聞いて呆れる「身を切る改革」|クジラ処分と万博に通底する維新政治の危うさ

2023年1月、大阪湾・淀川に迷い込み、亡くなったマッコウクジラ。「淀ちゃん」とニックネームがつけられ、淀川に見学に行く人も数多くいた。だが、同年1月13日に死亡確認。問題になったのはその後だった。

■海洋沈下処分に疑義

同月17日、松井一郎市長(当時)は記者会見し「海から来たクジラくん、亡くなってしまったら海へ帰してやりたい」と発言。大阪市は8,000万円超の税金を費やしてマッコウクジラを台船で運搬し、紀伊水道沖で海洋沈下処分にした。

そして今年2月、またしてもクジラが大阪湾に入り、死亡。今度は大阪府堺市の埋め立て地に埋設処分した。だが、かかった費用は1,500万円。前年の8,000万円と比較すると5分の1以下だ。この事態を受けた市民が、大阪市に対し住民監査請求していた

今年4月、大阪市監査委員は《調査した結果からは、本件契約の締結に関しては多くの疑義が認められ、契約事務として少なくとも不当なものであった蓋然性が高いことから、その範囲で本件請求には理由があると認められる》と認定。横山大阪市長に対し、第三者機関を設置して調査を求めること、さらに金額が高いと評価された場合には、関与した大阪市職員への損害賠償請求を行うよう勧告した。

89ページで構成されている監査委員の勧告文書によれば、主要な部分はほぼ住民からの監査請求を追認するもの。8,000万円という金額の根拠がいかに薄弱かを露呈した形となった。

それを証明するのが、情報公開された大阪市の公文書だ。大阪市監査委員の調べでも、クジラの処分事例は、2021年から23年までの間で全国で37件。海洋沈下は2件のみで、水産庁は「最も困難が伴う処分方法」と説明している。

ではなぜ、松井氏は「海に帰す」ことにこだわったのか――。

開示された公文書からは、大阪市が、クジラが迷い込んだ時から松井氏と吉村洋文大阪府知事に処分方法のお伺いを立てていたことがわかる。同年1月13日に大阪市港湾局でやり取りされたメールには《市長・知事の判断で、海洋投棄に決定した》、《費用は500万円程度》とあり、大阪市の管轄であるにもかかわらず、処理方法に吉村知事が関与していたことがわかる。(*以下、メールの画像のぼかしと赤いアンダーラインはハンター編集部)

総務省のホームページを見れば、随意契約の場合は《予定価格が少額の場合》と明記されており、8,000万円を超すクジラの海洋沈下処分も当然、競争入札すべき事案だった。

しかし、メールの記載には、クジラが死んだばかりなのに《契約方法は、緊急で随意契約したいとのこと》、《契約相手方のS汽船のZ氏に相談した》と残されており、早い時期に業者をS汽船と決めていたことがうかがえる。

こうも記されている。《随意契約するにしてもS汽船に発注する理由が必要ですが、(大阪市港湾局の)海務課では考えていないようなので適当に考えておきます》――極めて杜撰な役所仕事という他ない。

クジラは1月19日に海洋沈下処分されたのだが、仕様書や契約書は何もないまま行われた。その後、S汽船が出してきた見積書は8,000万円を超えるというとんでもない金額だった。

大阪市港湾局のメールには《とんでもないぼったくり》ともあり、S汽船への不信感を隠そうともしていない。

処分後、S汽船の見積もりを受けて大阪市が試算したのは3千万円超の数字。しかし最終的に、大阪市が折れて8,000万円で契約していた。

素人である松井氏と吉村知事がなぜ海洋沈下処分を決めたのか?そこには、“維新政治”が深く関与している可能性がある。

■維新・井上英孝衆院議員と処分業者の関係

S汽船は大阪港近くに事務所を構えており、そのすぐ隣には、日本維新の会の衆議院議員井上英孝氏のポスターが貼ってある古びたビルがあった(*下の写真参照)。S汽船の元社長O氏の自宅であり、同社の現在の会長はO氏の息子が務めている。

S汽船の関係者は、「元社長は昔から井上議員の支援者で、維新が創設されたときから後援会に入会していました。地元では有名な維新信者です」と話す。

2022年に大阪維新の会が大阪府選管に提出した政治資金収支報告書には、その話を裏付ける記載がある。同年3月にO元社長が100万円を寄付していたのだ。

先の関係者はこう語る。「2021年10月に衆議院選挙があり、井上議員が圧勝したのですが、O元社長は当選祝いのような意味で寄附したと言っていました。井上さんは維新に入る前は自民党。井上さんのお母さんは元大阪市議です。元社長は、そのころからカネと票で支援してたようです」

調べを進めてみると、井上氏が自民党時代にもS汽船から寄附を受けていたことまで確認できた。さらに、S汽船で大阪市との交渉にあってきたZ氏は、なんと大阪市港湾局に10年以上在籍したOBだった。

「松井元市長や吉村知事は、海洋沈下処分なんて専門外。そんな発想すらなかったはずです。何らかの政治的思惑、例えば、井上議員とS汽船の関係が背景にあったと思わざるを得ません。監査委員の勧告文書にも、大阪湾でタグボート事業をやっている三つの業者のうち、紀伊水道沖まで体長15m重さ40トンのクジラを運べる船を所有しているのはS汽船しかありません。井上議員と緊密なS汽船ありきの海洋沈下処分ではないのでしょうか。井上さんは維新の馬場伸幸代表と並び、松井元市長の一の子分として、忠誠を尽くしてきた人物です。S汽船 ― 井上議員 ― 松井市長のラインで持ち込まれた案件だろうと市役所内部で噂にになっていたほどです」(大阪市関係者の話)

今年1月1日の読売新聞電子版が、《(2023年1月下旬ころ)大阪港湾局の総務課長が、市OBで業者の担当者に日本酒を贈っていたことがわかった。総務課長は取材に「慰労のためだった」と説明している》と報じた。大阪市監査委員の勧告文書でも日本酒を贈ったことが認定されている。

大阪市とS汽船が8,000万円で契約を結ぶ決済が行われたのは2023年3月31日。当時は大阪市長選、大阪府知事選の真っ最中だった。松井氏は政界引退を表明。維新は横山市長を擁立し、吉村知事は2期目に挑んでいた。公開されれた公文書には、決裁の1週間前となる同年3月24日に、大阪市と弁護士が相談した記録が残されていた。

《選挙前のこの時期に、業者側(S汽船)は報告書を作成しており、マスコミや市議会議員、市長にもばら撒くと言っている》――大阪市港湾局が政治的な事情を嘆き、相談していたのだ。この時期、大阪市とS汽船は金額でもめている状態だった。

維新の“タニマチ”であるS汽船と、市が「激突」することは是が非でも避けなければならなかったはず。クジラの海洋沈下処分をめぐる契約問題は、維新内部の都合によって決められた可能性が否定できない。

クジラの海洋沈下処分費は、500万円から3,000万超へと上乗せされ、最後は8,000万円。大阪・関西万博の建設費が,当初予算の2倍となる2,350億円に膨れ上がったのと同じ構図だ。維新は、「身を切る改革」の看板をおろすべきだ。

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