「闇をあばいてください。」――送られてきた差出人不明の郵便物の1枚目には、そう大きく印字されていた。筆者は「内部告発」=「公益通報」を確信した。
■「捜査車輛」から犯人特定
職員の不祥事が相継いで報じられている鹿児島県警察で、事件化された複数の事案が現場の責任者の判断で隠蔽されていた疑いが浮上した。一部の事案では本年5月中旬に県警が盗撮の容疑者の警察官を逮捕、報道発表するに到ったが、すでに3月下旬の時点で同事案を含む未発表不祥事少なくとも3件の概要を記した文書が、筆者に送られてきていた。
別の情報漏洩事件を調べる過程で隠蔽事案3件が筆者とハンターに知られていることを察知した県警が、記事化に先手を打つ形で立件したとみられる。
地元報道などによると鹿児島県警は5月13日、枕崎警察署の男性巡査部長(32)を建造物侵入などの容疑で逮捕した。巡査部長は昨年12月、県内の女性トイレに侵入して個室内の女性を盗撮した疑いがあるという。
取材結果や関係者の証言などによれば、この件は一度内部で握り潰されていた。当事者逮捕により事態が明るみに出る結果となったが、それまで少なくとも半年間は一切が伏せられていたわけだ。筆者とハンターは3月下旬までに事件の経緯をある程度把握できており、その概要は今回の発表とおおむね一致している。具体的には、以下の如くだ。
事件が発覚したのは、発表通り昨年12月のこと。現場は枕崎市内にある公園の公衆トイレで、その個室を利用した被害者女性がドア上方にスマートフォンのような物があるのを目撃する。驚いた女性が声を上げてドアを開けたところ、その場にいた盗撮犯とみられる男が走り去り、近くにとめていた白い車に乗って逃走した。被害女性は最寄りの枕崎署にパトロールを要請。同署が付近の防犯カメラを調べたところ、先の「白い車」が同署の捜査車輌であることがわかり、事件のあった日時に当該車輌を使っていた職員も特定されたという。「捜査中」の犯行だった可能性が高い。
■保身のため「静観しろ」
現職警察官による盗撮疑いを把握した枕崎署は、当然ながら容疑者である警察官のスマートフォンを差し押さえるなどの捜査を検討。告発文によれば、これに県警幹部が待ったをかけたという。具体的には「静観しろ」との指示があったとされる。
目的は、おそらく県警幹部の保身。おりしも鹿児島県警では職員の非違事案が相継いでおり、そこで現職警察官が逮捕されるとなれば幹部の責任問題に発展しかねない。隠蔽指示に異を唱える声が上がることはなく、捜査は頓挫。署ではこれを機に全署員へ「盗撮行為の防止」と題する教養(指導)を実施するとともに、容疑をかけられた職員の行動を監視し始めた――。
一度お蔵入りとなった事件が本年5月になって容疑者逮捕に到った理由は、前述したとおりハンターの報道で未発表不祥事が明るみに出る事態を回避する目的があったと考えられる。実際、県警は遅くとも4月上旬までに、同事件の情報が筆者とハンターに漏れたことを把握していた。
本稿冒頭で述べたように、鹿児島県警ではこの盗撮事案を含めて少なくとも3件の不祥事が握り潰されていたが、残る2件の概要については次稿で報告したい。
■問われる報道の在り方
ここで参考までに述べておく。「夜討ち朝駆け」などと格好をつけているが、警察関係者が報道機関の記者に捜査情報(容疑者の供述内容など)を漏らす行為は、情報漏洩であり公務員法違反だ。全国津々浦々で24時間365日、公然と行なわれている違法行為であるためか、これまで一度も問題とされたことがない。
その一方、当局の意に沿わない方法で情報を漏洩した職員が公務員法違反で逮捕され、極悪人のような扱いで大きく実名報道されることになるのは、まさに鹿児島県警を舞台とするここ1カ月ほどの異常な報道で読者諸氏もよくご存じの通りだ。県警の思惑に乗った報道が、隠蔽の事実を闇に葬ることになることを、地元メディアは肝に銘じるべきだろう。
なお、同県警をめぐっては職員の不祥事に係る情報開示請求への不適切な対応(存否応答拒否)を本サイトで指摘してきたところだが(既報1 )、筆者の審査請求(不服申し立て)から8カ月が過ぎた本年3月下旬時点で県情報公開・個人情報保護審査会(野田健太郎会長、委員5人)の結論はまとまっておらず、同27日の審査会でなお継続審議となったことがわかっている(参考⇒)。県警は、まだ何か隠しているということだ。(以下、次稿)
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |