前代未聞!現職警察官が北海道警を提訴|違法捜査と不当待遇で精神的苦痛訴え

北海道の現職警察官が違法捜査で精神的苦痛を受けたとして、職場である道警に損害賠償を求める訴えを起こした。原告の警察官は趣味のモデルガン収集で銃刀法違反に問われ、違法に家宅捜索を受けるなどの被害に遭ったほか、評定や給与などの待遇面で不当な取り扱いを受けたとしている。

◇   ◇   ◇

道警に約412万円の賠償を求める訴えを11月20日付で札幌地方裁判所に起こしたのは、北見方面網走警察署に勤務する男性巡査長(27)。訴状などによると、巡査長は道警本部機動隊に所属していた2022年1月、インターネットのヤフーオークションで模造古式銃を購入した。事の発端は、この時入手した品物について巡査長が警察に問い合わせを寄せたことだった。

模造拳銃の所持は銃刀法で禁じられているが、模造古式銃についてはその限りでない。先述のヤフオク落札品も合法品だったが、巡査長は念のため最寄りの札幌南警察署に連絡、非合法品に該当しない「除外要件」を問い合わせた。これに同署の担当者は「警察官を向かわせるので現物を見せて欲しい」と対応。巡査長は「現物を見なくても要件は調査できる」「私自身が警察官だ」と伝えたが、相手は「ほかの警察官に見せて」の一点張りだったという。

やむを得ず自宅住所を教えると、江別署の捜査員を名乗る人物の訪問を受け、模造古式銃の任意提出を求められることに。この時点で警視庁の公式サイトから「除外要件」を確認できていた巡査長は、その場で捜査員らに当該ページを見せながら要件を説明し、任意提出を拒否した。すると捜査員らは巡査長の上司にあたる機動隊第二中隊長に連絡、巡査長は中隊長から「おれの顔を立てて提出を」と説得され、任意提出に応じざるを得なくなった。

これを機に、巡査長は銃刀法違反の容疑者として捜査の対象となってしまう。同年4月、本部保安課による家宅捜索を受け、くだんの落札品とは関係のないモデルガン14丁を押収された。のちにあきらかになったのは、この時の差し押さえ行為が実際は強制捜査ではなかった事実。つまり道警は、現場ではあたかも14丁の提出を拒否できない強制捜査に見せかけながら、実際の手続き上は任意提出の形でモデルガンを押収していたのだ。捜査員らは「任意提出書」の署名部分以外を別の紙で隠して巡査長に署名させ、違法に書類を取得したという。

職場では、捜査をきっかけに不当な取り扱いが始まった。家宅捜索後に検察の任意捜査を受けるにあたり、巡査長は上司から「調べの時は有給休暇を使うように」と強制されたほか、これ以後は一切の当直勤務から外されることになった。また勤務評定が下位の「D」ランクとなり、賞与や手当が減額された。

一連の扱いに不服を覚えた巡査長が弁護士に相談を寄せると、上司らは「組織を訴えようとする危険人物」「精神に異常があるに決まっている」と断じ、巡査長をいわゆる問題人物として扱う「指定強化職員」に指定。同年9月、網走署への異動が命じられた。

銃刀法違反事件そのものは翌10月に不起訴となり、その後巡査長がネットオークションで問題の模造古式銃と同じ物を発見して出品者に連絡をとってみると、相手は「東京ディズニーランドで買ったもの」と明かしたという。つまり道警は、未成年を含む不特定多数が一般の市場で問題なく売買できる品を違法品扱いし、長きにわたって不当捜査を展開した挙げ句、無実の職員に対して勤務評定や給与面などで不利益な取り扱いを続けているわけだ。

不起訴処分後の23年5月、巡査長は一連の捜査や不本意な待遇から受けた精神的苦痛の賠償を道警に請求したが、道警はこれを黙殺。納得できない巡査長が「裁判に訴えるしかない」と思うに到り、損賠訴訟の提起を決意することになったのは、すでに述べた通りだ。

現職警察官が組織を訴えた異例の裁判、札幌地裁での口頭弁論の日程は12月上旬時点でまだ決まっていない。被告となった道警は、取材に対し「お答えを差し控えさせていただきます」とコメント、原告の巡査長は代理人を通じ「おかしいものはおかしいという思いで訴えを起こした。裁判所には正しい判断を求めたい」としている。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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