8日、鹿児島県医師会(池田琢哉会長)の男性職員(昨年10月に退職。以下「男性職員」)による強制性交疑惑が、参議院予算委員会で取り上げられた。
国が示した見解は、女性の人権を無視して一方的に「合意があった」と結論付けた県医師会や、当初女性の告訴状提出を拒んだとされる鹿児島県警の姿勢を否定するもの。改めて、女性の人権を無視して暴走した県医師会・池田会長の責任が問われることになりそうだ。
■女性の人権、踏みにじった県医師会
事件が起きたのは2021年の秋。当時新型コロナの療養施設で調整役を担っていた鹿児島県医師会の男性職員が、療養施設に派遣されていた女性スタッフに何度も強制性交が疑われる行為に及び、22年1月に「合意はなかった」とする女性から刑事告訴されていた。
県医師会の池田琢哉会長は、事件が表面化する前の22年2月10日、わざわざ県の担当部局に出向き『強姦といえるのか、疑問』、『複数回』、『(警察からは)事件には該当しないと言われている』などと説明。“合意があっての性交渉だから問題ない”という考えを示していた。
事案の矮小化を図ろうという狙いがあったことは明らかで、そこには療養施設で不安を抱えながら過ごしていたコロナ患者に対する配慮や、「強制性交」の被害を訴えている女性に対する思いやりの気持ちは一切なかった。
事件を知った県から報告書の提出を求められた医師会は、男性職員がパワハラやセクハラの常習者であることを把握しながら、対外的にはその事実を隠蔽。県への報告書には男性職員を庇うような文言を並べ立て、会見では、医師会の顧問を務めている新倉哲朗弁護士(和田久法律事務所)が、警察による捜査が継続している状況であることを知りながら、「合意に基づく性行為だった」と断定していた。
■国が池田医師会長らの主張を否定
8日の参議院予算委員会で、県医師会の男性職員による“事件”を取り上げて質問したのは、女性蔑視と取れる発言や差別的発言を繰り返してきた杉田水脈元総務大臣政務官を追及したことで知られる塩村あやか参院議員。
塩村氏は、性暴力に関する質問のなかで、性被害を訴えている女性スタッフが「合意はなかった」と主張して刑事告訴していること、県医師会が「複数回の性交渉があったから強制性交ではない」などと強弁していること、鹿児島県警が当初、女性の告訴状を受け取らず事実上の門前払いにしたことなど、一連の経緯を詳しく説明。厚生労働相、法相、男女共同参画担当相、警察庁刑事局長にそれぞれの見解を求めた。
質疑の冒頭、事件の受け止め方を尋ねられた加藤勝信厚労相は、新型コロナ療養施設でわいせつ事案が起きたことについて「大変遺憾」と表明。同省の健康局長は、鹿児島県が医師会に対して行った厳しい指摘(既報)を読み上げる形で、事案の内容を「承知している」と答弁した。
次いで、強制性交の成立要件について法務省は、複数回か否かだけで判断するものではないと回答。小倉將信男女共同参画担当相は、一般論と断りながらも踏み込んで「複数回の性行為であっても望まないものなら性暴力にあたる」と明言した。
性被害の訴えがあった場合の対応について問われた警察庁刑事局長は、「要件が整っていればこれを受理し、速やかに捜査を遂げて検察庁に送付する」とした上で、「被害者の立場に立って対応すべきで、その際は、警察が被害届の受理を渋っているのではないかと受け取られることのないよう、被害者の心情に沿って対応するよう指導している」と答えた。
ちなみに、被害女性の訴えを門前払いした鹿児島中央署の井上昌一署長は、今年4月に県警の刑事部長に就任予定。国会で警察庁の指導方針が示された以上、性被害対応について、適正な指揮指揮を執るものと信じたい。
今回の塩村議員の質問に対する国側の答弁は、鹿児島県医師会による「複数回あったから合意に基づく性行為だった」という一方的な主張と、いったんは告訴状の受理を拒んだ鹿児島県警の姿勢を真っ向から否定するものだ。「複数回合意論」を振りかざし、性被害を訴えている女性の人権を踏みにじってきた県医師会の池田会長とその側近らは、どう責任をとるのだろうか。
(中願寺純則)