鹿児島県警、ストーカー事件被害者の申し入れに不誠実回答|当事者が語る県議会答弁「謝罪した」の実態

 昨年2月、霧島市内のクリーニング店に勤めていた20代の女性がストーカー被害に遭った。犯人は霧島署の巡査部長だったが、ハンターの取材や県警の疑惑が追及された県議会質疑などから、女性が同署に被害申告した際にいったん作成されたはずの「苦情・相談等事案処理票」がシステムから削除され、証拠となる防犯カメラ映像の重要部分まで消去されていたことが明らかとなっている。闇に光を当てたのは、鹿児島県警の本田尚志元生活安全部長による「公益通報」だった。

 県警は記者会見で被害女性に「謝罪」すると明言しながら何のアクションも起こさなかったため、一連の動きを受けた被害女性は今年9月初め、謝罪と説明を求める「申入書」を送付していた。県警は、2か月余りの間、被害女性の申し入れを無視。警官による複数の犯罪を隠ぺいするよう指示した疑いが持たれている野川明輝前本部長の異動に合わせるタイミングで、回答文書を発出したことが分かった。

■申し入れから2カ月でようやく回答

 霧島署の署員によるストーカー被害を初めて県警・霧島署に相談して以来、まともな対応をしてもらえなかった被害女性が、県警に事件捜査の過程について説明と謝罪を求めるのは当然だ。被害女性は9月初め、県警本部長あてに文書による謝罪と説明を求める「申入書」を郵送していた。

 県警は、この申し入れを黙殺。ハンターが事実関係を報じた(既報)後も、被害女性に対しては連絡さえなかった。ところが先月24日、県警総務課が被害女性に対し突然電話をよこし、回答ができたので手交したいと言ってきた。いまだに警官署との接触に恐怖心を抱く女性はこれを拒否。回答文書を郵送するよう求めたという。

 申し入れを行ってから約2か月。ようやく送られてきたのが下の3枚の文書だった。(*黒塗り加工はハンター編集部)

 

〇〇様の申入書の回答

 ○○様の申入書の回答につきましては以下のとおり回答させていただきます。

 まず、「8月2日の会見で、貴殿は「被害者」と述べられていますが、その被害者とは誰を指していますか?また、「お詫び申し上げます」とは、誰を対象に発せられた言葉ですか?」について回答いたします。

 8月2日の会見での「被害者」とは〇〇様を指す言葉であり、「お詫び申し上げます」については、〇〇様が霧島署に相談をされた以降の県警察の対応に関して、警察に対する疑念や不安を与えてしまったことについてお詫びの言葉を発したものであります。

 次に「8月6日の県議会質疑で貴殿は、一転して「被害者に対する個別の謝罪については、これは当事者間で行われるべきもの」と謝罪拒否ともとれる発言をされています。発言に整合性がないと感じていますが、この点についてご説明下さい。」について回答いたします。

 8月6日の県議会での質疑につきましては、警察官が被疑者となった事件のそれぞれの被害者に対する謝罪のあり方についての認識を問われたものとして、一般論として「謝罪については、当事者間で行われるべきのもので、基本的には、公の埸で明らかにするものではなく、社会常識に照らして対応すべきものと認識している。」旨を回答しております。
 従いまして、8月2日の会見での発言をもって個別の謝罪がなされたという考えではないという認識です。

 次に「6日の発言だと2日の「お詫び」発言とまったく違う姿勢ということになりますが、貴殿が言う「当事者間」とは、私と犯人の警察官のことですか?」について回答いたします。

 8月6日の県議会で説明した「当事者間」とは、被害者、被疑者をはじめ、対応に当たった警察職員及び組織を含む趣旨です。

 次に「貴殿は、「謝罪」については私に犯人と交渉しろとおっしゃっておられるのですか?」について回答いたします。

 謝罪につきましては、謝罪する者が自発的な意思に基づいて誠実にお詫びの思いを伝えることが前提となるものであり、謝罪を受ける側が交渉をしなければならないものではないと認識しています。

 次に「県警はこれまで、私に対して事件についての説明はもちろん、防犯カメラ映像の内、昨年2月18、19両日の静止画は残してその後の映像を消去したことなどまったく説明してきませんでした。県公安委員会から受け取った文書には、県警側からの報告として「防犯カメラなどの関係資料を精査しましたが、2月20日から少なくとも3月3日までの間、当該署員が、勤務先及びその直近の駐車場に接近した客観的な証拠は認められませんでした」とあります。県警はなぜ、公安委員会に18、19の両日の静止画はあるが、20日以降の画像は消去したと正確に報告しなかったのか、合理的な説明を求めます。」について回答いたします。

 公安委員会に対しては、防犯カメラ画像を確認した結果を含めて、県警で事実関係を確認した結果を報告しております。
画像の処分については、公安委員会に説明することを要しないと判断したことから説明をしておりません

 これまで〇〇様の相談の対応などに当たった霧島署の副署長と警務課長が、直接、〇〇様にお詫びの思いの一端をお伝え申し上げているところではありますが〇〇様からの相談を霧島署が受理した際、〇〇様への対応や説明が不十分であったことや霧島署と本部との連携を欠いていたことが結果的に、〇〇様の疑念や不安を引き起こしたのではないかと憂慮いたしております。
 今後、このようなことが無いように努力して参りたいと考えており、警察安全相談を受理するに当たっては、相談者は警察に対して切実な気持ちで解決を求めて、警察を最後のよりどころとしてなされていることを十分に認識し、相談者の心情に寄り添った対応をするよう改めて全職員に指導を続けてまいる所存です。

 それぞれの項目の「~について回答いたします」で始まる紋切型の回答文は、この腐敗組織の警察官から被害を受けた女性に対するものとしては最低。被害者に寄り添う気持ちなどさらさらないことの証明だ。しかも、申し入れは野川明輝本部長宛てだったのに、回答文書の発出人は「総務課長」で、印鑑さえ押されていない。被害者を愚弄するにもほどがある。事実、この回答文を受け取った被害女性は、本部長の氏名はもちろん、発出課の印鑑さえもない文書の体裁を見て「怒りを覚えた」と話す。

 回答の中では、野川氏が記者会見で「お詫び申し上げ」た相手が被害女性であることを認めているが、当該質疑はネット上で公開されていない。つまり、その場にいない被害女性には、野川本部長の「お詫び」は伝わらない。被害女性が会見におけるやり取りの一部を知ったのは、報道関係者からの連絡によるもので、会見質疑のすべてを把握できているわけではない。相手がいないところで「お詫びした形」にした野川氏らの行為は、その場限りの単なるパフォーマンスであり、ずる賢さの象徴だ。野川氏が正式な記録(議事録)が残る県議会において“謝罪拒否”に転じたのがその証だろう。

 クリーニング店勤務の女性に対する警官の犯罪が議論されている中で、都合の悪い話については「一般論」だったと逃げを打つ県警。子供からもバカにされるような回答で、被害者が納得するわけがない。そもそも記者会見の場で「謝罪する」と言い出したのは県警側。県議会で一転して「謝罪」を拒んだのも県警だ。被害女性が問うているのは、県警が「謝罪については、当事者間で行われるべきのもので、基本的には、公の埸で明らかにするものではなく、社会常識に照らして対応すべき」などと訳の分からない話を持ち出した理由。つまり回答文は、聞かれたことに対する答えになっていない。国語力の欠如か、単なるごまかしか、あるいは他に答えが見つからなかったかのどれかだ。

 《8月6日の県議会で説明した「当事者間」とは、被害者、被疑者をはじめ、対応に当たった警察職員及び組織を含む趣旨です。》という回答も、後付けの屁理屈。県議会での「被害者に対する個別の謝罪については、これは当事者間で行われるべきもの」という答弁から、「当事者」の中に「警察」が入っていると理解するのは不可能だ。

 《結果的に、〇〇様の疑念や不安を引き起こしたのではないかと憂慮いたしております。》に至ってはまるで他人事。県警は「当事者」ではないのか?

■不足した公安委報告に開き直る県警

 この回答文で重要かつ悪質なのは2箇所。《画像の処分については、公安委員会に説明することを要しないと判断したことから説明をしておりません。》という記述と、《これまで〇〇様の相談の対応などに当たった霧島署の副署長と警務課長が、直接、○○様にお詫びの思いの一端をお伝え申し上げているところではあります》という一文である。

 まず、決定的な証拠となるはずだった防犯カメラ映像が消去されていたことは、これまで報じてきた通り(既報2)。県警は県議会で初めて、昨年2月18、19両日の静止画だけ残してその後の映像を消去したことを認めたが、被害女性が県公安委員会から受け取った文書には、県警側からの報告として「防犯カメラなどの関係資料を精査しましたが、2月20日から少なくとも3月3日までの間、当該署員が、勤務先及びその直近の駐車場に接近した客観的な証拠は認められませんでした」とあった。

 被害女性は申し入れの中で、県警が公安委員会に「18、19の両日の静止画はあったが、20日以降の画像は消去した」と正確な報告をしなかった理由を聞いたのに対し、完全に開き直って《画像の処分については、公安委員会に説明することを要しないと判断したことから説明をしておりません。》――。判断を下すのは公安委員会のはずで、そのための材料を勝手な判断で省いたというのだから開いた口が塞がらない。県警から必要な報告を上げてもらえなかったとすれば、公安委員会も舐められたものだ。公安委員会という制度が形骸化している証左でもある。

■「謝罪した」に被害者激怒

 次いで、《これまで〇〇様の相談の対応などに当たった霧島署の副署長と警務課長が、直接、○○様にお詫びの思いの一端をお伝え申し上げているところではあります》だが、これはまったくのでっち上げ。県民や県議会を欺く、不正行為と言うしかない。この回答文の最大の問題がこれだ。

 今年10月3日の県議会総務警察委員会。質問に立った共産党の平良行雄県議が、問題のストーカー事件発生当時に霧島署長だった南茂昭生活安全部長に問いかけた。「南生活安全部長にご質問ですけれども、霧島市のクリーニング店女性ストーカー事件で、被害者本人に謝罪を行っていらっしゃるかどうか、現時点において謝罪をされたかどうかというのをお聞かせください」。

 南氏の答弁は「本件は、私は霧島署長在任中の事案であってですね、職員の軽率な行動と被害者の心情に寄り添った対応を取れなかったことで、被害者に対し、怖い思い、不快な思いや、警察不信を招いたことを当時の現場責任者として改めて謝罪させていただきます。申し訳ありませんでした。謝罪に関してはですね、当時、対応が悪かったということでですね、副署長、対応を行いました警務課長、二人が直接謝罪しております。私は直接は謝罪をしておりませんけれども、記者会見の場で謝罪をさせていただいております」というものだった。

 このあとの質疑は以下の通りだ。

平良議員:私はこのご本人と電話でしたけれども、いろいろと事情をお聞きしました。ご本人は、現時点においては謝罪を受けてない、というふうにおっしゃってますが、そこのところの食い違いはどのように説明されますか。
南元霧島署長:私はですね、明確に副署長、並びに警務課長から、謝罪をいたしましたという報告を受けておりますし、直接謝罪をするように私の方からも促したところでございます。本人はそれを受け入れなかったということを、報告を受けております。

平良議員:謝罪をされたというのは、日時がわかりますか。
南元霧島署長3月14日です。

平良議員:3月14日に、ご本人のご自宅に出向いて謝罪されたんでしょうか。
南元霧島署長:直接警察署の方に来ていただいて、経過の説明をする中で、不手際があったということで、謝罪をしております

 南氏は、昨年3月14日に、問題の事件に関与した霧島署の副署長と警務課長が、被害女性に直接謝罪したと明言している。しかも、被害女性ががそれを受け入れなかったとまで述べている。まるで謝罪を受け入れなかった被害者が悪いような物言いである。しかし、前述したように、この話はでっち上げ。ある一部の事実だけを利用して保身を図るための、悪質な虚偽答弁と言うしかない。このでっち上げを既成事実化したいのだろう、被害女性への「回答文」には、《これまで〇〇様の相談の対応などに当たった霧島署の副署長と警務課長が、直接、○○様にお詫びの思いの一端をお伝え申し上げているところではありますが》などとさらりと記している。被害女性は、「こんな回答、到底受け入れることはできません。謝罪など受けていませんし、事件についての詳しい説明もしてもらったことはありません。ただの一度も、です。こんな嘘を、県議会という公式な場で言っていたのですね。許せない」と反論する。

■霧島署の対応実態

 このスートーカー事件が起きたのは昨年の1月から2月にかけてのことだ。クリーニング店に勤務していた被害女性が、霧島署員によるストーカー行為について霧島署に申告したのが2月20日。それから何の進展もなかったことに恐怖心を募らせた被害女性は、同月27日から29日頃、霧島署に苦情を申し立てる。

 この時、対応したのは警務課長。残された記録によると、課長は女性に対し「会議があり連絡が遅れた。(加害者の警官)が名刺を渡したことは認めている。(被害女性から)好意を持たれていると勘違いしていたようだ」と署員を庇う発言を行っていた。犯人を逃がそうとする霧島署の姿勢に驚いた被害女性は、激しく抗議したという。

 ところが、3月になっても事件には何の進展もない。霧島署の対応に不信を抱いていた被害女性は、同月10日頃から14日頃にかけて県警本部に実情を伝え、捜査を促した。県警が県議会で、「3月14日」に被害女性に連絡して霧島署に来てもらったと言っているのは本当のことで、当事者である女性も認めている。県警本部からの連絡を受けた同署が、あわてて動いたということだ。

 被害女性が霧島署に出向いたのは事実だが、「経過の説明をする中で、不手際があったということで、謝罪をしております」(県議会答弁)や「霧島署の副署長と警務課長が、直接、○○様にお詫びの思いの一端をお伝え申し上げている」(回答文の記述)は、県警側の都合に合わせた虚構。被害女性は次のように振り返る。

 「私が県警本部に苦情を申し立ててからすぐに霧島署から連絡があったのは事実です。霧島署に行って、出てきたのは確かに副署長と警務課長でした。そこまでは合ってます。ですが、話の内容は犯人の警察官を庇うための言い訳ばかりでした。霧島署はそれまで、2月23日に犯人が防犯カメラの映像に映っていたはずなのに、『映っていない』とか、犯人の訪問先がたまたまクリーニング店があった商業施設内の別の店だったなどと言ってましたが、その日も同じ話を繰り返しただけで、謝罪などではありませんでした。抗議する私に「すいませんね」程度の、話の中での軽い言葉だったんです。大体、真摯な謝罪があり、まともに捜査してもらっていれば、県警本部に何度も苦情を申し立てて、最終的に告訴状を送る必要などなかったはずです。私が謝罪を受け入れなかったとか、よくそんなウソが言えますよね。私は霧島署の対応を受け入れなかっただけで、正式な謝罪など聞いたこともありません。酷すぎます。私が求めているのは、防犯カメラ映像の画像を消したことや、2月18日と19日の画像への犯人の写り込みを隠していたことの説明。それと、ここまでいろんな事実が隠されてきたことへの謝罪です。デタラメな捜査をして犯人を逃がしておいて、謝罪したなどと作り話することは許せません」

 野川明輝前本部長の警察庁への異動に合わせるかのように、「回答文」を発出し、他の事件に関与した数十名にのぼる警察官に訓戒や注意を行ったと公表した県警――。これで幕引きと考えているのだろうが、そうはいかない。鹿児島県警に対する「追跡」は終わらない。

 ちなみに、警察の「正式処分」に「口頭厳重注意」や「業務指導」などというものはない。警官不祥事に対しては「懲戒処分」と「監督上の措置」に分かれており、措置は「訓戒」と「注意」の2種類。「注意」は『本部長注意』と『所属長注意』の二つだけで、最近になって県警が多用している口頭厳重注意や業務指導は、「処分台帳」という公文書にも残らない、いわば外向けの言い訳に過ぎない。県警監察課が発表した警官不祥事への対応について、全員を対象者としてカウントする「●●名処分」などという見出しがあれば、誤報に近い。あしからず。

<中願寺純則>

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