鹿児島県警が性被害を訴えた女性を門前払い|医師会・わいせつ行為者の父は元警官

昨年1月、鹿児島県警鹿児島中央警察署が、性被害を訴えて助けを求めに来た女性を事実上の「門前払い」にしていたことが分かった。応対した警察官は、被害を訴える女性が持参した告訴状の受理を頑なに拒み、様々な理由を付けて「事件にはならない」と言い張ったあげく女性を追い返していた。

背景にあるとみられるのは、身内をかばう「警察一家」の悪しき体質と性被害への無理解。意図的な不作為が、醜悪な人権侵害につながった可能性さえある。

■聴取数時間、告訴断念を迫った女性警官

関係者の話によれば、鹿児島中央署が強制性交の告訴状提出を拒んだのは昨年1月。同署に助けを求めたのは、県が設置した新型コロナウイルスの療養施設で鹿児島県医師会の男性職員(昨年10月に退職。本稿では「男性職員」)に強制性交されたとして告訴状を提出しようとした療養施設の女性スタッフAさんだった。

Aさんに応対したのは、同署強行犯係の「マエゾノ」と名乗る女性警察官だったが、「自分も性被害にあったことがある。それをなくすために警察官になった」と言いながら、終始一貫して訴えの受理を拒絶。「防犯カメラなどの証拠がない」、「(訴えると)精神的にも労力的にも大変。あなたが望む結果にはならない」などと言い募り、「検事が判断する材料がない」として突き放していた。

女性警察官は聴取中、「上司に確認してくる」と何度も離席。指示を受けたらしく、「(訴えは)受理できない」として何度も告訴断念を迫っていた。当日の女性警察官の言動からみて、鹿児島中央警察署が、組織ぐるみで強制性交が疑われる事案のもみ消しを図った可能性が高い。

■「犯罪捜査規範」に抵触

1957年(昭和32年)に国家公安委員会規則として、警察官が捜査活動の際に守るべき心構えや捜査方法、手続き等を定めた「犯罪捜査規範」が制定された。その63条には、告訴や告発への対応について次のように定められている。

告訴、告発および自首の受理
第63条 司法警察員たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があったときは、管轄区域内の事件であるかどうかを問わず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない
2 司法巡査たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、直ちに、これを司法警察員たる警察官に移さなければならない。

犯罪捜査規範に従えば、告訴状を受理するのが警察に課せられた義務。告訴状に不備がなければ、受理した上で捜査を尽くすのが警察官の仕事なのである。やらない、できないというのであれば、関係した警察官は全員辞職すべきだろう。

鹿児島中央署でAさんの聴取にあたった“マエゾノ”という女性警察官(現在は異動)は、「上司に確認してきます」と言って何度も離席していることから、調書の作成などについて大きな権限が認められた巡査部長以上の「司法警察員」ではなく、「司法巡査」と呼称される巡査か巡査長だとみられる。つまり、鹿児島中央署の上級職は、後ろに隠れて権限を有しない警察官に対応させ、告訴を断念させるよう仕向けたということだ。意図的な不作為で“もみ消しを図った”と言っても過言ではあるまい。

■警察の不作為による被害

警察の不作為によって凶悪犯罪を招いたり、被害者が泣き寝入りしたりするケースが後を絶たない。1999年に起きた「桶川ストーカー殺人事件」では、埼玉県警上尾署がストーカー被害を受けていた女子大生とその家族の訴えを黙殺した結果、女子大生が殺害されるという悲劇を生んだ。さらにこの時は、メディアスクラムといくつもの虚報によって、亡くなった被害者の名誉が著しく棄損されている。

直近では2019年、佐賀県鳥栖市に住む一家の主婦に絡んだ金銭要求や脅迫などの被害を訴えて相談に来た夫に応対した佐賀県警鳥栖署が、被害届を受理せず動こうとしなかったことが原因で、福岡県太宰府市内で主婦が殺害されるという「太宰府事件」が発生。責任を追及された佐賀県警の本部長が更迭されるなど、警察の「不作為」が社会問題化した。

事件から逃げる警察の姿勢は、特に鹿児島で顕著だ。2013年に鹿児島市内で起きた兄妹間の暴行事件で、大けがを負った妹が県警南署に兄への処罰を求め続けた。しかし、同署が被害届を受理したのは6年後の2019年6月。事情を知った県会議員が被害者を伴い南署に出向いてからだった(既報)。そして今回の鹿児島中央署による門前払い――。無実の人間を選挙買収の犯人に仕立てた「志布志事件(踏み字事件)」で叩かれたのちも、鹿児島県警の腐った体質は健在のようだ。

■背景に「警察一家」の庇いあい?

鹿児島中央署が、証拠まで示して性被害を訴えた女性を門前払いにした理由は何か?その疑問を解くカギは、鹿児島県医師会の池田琢哉会長が県くらし保健福祉部を訪ねた際の記録文書と、県医師会郡市医師会長連絡協議会の録音データに残されていた。

下の文書は、ハンタ―が鹿児島県への情報公開請求で入手した「県医師会池田会長の来庁結果について」と題する内部文書である。

池田氏は、被害を訴えている女性が門前払いされた約1カ月後の令和4年2月10日に、新型コロナ対策を所管するくらし保健福祉部を訪れ、「強姦といえるのか、疑問」「強制的であったのかどうか」などと男性職員を庇う形で一方的に女性を誹謗。事件を起こした男性職員が元警官の父親と共に警察に相談した際の県警側の見立てが、「刑事事件には該当しない」だったという趣旨の話をしていた。

 さらに、同年2月22日に開かれた県医師会郡市医師会長連絡協議会では、大西浩之常任理事(現・副会長)が次のように述べていた。

また、その後ちょっと自分ではどうしようもないということで妻やその両親に現状を報告。この、妻子供がいるんですけれど、A職員にはですね。両親に報告し、両親も協力するということで弁護士の紹介を受けて、戦おうということで、警察に数回相談に行き、証拠を提出しております。その際は、まあ、ちょっとこれは分かりませんけれども、暴行と恐喝で負けることはないよ、と、訴えられても、と言われたというんですけれども、まあ、これはちょっと、流してください。

*再生ボタンで音声が流れます。音量にご注意ください。

池田・大西両人の話は、コロナ療養施設などで起きた出来事について相談に出向いた男性職員と元警官の父親が、県警から「刑事事件にはならない」とのお墨付きをもらったという内容。事実なら、県警が男性職員と元警官である父親の話を真に受け、「合意の上での性交渉」だと予断をもって事案に対応した疑いが生じる。

ハンターの調べによると、男性職員の父親が退職まで勤務していたのは、Aさんを「門前払い」にした鹿児島中央署。警察一家特有の庇い合い体質が、性被害を受けたとする女性の訴えに拒絶反応を示し、組織ぐるみで事件のもみ消しにかかったという見立ても成り立つ。

いずれにせよ、「合意に基づく性行為」を公言してきた池田会長ら県医師会幹部の強気の姿勢の裏に「刑事事件にはならない」などとする捜査関係者の発言があったとすれば、警察が「人権侵害」の片棒を担いだ格好となる。

■偏執的な取材拒否

性被害を訴えて助けを求めた女性を門前払いにしたことや、女性の言い分を聞く前に「刑事事件にはならない」などと結論付けたのは事実か――?ハンターは今月10日、鹿児島中央署に出向いて取材を申し入れたが、「こちらでは対応できない」として取材拒否。やむなく受付に署長宛ての質問書(*下、参照。黒塗りはハンター編集部)を預けたところ、「受け取れない」(同署警務課)として返送してきた。公務員でありながら、説明責任を果たさないばかりか、もらった文書を配達証明付きで送り返すという偏執的な対応。“やっぱりクロか”と思わざるを得ない展開となった。鹿児島中央署にとって都合の悪い話は、すべて「門前払い」なのだろう。

■1年経っても終わらぬ捜査

人権無視の鹿児島県医師会は、一方的に「合意の上での性交渉」と発表した(既報)。だが、事件捜査は終わっていない。門前払いに呆れた女性の代理人弁護士が鹿児島中央署に抗議したことで告訴状は正式に受理されたが、やる気がないのか捜査は停滞。関係者の調書さえそろっていない状況だという。告訴状提出から1年、性被害を訴えている女性は、いまも苦しみを背負ったままだ。

 

 

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