5月26日に投開票される静岡県知事選挙には6人が立候補しているが、前浜松市長で立憲民主党と国民民主党が推薦する鈴木康友氏と、元静岡県副知事の総務官僚で自民党が推薦する大村慎一氏による事実上の一騎打ちだ。終盤戦を迎える選挙戦について取材してみると……。
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ハンターが入手した情勢調査の数字によれば、わずかながら鈴木氏リードの展開となっている。
地元ローカル局の調べでは、鈴木氏48ポイントに対し大村氏43ポイント。期日前投票の出口調査では、鈴木氏50ポイント、大村氏41ポイントといった状況だ。
当初、知名度で上回る鈴木氏が10ポイント以上引き離していたが、大村氏側が自民党の組織力を生かして追い上げを図り、差を縮めている。
地域別にみると、浜松市など静岡県西部は鈴木氏の地盤。衆議院の区割りで見ると、浜松市が中心の静岡7区で鈴木氏54ポイント、大村氏30ポイント。鈴木氏にとってはなじみが薄い静岡市が中心の静岡1区では、逆に鈴木氏28ポイントに対し大村氏51ポイントとなっている。
静岡県東部の御殿場市や三島市の静岡5区だと鈴木氏32ポイント、大村氏43ポイントとこちらも大村氏優位だ。
だが、トータルすると静岡市以西で強い地盤を有する鈴木氏が大村氏を上回る状況。ある陣営の選対幹部は、「東西対決どころか、東西分裂のようなあおり選挙になっています」とこぼす。
静岡県は、東海道新幹線の駅が東は熱海から西は浜松まで6つあり、県の東西では文化も気質もかなりの違いがある。前任者で人気の高かった川勝平太氏は、立憲民主党系の支援で4度、当選を果たしたが、「失言」続きで、退任に追い込まれた。
その川勝氏だが、今も知名度、人気ともに高いという。「しかし」と危機感を打ち明けるのは立憲民主党の幹部。真剣な表情でこう話す。
「これまでずっと川勝氏を支援してきたことや鈴木氏の知名度、労組などの支援体制を考えると、10ポイントリードのままで逃げ切れると思っていた。それが、終盤になってかなり差を詰められてきたというのが正直なところだ」
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一方、大村氏を支援する自民党の県議は「ついに、鈴木氏の背中が見えるところまできた。最後に追い抜ける、という手ごたえがある」と話す。そんな大村陣営の勢いがを削いだ形となったのが5月18日に大村氏の応援に入った、静岡1区が地盤の上川陽子外相発言だった。
「この方を私たち女性がうまずして何が女性でしょうか」
大炎上の経緯については、周知の通り。子供を生まない女性は意味がないとも、とられかねない内容で、上川氏は翌日、発言撤回に追い込まれた。
ある静岡市議は、苦々しげに次のように語る。
「上川大臣の失言で女性票が一気に減った。自民党票も鈴木氏に一定数が流れるだろう。支持率低迷の自民党、そして岸田政権。裏金事件が今も深刻な影響を与えている上に、この上川発言……。いい加減にしてほしい。大村さんが無所属で出馬すれば、鈴木さんとはもっと差が詰まっていたはず。大村さんの演説は、静岡の東西決戦を促すような内容で、鈴木批判にはつながっていない。無所属なら、もっと鈴木氏を攻撃できたはず。それこそ、大樹総研疑惑を持ち出せばよかった」
2度も東京地検特捜部から家宅捜索を受けた民間コンサル「大樹総研」の矢島義也氏と鈴木氏の密接な関係は繰り返し報じてきた通り(既報)。鈴木氏は現在も、矢島氏の息がかかった一般社団法人の代表理事である。当然、大村氏側からみれば「攻撃」のターゲットとなるポイントだが、自民党関係者が大樹絡みの批判を展開するのは難しいとみられている。
矢島氏は自民党の菅義偉元首相、二階俊博元幹事長とも昵懇。静岡県が地盤の細野豪志衆議院議員にしても、矢島氏の口利きで5千万円を借りていたほど関係が深い。また、岸田文雄首相の側近である木原誠二幹事長代理は、かつて大樹総研の一員として名前を連ねていた(既報)そうした一連の経緯から、大村氏側は大樹絡みの追及ができないというのだ。
4月末の衆院補選で3敗し、支持率回復の見込みもない岸田政権は、静岡県知事選挙で敗れると大型選挙4連敗となる。おまけに総理候補として呼び声高い上川氏の「失言」も重なった。ある自民党幹部が、苦しげに「なんとしても静岡はとりたいが、ちょっと届かないだろう。鈴木氏には大樹総研という大きな傷があるのだが攻めきれない」とこぼした。