地元住民が反対運動を展開している「田川バイオマス発電所」の事業者である南国殖産(鹿児島県)が、事業認可を求めるため九州経済産業局に提出した書類に「宴会」を「住民説明会」と記載していた問題で、ハンターが新たな「虚偽」を示す証拠文書を入手した。
■「住民説明会」じつは「宴会」
まず、バイオマス発電の推進を訴えた佐々木允県議会議員の議会質問が起点となる形で計画がスタートした「田川バイオマス発電所」に関するこれまでの経緯について、時系列表を再掲しておきたい。
ハンターが最初に「虚偽」を指摘したのは、南国殖産が2020年3月31日に九州経済産業局に提出した発電所の申請書類に添付された『バイオマス燃料の調達及び使用計画書』の記載。同社はその中の『地域社会に対する対応』という項目に、「令和元年11月7日」に「近隣住民説明会」を開き、「地域住民」に「丁寧」に説明し「理解を得られた」と記していた。(*下の文書参照)
ところが、「近隣住民説明会」は真っ赤なウソで、実際には田川市内の日本料理店に関係する3人の区長らを招いた「宴会」だったことが、ハンターの取材で判明。この事実を隠蔽するため、南国殖産と九州経済産業局は当初、グルになって該当箇所を黒塗り非開示にしていたことも露見する。
■九州経済産業局が「廃棄した」当初の計画書を入手
南国殖産が虚偽の内容で国を騙した形だったが、ハンターは、『バイオマス燃料の調達及び使用計画書』の表紙部分に手書きされていた「林野庁差しかえ後」という文言に注目(*下、参照)。“差しかえ前”の計画書があるとみて九州経済産業局に確認した。
公文書管理にうるさいご時世、まさか「捨てた」などということはあるまいと思っていたが、同局担当課の回答は「廃棄しました」。別の隠蔽が疑われたため、改めて林野庁に当該文書の開示請求を行なった。
ハンターの開示請求書は林野庁から農林水産省に移送され、さらに九州経済産業局に再移送されるという異例の展開。その結果、平成30年12月20日に南国殖産が提出した計画書が開示された。下が、当初の計画書と、差しかえ後の計画書の表紙部分である。理由は判然としないが、年間に使用する木質チップの数量が、44,000トンから30,200トンへ大幅に減っているのがわかる。
一番の相違点は、やはり『地域社会に対する対応』に記された内容だった。まず、下が差しかえ前のものである。
「近隣住民説明会」はあくまでも“開催予定”。開催予定日は、平成31年(2019年)の2月となっている。問題は具体的な対応策で、その欄には「これまで地元の代表者に対しては事業内容の説明をし理解は得られている」とある。とんでもない作り話だ。
「地元の代表者に対しては事業内容の説明をし理解は得られている」などという話は、時系列で考えてもあり得ない。佐々木県議が県議会でバイオマス推進を訴えたのが2018年の6月。南国殖産が田川市に事業計画を提案したのは翌年1月で、市民に発電所建設計画が伝わるのはその後のことなのだ。平成30年(2018年)の段階で事業計画の存在を知っていたのは、計画への協力を約束していたごく一部の関係者だけ。住民説明会に関する南国殖産の記載内容は、最初も差しかえ後も厳しく言えば「虚偽」で、都合のいい作り話に近い。
差しかえ後の計画書(*下、参照)を確認してみれば、2種類の計画書の記載内容の違いが歴然となる。
二つの計画書を「初めて見た」という地元住民は、怒りを隠そうともせず、こう話す。
「信じられません。平成30年の段階で、住民の代表が発電所建設に理解をしていたはずがないですから。地元の代表とは誰のことなのか、聞いてみたい。よくこんな嘘が書けますね。差しかえ後の文書にある住民説明会はただの宴会で、それも嘘。南国殖産とは、どんな会社なんでしょうか。私たち地元住民を愚弄するにもほどがあります。あと、田川市はこれまで『民間の事業だから』といってごまかしてきましたが、差しかえ前の文書には、南国と田川市が早い時期から定例会やら協議やらを続けてきたとあります。田川市も共犯でしょう。いったん発電所の建設を止めて、住民説明会からやり直すべきです」
たしかに、2018年に提出された差しかえ前の計画書には、その他の特記事項として、「飯塚農林、田川市役所、発電所予定地一体の農地管理者、地区水利組合、筑豊地区木質バイオマス推進協議会の代表者、燃料調達事業者」らと「定例会及び協議」を行ってきたことが明記されている。しかし、令和2年(2020年)に提出された差しかえ後の計画書ではこうした説明が削除されており、田川市をはじめ計画を進めてきた関係機関を隠した形になっている。
事業者が計画書に明記した「住民説明会」や「理解を得た」は、実態を伴わない出来事。南国殖産という会社の、福岡における社会的な信用が揺らいでいる。