4月2日、静岡県の川勝平太知事が辞職を表明した。1日に県庁内で「県庁はシンクタンク。野菜を売ったり、牛の世話をしたり、モノを作ったとは違って、皆様方は頭脳、知性の高い方たち」と訓示し、職業差別にあたると批判を浴びていた。これまで“失言王”と言われてきた川勝氏の退場を受け、早くも後継知事の名前が散り沙汰される状況だが、浮上したいずれの方も、ある「黒幕」との関係が指摘されている。
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「御殿場にはコシヒカリしかない」、「県議会にはヤクザもいる、ゴロツキもいる」、「菅義偉(首相)の教養のレベルが図らずも露見した」などと数々の失言で騒がせた川勝氏。2021年には、静岡県政史上初めて辞職勧告決議が提出され可決された。最後も失言で政治生命を失った格好だ。
川勝氏は6月の県議会を最後に辞職の意向を語っており、早くも県政は次の知事へと動き始めた。川勝氏の「後継」と有力視されてきたのは、渡辺周衆議院議員だ。
川勝氏が2009年の知事選で勝利した際には、当時の民主党が担いだ。渡辺氏は旧民主党政権時代に副大臣を務め、現在は立憲民主党。川勝氏の辞職表明後、真っ先に名前が報じられた。
対抗として、有力視されるのが細野豪志衆議院議員。旧民主党では環境相などを務め、東京都の小池百合子知事が立ち上げた希望の党に参加するも失敗。その後、無所属から二階俊博元幹事長の後押しで自民党入りした。
そして「第三の候補」として注目されるのは、浜松市長だった鈴木康友氏。旧民主党の衆議院議員から浜松市長を4期務めた実績がある。2021年の静岡県知事選では出馬の構えを見せながら、断念した経緯がある。
だが、この二人には共通する影がある。どちらも「政界フィクサー」と呼ばれる大樹総研の矢島義也氏と昵懇であり、万が一、どちらかが知事になると静岡県政が乗っ取られかねないのだ。
まず細野氏から論じる。2017年10月に行われた総選挙の際、細野氏に渡ったとされる5,000万円の裏金疑惑。裏金を提供したとされる「JC証券」の親会社がJCサービスだった。2社と一心同体とも言われる大樹総研が資金提供を斡旋したとみられており、大樹総研は東京地検特捜部の家宅捜索を受けている。細野氏については、環境相時代も含めて、大樹総研が手掛ける太陽光発電システムに関し何度も疑惑が浮上したことが知られている。
そして鈴木氏。同氏は矢島氏とはまさに昵懇の関係だ。大樹総研は設立当初、鈴木のSと矢島のYで「S&Y総研」という名称だった。国会議員だった鈴木氏を通じて政界人脈を広げ、菅義偉元首相や二階元幹事長らとの関係を築いたという。
鈴木氏は浜松市長時代、市に新エネルギー推進事業本部を設置し、太陽光発電はじめ、再生可能エネルギーを積極的に手掛けてきた。再生可能エネルギーは、矢島氏が最も得意とする“暗躍”の舞台であり、これまでハンターで繰り返し報じてきた通りだ。
2016年5月、矢島氏は都内のホテルで結婚披露パーティーを開催した。当日の座席表には、細野氏と鈴木氏、どちらも名前が刻まれている。大樹総研の関係者はこう話す。
「細野さんも鈴木さんも、矢島氏の力を背景に政治の舞台で力を伸ばしてきた軌跡がある。矢島氏は鈴木さんの顔を利用して政界フィクサーとしての基礎を築き、細野さんを使って旧民主党の調子いい時代に、さらに人脈を広げた。その結果、大樹総研は大きく業績を伸ばし、政権交代後も巧みに自民党へと乗り換え、さらに飛躍した。矢島氏にはなんら専門的な知識、経営術などない。力ある者に徹底した接待とカネで近づき、取り入ってそれをカネにする術だけで生きてきた。だが、東京地検特捜部のガサを2度、3度と受けるとさすがに警戒感が広がって誰もが距離をとっている。そこに降ってわいた静岡県知事選。細野さんと鈴木さん、どちらが知事になっても大歓迎でしょう。どちらが知事になっても、静岡県は大樹総研に食い散らかされることになりかねない」
静岡知事選を巡っては、自民党の支持率が最低になる中、与野党相乗り候補が模索されていると情報もある。静岡8区が地盤の塩谷立衆議院議員は自民党から離党勧告(現在審査請求中)を受け、県民からの風当たりが強い。そこで、川勝氏と対立してきた前静岡市長の田辺信宏氏の名前を挙げる人もいる。田辺氏は市議時代、自民党所属だった。だが一方で、大樹総研特別研究員という肩書を有していたこともあり、細野・鈴木両氏と同様、田辺氏も矢島氏とどっぷりだ。
静岡県知事選は、候補者と大樹総研との関係が隠れた争点になりそうだ。