東京から全国に波及する公明党の「自民離れ」

自民党と公明党による連立政権が終焉の危機を迎えている。「10増10減」を軸にした公職選挙法改正による区割り変更で、新東京28区から候補者を擁立するとしていた公明党。5月25日に自民党の茂木幹事長と公明党の石井啓一幹事長が国会内で話し合ったが着地点を見いだせず、石井氏は「東京における自公の信頼関係は地に落ちた。東京での自公間の協力関係は解消」と宣言した。その後も調整が続いているが、いったんできた大きな溝は埋まりそうにない。

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公明党は新東京28区での候補者擁立を取り下げるだけではなく、東京における自民党の衆院選候補には推薦を出さない方針。新東京29区で出馬が決まっている公明党の候補に、自民党の推薦を求めることともないという。長く続いてきた東京都議会での自公協力も解消するという厳しい姿勢だ。

自民党と公明党の連立は、1999年の小渕政権時代からスタートし、すでに20年を超える「蜜月関係」を築いてきた。2009年の総選挙で自民党が敗れ、民主党政権に代わったあとも、自公の良好な関係は継続した。自民党のある大臣経験者が、苦々しい表情でこう語る。
「今回、公明党と決裂したのは大失敗だ。茂木が幹事長となって以降、公明党とはずっとボタンの掛け違いのような政権運営が続いていた。公明党の票がないと当選できない議員がどれだけいるのかわかっているのか……」

公明党は、東京での連携を解消するが連立政権にはとどまるとしている。だが、愛知県の公明党関係者は、現状はそう簡単に割り切れるものではないと話す。
「協力関係の解消が首都の東京だけとなっても、その流れは地方にも波及するでしょう。これまで、公明党の票が100あれば90程度は自民党候補にいっていたのに、70とか60になる可能性がある。正直、憲法改正に前のめりの自民党に、公明党・創価学会は苦々しい思いで1票を投じていたところがありますから。自民離れが加速する可能性が高いでしょうね」

4月に行われた衆参の補選では、自民党が1勝4敗と結果的には野党に圧勝する形となった。しかし、選挙区ごとにみていくと山口2区は自民党が無所属候補に約6千票差、千葉5区は5千票差、参院大分は300票差と薄氷を踏む勝利だった。「接戦だった3つの選挙区には、いずれも公明党票が1万票以上含まれている。それがないと、1勝4敗だったという党内の声は少なくない。安倍元首相の銃撃事件を受けた山口4区にしたって、ダブルスコアで勝っているものの公明の票がなければ大差にはなっていなかった」(前出の自民党大臣経験者)

今回の交渉決裂の影響は東京から全国に広がり、「自民党離れドミノ」が起きる可能性がある。

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公明党が新東京28区にこだわり、連立を揺さぶるほどの手に打って出た背景にあるのは、日本維新の会の台頭だ。統一地方選では、600という目標をはるかに上回る700を超す議席を獲得。維新は、奈良県知事選と和歌山1区の衆院補選でも勝利するなど勢いに乗る。

これまで公明党は自民党と連立を組みながら、大阪だけは「特例」にして維新と連携を図ってきた。維新の一丁目一番地だった「大阪都構想」が、公明党との連携がなければ実現できなかったためだ。その見返りが、大阪と兵庫、衆院6つの選挙区で維新が候補者を出さないという「密約」があった。

しかし、今回の統一地方選で大阪市議会の過半数を制した維新にとって公明党は用済み。連携は不要になっている。和歌山1区の補選で勝利した維新の馬場伸幸代表は、「公明党にお願いすることはなくなりました。6つの選挙区にも独自で出すという意見が党内では多い」と述べ、「密約」終了を宣言した。

一連の選挙の流れから見て、公明党が今の維新に勝てる見込みはない。大阪の公明党関係者は、「(維新には)とても対抗できません。6つの選挙区すべてとられるでしょう」と白旗をあげる状況だ。

公明党は、新東京29区に加えて愛知県や埼玉県で擁立する候補者を決めている。それでも大阪と兵庫の6つからみれば半分だ。ある公明党の幹部は、次のように話す。
「大阪と兵庫が6からゼロになる。その分を取り戻すには、東京で二つはとりたい。だから自民党に新28区を譲っていただくようお願いした。しかし、予想外の反発があって東京での連携まで解消することになった。困るのは自民党の方だ。例えば、東京15区の柿沢未途衆議院議員は、山形県の自民党所属で支部長ではない。この選挙区は、公明党の東祥三元衆議院議員の地盤だったので、わが党が候補者を出せれば勝算がある。これまでなら、『新東京28区はダメだが他でなんとか調整を』と自民党は落としどころを提示してきた。しかし、今回は上から目線で『新28区は譲らない』というばかり。これじゃ、やっていけない。東京だけの連携解消だが公明党支持者の気分としては“ふざけるな”というのが正直なところ。全国的に自民党離れが起きても仕方がない」

サミット効果もあって上昇傾向を示していた内閣支持率も、首相秘書官を務めていた首相の息子が公邸でやらかした忘年会問題で相殺された格好だ。永田町では、安倍晋三元首相の銃撃事件1年を「利用した」7月9日を投開票とする解散・総選挙説が流れていたが、公明党と決裂したままで解散総選挙に突っ込むとは思えない。

「公明党とのケンカが東京だけに納まるよう、解散総選挙は時間をおくしかない。公明党が大阪と兵庫の6つの議席のため、東京で維新と手を組むこともあり得る。そんなれば政権交代の危機だ」(前出の自民党大臣経験者)

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