「安倍やめろ」裁判で“最後の報告会”|木村草太さん招きヤジの社会的意義確認

本サイトなどが報告を続けてきた首相演説ヤジ排除問題で、本年8月に警察の排除行為を違法・違憲とする判決が確定した裁判の当事者らが11月17日午後、「最終報告集会」と題したイベントを札幌市内で開き、専門家をまじえた公開討論会などで言論の自由の意義を語り合った。

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集会を主催したのは、ヤジ排除国家賠償請求裁判の一審原告や支援者らでつくるヤジポイの会。先の判決確定を機に、排除事件発生からこれまでの5年あまりを改めて振り返る目的で企画した。「安倍やめろ」の一声で選挙演説の場から排除され、北海道警察を訴える裁判の原告となった大杉雅栄さん(36)は、ヤジを飛ばした理由について「国会での質問さえまともに取り合わない政府では、ヤジという一見下品で秩序を乱すようにも見える手法を取らざるを得ない」と説明、事件後に警察が排除の法的根拠を説明するまでに7カ月半かかった経緯を振り返り「しっかりした根拠があるならその場ですぐ説明できたはず」と批判した。排除の根拠とされた「警察官職務執行法」などを解説したヤジポイ弁護団の神保大地弁護士(札幌弁護士会)は、現場の警察官らがなんら同法に言及せず「演説の邪魔」「選挙妨害」などと発言していた事実を引き、道警の主張の不自然さを改めて指摘した。

憲法学者の木村草太さんを招いた公開討論会では、表現の自由の意義を問われた木村さんが「それは発言する人自身のためだけにあるわけではない」と指摘、自由な言論には社会を豊かにする側面があると解説した。

「表現行為というのは『社会への贈与』という一面があり、だからこそ手厚く保護されなくてはならない。表現の自由は、それを行使したからといってすぐに発言者が利益を得るような権利ではありませんが、そのメッセージを受け取った人たちが何かに気づいたりといった形で、社会の決定を豊かにしていく、そういう権利だということです」

これを受け、大杉さんと同じ裁判を闘った桃井希生さん(29)は「私はたまたま(当事者の立場で)裁判を起こす役割を担っただけ」としつつ「もし私がヤジを飛ばせなかったとしても何か不利益があるわけではないけど、何も言えない社会で生きていけるかというと、それは違う。そういう思いで裁判を続けてこられたんだと思います」と振り返った。判決確定後の被告・北海道の対応( ⇒こちら)を報告した弁護団の齋藤耕弁護士(札幌)は、実質全面勝訴した桃井さんから謝罪などの要請を受けた道警と道公安委員会の「回答」を示し、両文面の内容などから「同じ人が作っているのでは」と指摘、「公安委員会が独立して機能していないのではないか」との疑いを表明した。

弁護団長としてイベントを締め括った前札幌市長の上田文雄弁護士(札幌)は、表現の自由について木村草太さんが示した「社会への贈与」という考え方を引き、「これからは私たちがその自由を実践していくことが重要ではないか」と呼びかけた。

齋藤弁護士が報告した道公安委の「回答」について、筆者は11月1日付で道警への指導の概要などを記録した公文書の開示を請求したが、2週間あまりが過ぎた17日の時点で開示・不開示の決定は伝わっておらず、請求が受理されたかどうかの連絡も届いていない。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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