本サイトが4月から報告を続けている北海道警察の違法捜査事件で、道警を相手どる国家賠償請求訴訟の原告代理人らが7月下旬、違法な逮捕や身柄拘束に関与した警察官らを特別公務員職権濫用致傷などで地元検察に告発した。同事件の捜査の違法性はすでに地元裁判所から指摘されており、告発を受けた検察の捜査の行方が注目されるところだ。
◇ ◇ ◇
7月21日付で札幌地方検察庁に告発状を送付したのは、本年3月下旬に違法逮捕の被害に遭った男性(25)の弁護人を務めた青木康之弁護士(札幌弁護士会)ら3人。本サイト既報の通り、男性は存在しない傷害事件の立件にこだわった札幌中央警察署の警察官らに任意同行を求められ、これを拒否したところ自室ベランダの窓ガラスを破って強行突入した機動隊員らに「緊急逮捕」された。
その後、薬物使用の疑いをかけられて強制採尿され、陽性反応が出たとして再逮捕。あわや起訴寸前のところ、当初の警察の対応が令状を伴わない違法捜査だったことなどを指摘した青木弁護士が身柄拘束に不服を申し立て、地元裁判所が同居女性(37)の証言に直接耳を傾ける異例の展開となった。
警察の報告と大きく異なる事実を知った札幌地裁が道警の捜査の違法性を認めることとなり、自ら「更正」決定で勾留を取り消して男性を釈放、札幌地検は傷害事件・薬物事件ともに不起訴処分とした。
被害男性らは先述の通り、道警に謝罪と賠償を求める国賠訴訟を6月中旬に提起したところで、当初の弁護人だった青木弁護士を含む3人が訴訟代理人を引き受けている。今回、札幌地検への告発に踏み切ったのはこの弁護士3人。告発状では2組の警察官(いずれも複数)による4件の違法行為を指摘し、それぞれ次のような“容疑”を示している。
1)男性らの居室のキーを不正に借り受けて玄関を解錠、侵入しようとした…住居侵入未遂
2)男性らの許可なく窓を破って室内に侵入し、男性を緊急逮捕、その際に加療4週間の怪我を負わせた…特別公務員職権濫用致傷
3)緊急逮捕後の令状などを発付してもらうため裁判所に虚偽の報告をした…虚偽公文書偽造、同行使
4)違法な令状により男性から強制採尿した…特別公務員暴行陵虐
「取り締まる側が法律を守らないと法治国家とは言えない」とは、告発人・青木弁護士の弁。捜査機関の感覚の緩みに警鐘を鳴らす同弁護士は、今回の告発の目的を次のように話す。
「最高裁は昭和53(1978)年、重大な違法でなければ証拠排除しないとする決定を出しましたが、その結果、警察は『重大な違法でなければかまわない』と考えるようになったと感じます。本来は『捜査が違法かどうか』が問われるべきなのに、今は『捜査の違法性が重大かどうか』が問われている。これはいびつなことで、やはり捜査機関が法律を守るという当たり前のことをするように立ち返るためにも、違法な捜査をしたら処罰されるということをしっかり知らしめる必要があり、そうすることで将来の違法捜査の抑止につながると思います」
告発人らは「仮に不起訴になった場合でも付審判請求や検察審査会申し立て(いずれも不起訴処分への不服申し立て手続き)まで視野に入れている」と話しており、捜査機関の違法行為を徹底的に追及する構えを見せている。被害男性らの国賠訴訟を通じても「文書提出命令」申し立てなどで虚偽報告などを裏づけていく考えだ。
発翌週の7月24日夕、札幌地検の会見で質問を受けた石井壯治次席検事は「現時点で私のところまで内容が届いていない」と断った上で「告発の要件が備わっていれば受理し、事実の存否について捜査を尽くして適切に対応していく」と話した。
国賠の第1回口頭弁論は9月1日午前、札幌地裁で開かれる。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |