新型コロナウイルスの感染拡大が抑えられているとみられていた鹿児島県で、今月に入ってクラスターが発生。6月12日に11人目の感染者が出た後、新たな患者の発生がなかった同県で、県内全域に感染が広がった。1日から5日までの感染者は合計で87人。関係自治体に緊張が走る事態となっている。
そうした中、懸念が示されていた医療体制の不備が明らかとなり、ハンターの取材で新型コロナに関して三反園氏が知事選アンケートで公表した「病床・253床」「PCR検査・279人分」が実態を伴っておらず、虚偽だった疑いさえあることが分かった。
■クラスター発生で感染急増
クラスターの発生源となったのは、県内一の繁華街・天文館にあるニューハーフバー「NEWおだまLee男爵」。この店から出た感染者は、枕崎市、指宿市、霧島市、志布志市、伊佐市、大崎町など県内全域に散らばっており、その数は増える一方だ。
ニューハーフによるショーが売り物の同店には東京や福岡からも客が来ていたとされ、県外からウイルスが持ち込まれた可能性が高い。店の特徴から入店していたこと自体を隠しているケースもあるらしく、外出せず家にこもっている関係者から感染が拡大することを心配する声も出ている。
■不足する病床数、「253床」は数合わせ
一方、感染拡大に伴って懸念されのが「病床数」。5日までのハンターの取材で、県が現時点で、新型コロナに感染した患者を収容するために十分な病床数を、確保できていなかったことが分かった。
感染症の患者を収容できる医療機関には、「第1種感染症指定医療機関」と「第2種感染症指定医療機関」がある。前者はエボラ出血熱やペストなどの『一類感染症』、ポリオ、結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、鳥インフルなどの『二類感染症』、新型インフルなどに感染した患者に対応するもので、全国で55施設(103床)。鹿児島県では鹿児島大学病院に1床が指定されているだけだ。
後者は、二類感染症及び新型インフルの患者を入院させる医療機関として知事が指定するのもので、新型コロナウイルスは主にここが対応することになる。
鹿児島県内の感染症指定医療機関の病床数は、鹿児島大の第1種1床と下の表の第2種44床を合わせて45床。これに対し県は、感染拡大に備えて県内の医療機関に協力を求め、新型コロナの患者を受け入れることができる病床数を「253床」にまで増やしたとしていた。
県は5月1日に、新型コロナ患者を収容可能な病床を253床確保したと発表。三反園知事も、今月4日に地元紙・南日本新聞に掲載された候補者アンケートの中でコロナ対策について聞かれ、「253の病床、軽症者などの宿泊施設388室を確保するとともに、279人分のPCR検査体制も確保し、港湾などでの水際対策も講じている」と答えていた(下に、南日本新聞の紙面の写真。赤い囲みはハンター編集部)。
選挙公約には「新型コロナ感染症については、第2・第3波に備え、検査体制や医療提供体制を拡充するとともに、県民生活・県経済の復興を図るため消費喚起策を展開し、さらにさまざまな危機事象からの影響を最小限にとどめ、持続的に発展できる鹿児島を構築します」と謳っている。
結論から述べるが、知事が確保したとする「253床」は、現時点においては真っ赤なウソ。クラスターの発生を受けた県は、あわてて病床確保に走っているのが実情だ。
5日、新型コロナ対応を所管する県くらし保健福祉部健康増進課に確認したところ、今月1日以降に感染が判明した患者のうち4日までに入院できたのは31人のみ。県は5日午後の段階で、残りの感染者の入院先が決まらず、“待機”の状態になっていることを認めている。「235の病床」は、どこに行ったのか?
上掲の表で明らかな通り、離島の病院(種子島医療センター、種子島病院、大島病院)にある感染症対応ベッドは8。まずは、それを除く37床で対応せざるを得ない。残りは6人分で、それ以外は協力病院に患者を受け入れてもらうことになる。
県が確保したとする「253床」から感染症指定医療機関の病床数45を引くと208床。協力病院には208床もの余力があるはずだが、すでに別の疾病の患者が入院しており、すぐには空かない状況だという。つまり、「235の病床」は県民に向けて言い訳をするための一時的なもので、感染者が増えれば、そこから「調整」するというのが本当の体制だ。「235の病床」を信じた県民は、騙されたも同然だろう。
■「確保」したはずの「279人分のPCR検査体制」は努力目標
三反園氏が候補者アンケートに明記した「279人分のPCR検査体制も確保」に至っては、病床数以上に怪しい。県健康増進課によれば、1日に可能なPCR検査は147人分で、「279に向けて努力しているところ」なのだという。三反園氏が主張した「確保」は、ごまかしというより真っ赤なウソ。「253の病床、軽症者などの宿泊施設388室を確保するとともに、279人分のPCR検査体制も確保し、港湾などでの水際対策も講じている」という三反園氏のアンケート回答が、虚偽である可能性さえある。
ちなみに、県内の感染拡大は「水際対策」の失敗を意味しており、その点でも知事のアンケートへの回答は評価に値しないものだと言える。
三反園氏は、新型コロナウイルスの感染者が少ないのをいいことに、知事としてやるべき危機管理を怠った。