空飛ぶ車に黄信号|止まぬ吉村大阪知事の大風呂敷

「大風呂敷を広げるというのはまさにこういうことですわ」と苦笑するのは、大阪府の中堅職員。居酒屋で手にしていたスマートフォンには、トップである大阪府の吉村洋文知事の動画ニュース。知事は、「万博の時には空飛ぶ車っちゅうて、大阪のベイエリアを普通の人が自転車に乗るみたいに空飛ぶ車でグルグルまわるのを万博でやります」と豪語していた。

◇   ◇   ◇

空飛ぶ車とは、ドローンを大型化したような形状で、垂直離着陸が可能な新しいモビリティとして注目を集めている。日本では日本航空や全日空などが将来の導入に向けて動きを加速させており、万博で飛行するとされていた。

吉村知事はX(旧ツイッター)にも、《空飛ぶ車を実現させる。2023年に運行開始、2025年万博時には多くの人が利用できるスケジュールを目標に進める》、《空飛ぶ車、万博の時にはぜひ万博会場、その周辺で商用運航を実現したい》と投稿していた。

しかし、新しいモビリティゆえまだ開発途上。空飛ぶ車が万博には間に合わない可能性が強くなってきた。

万博事業者の1社、スカイドライブは自動車メーカーのスズキと組み製造子会社を設立するなど、空飛ぶ車では一歩先を行っている。だが、プレスリリースなどを見ると操縦士1名に搭乗できる人は2名。フル充電した状態で飛行可能な航続距離は15kmとなっている。

大阪市内の中心部から万博の開催地となる夢洲まで約15kmなので、ギリギリ運航可能かという範囲。ただし、空飛ぶ車の運航に最も大事な機体の「型式証明」を、国土交通省から得られる見通しはたっていない。「型式証明」は飛行機に用いられるもので、

安全性や環境適合性の基準を満たしているものに与えられる。

三菱重工は、国産ジェット機「MRJ」の生産を目指して受注までしていた。しかし「型式証明」が取得できずに、国家的プロジェクトから撤退したことは記憶に新しい。

スカイドライブは、2021年10月に日本ではじめて空飛ぶ車の「型式証明」を国土交通省に申請をしているが、これがどうなるか分からない。

スカイドライブ以外でも、アメリカとドイツの企業が「型式証明」の申請をしていることが明らかになっているが、現在は審査中で会って実際に取得できた企業はない。

国交省の幹部は冷静だ。
「旅客機のMRJと空飛ぶ車を単純には比較できないが、テスト飛行ができたからといって、そう簡単に型式証明が取得できるものではない。スカイドライブの申請が第1号だったので、審査は進んでいるがいつ型式証明が付与できるかまったくわからない。“万博が1年半後にあるからそれに合わせて出す”なんてものじゃない。スカイドライブは量産体制も発表しているが、型式証明がない限り無理だ」

スカイドライブのホームページには《年間最大100機の製造体制を目指す》とある。これだけあれば、万博で吉村知事が言う「お金を支払って、タクシーのように乗れる商用運航」は可能かもしれない。しかし、空飛ぶ車の参入を目指すある企業の担当者は、「今、日本にある空飛ぶ車は10機にも満たないはず。旅客機と違いこれまでになかった発想のモビリティが空飛ぶ車。万博まであと1年半しかありませんが、デモフライトがなんとかできる程度ではないでしょうか。商用運航なんて、まず無理です」と冷ややかな目線だ。

要するに、遅れに遅れて設計変更が続出しているパビリオン建設と同じように、空飛ぶ車も準備はまったく整っていないのだ。記者会見でそこを問われた吉村知事は「空飛ぶ車が飛べば十分、そこがスタート。最初から完璧に量産、地下鉄のように動くのは無理。空飛ぶ車が飛び交うスタートが万博になればと思う」とトーンダウン。飛べさえすれば十分と、これまでの主張とはまったく違うことを言い出した。

吉村知事の「大風呂敷」は空飛ぶ車だけにとどまらない。

2020年4月、吉村知事は感染拡大していた新型コロナウイルスのワクチンについて「国産化を大阪発で実現させたい」、「7月に治験、9月に実用化、そして量産体制」と大見得を切ったが、国産ワクチンを期待されたアンジェスは開発を断念(既報)。大阪府が、アンジェスとワクチン開発の共同研究をしていた大阪大学に寄付した1億5千万円は、パーになった。

コロナ禍で「野戦病院が必要」と展示場を改装して設置したはいいが、まったく役に立たずガラガラで終幕。「イソジンのうがい薬で、コロナが消える」と記者会見で嘘八百を述べて、うがい薬の製造を行っている企業の株価がストップ高にまでなったこともあった。ある大阪府の幹部が顔を曇らせ、こう話す。
「イソジン騒ぎの時、吉村知事は記者会見でアンジェスの社名まであげてPRしていた。アンジェスは上場企業なので、吉村知事が口にするたびに株価が上昇した。空飛ぶ車のスカイドライブは将来的に上場を目指している、その途上なのでまだ助かっているが、スカイドライブに材料を供給しているというだけで話題になり、株価に反映される企業が出る場合もある。スカイドライブがアンジェスの二の舞いにならなければいいいのですが……」

ことあるたびに大風呂敷を広げる吉村知事。2度あることは3度という諺を、かみしめるべきではないか。

 

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