ススキノ殺人・留置理由開示法廷傍聴記(上)|問われる「鑑定留置」の必要性

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弁護人:正当な理由がなければ拘禁されず、要求があればただちに公開の法廷で理由が示されなければならないと規定している憲法34条の趣旨に沿ったお答えをいただきたい。裁判官にはそもそも、被疑者の拘束は最低限にすべきという考えはあるのか?
裁判官:必要な期間という観点で判断している。

弁護人:これから母親にもいろいろ訊くことになるが、その受け答えを見て留置期間を考え直す可能性は・
裁判官:ここは留置理由を開示する場であり、今後についての言及は避けたい。

弁護人:このやり取りは調書になる。それをもとに職権発動で短縮する可能性はあるか・
裁判官:ないとは言わないが。

弁護人:母親の嫌疑で父親と違うのは、凶器を買に行くとか現場への送迎とかにまったく関わっていない点。それで共謀があると判断した根拠は・
裁判官:共謀も含め、被疑事実の嫌疑性については先ほど述べた通り。

弁護人:具体的な間接事実を、という質問だ。
裁判官:お答えできない。

弁護人:答える義務がないと?
裁判官:はい。

弁護人:犯行前後に『常軌を逸した面』があったと。本人は『関わっていない』と言っているのに、被疑者供述を前提としても『常軌を逸した』と評価できるのか?
裁判官:何度も申し上げるが、一件記録から判断されることを前提としている。

弁護人:質問に対応していない。
裁判官:何度訊かれても回答は同じだ。

弁護人:禅問答ではないか。これは公開の法廷で理由を示す手続きだ。
裁判官:理由は何度も述べた通り。

弁護人:理由になっているのか?
裁判官:証拠に基づいて必要性を判断した。

弁護人:被疑者の供述ではなく検察官の主張を前提としているではないか。ならば鑑定医が聴いても判断できないと言っている。
裁判官:いずれにしても鑑定の必要性がある。それ以上言うことはない。

弁護人:母親が本当に責任能力に問題のある人なのか、一度も本人と話をしようとせず半年間も拘束する理由は?
裁判官:先ほどから述べている通り。弁護人のご意見としては承る。

弁護人:簡易鑑定を実施しなかったのはなぜか?
裁判官:それ以前に本鑑定の必要があるということ。

弁護人:ではなく、簡易鑑定をした上で本鑑定を検討するとしなかったのはなぜか、と訊いている。
裁判官:簡易鑑定の必要はなく、むしろ本鑑定すべきと判断した。

弁護人:その理由は?
裁判官:先ほどから述べている。

弁護人:先ほどから述べていることが理由になっているのか?
裁判官:鑑定留置の必要性は、先ほど述べた通り。

弁護人:先ほどから『先ほど述べた通り』としか言っていない。
裁判官:これが理由だ。

弁護人:質問を変える。留置の場所を病院ではなく拘置施設とした理由を『一件記録から認められる事情』としか言っていないが、具体的には?
裁判官:一件記録から認められるとしか言えない。留置に適した場所と判断した。

弁護人:鑑定医がそうしてくれと言ったのか?
裁判官:鑑定医の意見も当然ふまえる。

弁護人:鑑定医はどういう意見か?
裁判官:ここで言う必要はない。

弁護人:なぜか?
裁判官:必要がない。

弁護人:なぜ必要ないのか?
裁判官:ここは理由開示の場であり、鑑定医の意見まで言及する必要はない。

 およそ噛み合わない「禅問答」の後、弁護人たちは改めて意見陳述し、来年2月末までとされる鑑定留置期間を本年9月8日までと大幅に短縮するよう裁判所に求めた。「責任能力に問題がない中で意味のない精神鑑定は許されない」「鑑定留置の真の目的は責任能力の判定ではなく捜査の時間稼ぎ」「裁判所は自らの頭で考えることなく捜査機関の引き延ばしに漫然と加担した」――。次々と繰り出される厳しい文言を、裁判官はどういう思いで聴いていたか。弁護人らはこの後、9月4日付で最高裁に特別抗告を行なう考えをあきらかにした。

 この日の法廷は、両親が事件後に初めて公的な場で意見を述べる機会でもあった。その2人の陳述内容にはもとより社会的関心が小さくないことがあきらかだが、こちらについては稿を改めて報告したい。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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