏らが会議所の関係者に送った選挙絡みのFAX。FAX番号が会議所の代表番号だったことに気付いたハンターの記者が周辺取材を重ね、違法な活動実態を暴いた。今回入手した2通目の怪文書の前半には、「皆様には適宜、FAXが届くようになる」と記されている。確かに、1通目も2通目もFAX送信されたものだ。郵送ではなく「FAX」を使う手口は、「心ある幹部」も同じようだが……。

■問われる本村氏の会頭としての資格

ここで改めて明確にしておきたいのは、久留米商工会議所について報道してきたハンターの立場だ。まず、前稿でも示した3本の配信記事で、久留米商工会議所の本村体制を厳しく批判した。当然本村氏は責任をとって辞任するものと思っていたが、図々しく居座り、お粗末極まりない怪文書をまき散らすような「幹部たち」に支えられて、僅差ではあるが会頭選挙で6選を果たした。
・《久留米商工会議所政治組織に公選法違反の疑い|市長選告示前に「出陣式」の案内
・《久留米商工会議所に「商工会議所法」違反の疑い(上)|政治担当の専務理事は取材拒否
・《久留米商工会議所に「商工会議所法」違反の疑い(下)|政治活動の説明は虚偽

今回の会頭選挙で会議所の議員諸氏は、なじみの薄い銀行の頭取より関係の深い本村氏を選んだとも考えられる。中には、今回報じた「怪文書」に騙された議員もいたはずだ。しかし、会議所の議員は、本村氏が経営者としてどのようなことをやってきたのか詳しくは知るまい。ハンターは2017年9月12日、リニューアル前のサイトで“『久留米商工会議所「会頭」の資格に疑義』と題する記事を配信し、会社を破綻させた同氏の会頭としての資質や資格に疑問を呈した。いま、本村氏に会頭としての資格があるかと問われれば、記者はハッキリ「いいえ」と答える。本村氏は過去に、久留米市民はもとより福岡県民全体に多大な迷惑をかけていたからだ。次稿で、その詳細を報じる。

(中願寺純則)

 

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