電話1件50,000円、事務所に呼びつけ50,000円――。“国税当局による刑事告発や重加算税をゼロに”とネットの公式サイトにそう謳った「東京永田町税務事務所」の報酬は、一般的に見れば法外なものだった。(参照記事⇒《失敗した「永田町交渉人」の仰天交渉》)
顧客との間でトラブルになって登場したのは、永田町交渉人という肩書を持った「麻生」と名乗る人物。「検察庁から逮捕。可能性がある」、「査察がもう一回来て、逮捕されて、告発されて、もう手遅れ。逮捕しに来ました。持っていかれます。もう出てこれない」、「罪名はつけ放題」などと顧客を脅し上げ、契約継続を迫っていた。
結局、「追徴に備えて」と申し向けて預かった1,500万円のうち、顧客に返したのは約794万円だけ。「まるで詐欺だ」と怒り心頭の顧客に話を聞いたハンターの記者は、永田町交渉人チームを率いる怪しい税理士が所属しているという東京税理士会に取材することになった。
■東京税理士会 ―「サイトの内容には問題がある」
「取材は受けられないが情報提供という形ならOK」――東京税理士会の言い分は理解に苦しんだが、取材経過と疑問点だけはぶつけておきたい。渋谷区千駄ヶ谷にある東京税理士会を訪ね、「綱紀監察課」という部署の担当者に、取材経過と疑問点をぶつけた。
まず、確認したのは東京永田町税務事務所公式サイト「国税査察専門安心」に記載された内容の違法性。次に、記者から見ると法外としか思えない報酬額の妥当性についてだった。
東京永田町税務事務所の公式サイト「国税査察専門安心」には、何度も告発や重加算税がゼロになることを謳っている。そもそも、税理士にそんなことができるのか?公式サイトで、顧客の不安を煽るような宣伝文句を並べてもいいのか?これは、誰もが抱く疑問のはずだ。
例えば、弁護士事務所が「捕まりますよ」「無罪にしますよ」と謳った広告を出せば、当然ながらアウト。弁護士が不安を煽って依頼者を募ることは禁止されているし、無罪・有罪を決めるのは裁判所であって弁護士ではない。できもしないことを公告して顧客を集めれば、弁護士資格はく奪だ。同じ国家資格を持つ税理士が、告発や重加算税をゼロにすると宣伝するのは、それと同じだろう。ならば、東京永田町税務事務所の公式サイト「国税査察専門安心」には重大な問題があるはずだ。
残念ながら、東京税理士会の担当者の姿勢は極めて消極的。一般論しか話せないという姿勢だ。ただし、広告については、3つのケースが禁止事項になると説明があった。
まず、できもしないことを謳った誇大広告は禁止、同様に過度な期待を抱かせる内容も×、不安を煽る内容も指導の対象になるという。「本件について具体的なことは言えない」としながらも、東京永田町税務事務所のサイトについては「内容としては問題があるかもしれませんが」という回答だった。
次に、“電話1本5万円”などという法外としか思えない報酬額をどう見ているのか――?この質問に対しても税理士会担当者の歯切れは悪く、「報酬額に規定はなく、高いか安いかは論じられない」という答えにとどまった。支払う側の判断によるとはいえ、ずいぶんいい加減な話だ。これでは、顧客の弱みにつけ込む“ぼったくり税理士”も、罰せられないことになる。
最後に、「交渉人」を名乗る人物の言動について違法性はないのか確認したが、この質問に対しても、返ってきたのは一般論。「税理士資格のない者は、税務当局との交渉はできません」だった。残念ながら東京税理士会の動きは鈍く、情報提供から2か月以上経っても東京永田町税務事務所の公告内容は変わっていない。
ちなみに、戒告や業務停止、退会勧告に除名といった「懲戒処分」を下せる弁護士会と違って、税理士会には所属税理士を処分する権限がない。懲戒請求は誰でもできるが、税理士の処分ができるのは財務大臣に限られている。
では、東京永田町税務事務所の公式サイトの記載内容や仕事の進め方にルール違反、法律違反はないのか――。法律の専門家を交えて改めて検証すると、二つの大きな問題点が明らかとなった。
■告発・重加算税「ゼロに致します」の違法性
下は、東京永田町税務事務所の公式サイト「国税査察専門安心」のトップ画面の一部。何度も登場する「告発されず、加算税をゼロに」あるいは「告発・重加算税をゼロに」という文言こそ、この税務事務所の売りだ。国税の査察を受けている法人や個人は、この表記に目を奪われるだろう。「助かるかもしれない」――そう思う人は、少なからずいるはずだ。
考え抜いた上でこうした表現を使っているのだろうが、「~に」で止まっているからこそ、ぎりぎりセーフ。「ゼロにするとは断言していない。ゼロを目指すという意味だ」という逃げが可能になる。
しかし、調子に乗ったのか、ルールなどどうでもいいと考えたのか、東京永田町税務事務所は明らかに一線を越えた宣伝文句を使っていた。下の画面の中に、違法性が強く疑われる記述があるという。それが、画面下に抜粋した、《「告発」も、「重加算税』」も、軽減ではなくゼロに致します』の一文である。
“目指す”、“近づける”といった意味の『~に』ではなく、「ゼロに致します」――。税理士会も認めているが、できもしないことを謳って顧客を誘うことは違反行為。法律の専門家に確認しても「アウト」の判定だった。違法の疑いさえあるという。
そもそも、加算税や告発の必要性について判断を下すことができるのは税務当局。どんなに高名な税理士であろうと、その権限はない。《「告発」も、「重加算税』」も、軽減ではなくゼロに致します』という文言に誘われた顧客から法外な報酬を得ているとしたら、その行為は「正当」とは言い難い。
■税理士資格を持たない交渉人・麻生氏
二つ目の問題点だが、こちらも法律――「税理士法」――に抵触する可能性があるとみられる。
東京永田町税務事務所がさかんに喧伝しているのが、税理士と“交渉人チーム”による「交渉術。」。どのようなものか判然としないが、件の税理士からの指示で1,500万円を預け、トラブルとなった会社の代表者は、永田町にある東京永田町税務事務所で「交渉人」を称する麻生という人物と会っていた。
この際、交渉人・麻生氏は、顧客である会社代表に対し、次のような脅しともとれる発言を行っていたことが分かっている。
“私どもが、6月、7月、8月、9月、10月と5か月間。主に7、8、9、10交渉をしてきた。ご存じの通り、いろんな国会議員の方がいる。財務省でも分野がある。いろんな角度から変化を持って、交渉に入る”
“国税の統括が駄目だと言ったら駄目。その上は関係ない。任された人が結審する。それを私どもが落としにかかって、私も行った”
“私どもは押しまくる。統括官だろうと何だろうと。我々は実績があるから頼まれている。実績がなければ頼まれない。実績というのは、今国税で年間160件が告発されて、内偵で動いているのがその倍ある。我々に来るのが、5分の1。我々も全国に行くのは大変だから、一応電話で交渉したり、ズームで交渉したりする”
“我々はきっちり仕事しており、抜かりはない。間違いもない。Aさんの腹次第で、告発を回避することは可能。なぜ可能か――。交渉してきたからだ”
“あなたは危なかった。9月から10月の間”
“国の権力で(脱税を)認定して、検察庁から逮捕。可能性がある”
“交渉させてもらえるんであれば、こちらは継続する、継続して、統括をねじ伏せる、押しまくって、ねじ伏せることは可能”
“こうやって話していて、その夜に、査察がもう一回来て、逮捕されて、告発されて、もう手遅れ。逮捕しに来ました。持っていかれます。もう出てこれない”
“目一杯言ってくる、求刑でもなんでも。罪名はつけ放題です。あいつら(検察)は”
交渉人・麻生氏は、自分が国税当局と交渉したと言っているも同然。しかし、同氏が税理士資格を持っていないことは調べがついている。本当に麻生なる人物が国税当局と交渉していたとすれば、税理士法違反となる。
では、この交渉人・麻生氏は何者なのか――?次の配信記事で、さらに掘り下げてみたい。
(以下、次稿)