那珂川市所有ビル「ナカイチ」で不可解な賃貸借契約

福岡県那珂川市が所有するテナントビルの賃貸借契約を巡り、特定事業者への便宜供与を疑われかねない実態があることが分かった。市は、一部の飲食店舗に常識を超えた低額な賃料で広い面積を貸し与えており、市民から「おかしい。癒着ではないのか」と疑問の声が上がる状況となっている。

■市民の交流の場

JR博多南駅前ビル 通称ナカイチ

JR博多駅から新幹線で一駅。1日の乗降客が1万5,000人を超えるJR博多南駅に着く。駅に直結する博多南駅ビル(通称:ナカイチ)は2004年、当時の那珂川町がランドマークとして建設したもので、駅周辺に賑わいを創出する目的で18年に大幅リニューアルされた。

1階に路線バスの待合スペース、2階の連絡通路を渡るとJR 博多南駅があり、交通の拠点として利用されるほか、インフォメーションやギャラリー、イベントスペース、キッズスペースなども併設される交流の場だ。ショッピングもグルメも楽しめるため、利用者が多い。ビルは市が所有し、一部の店舗スペースが民間事業者に有料で貸し出されている。

■賃貸借の対象は「キッチンスペース」のみ、客席は「公共スペース」

4階は、オープンテラス席が並ぶビアガーデンと周辺の景色を展望できる屋上庭園だが、疑念を持たれる賃貸借が判明したのは、市とこのビアガーデン運営事業者との契約だ。

下の写真のように、店舗にはカウンターキッチン(右奥)と30席以上並ぶテラス席がある。市によると、キッチンと客席を合わせた広さは57.18㎡だというが、驚くべきは賃料で月額4万円を切る安さ。駅ビル内という好立地であり、占有面積も広いのに何故これほど安いのか――。調べてみると、やはりカラクリがあった。

ナカイチには多くの民間事業者がテナントとして入居しているが、賃貸借は市の条例により、いずれの契約条件も原則は一律。賃料は、床面積1㎡当たり2,265円に設定されている。

市への情報公開請求でテナントすべての賃貸借契約書を確認したところ、確かに条例通り「床面積×単価」で賃料が設定されていた。例えば1階の雑貨屋は面積60.26㎡、うどん屋は42.92㎡でそれぞれ単価2,265円を乗じた賃料(雑貨屋:13万6,488円、うどん屋:9万7,213円)での契約だ。(*貸主は、市の指定管理者

<4階飲食店との賃貸借契約書>

ところが、4階のビアガーデンについては実際の床面積が57.18㎡でありながら、契約上はたったの16.62㎡で計算されており月額賃料はたったの3万8,340円。賃貸借契約書の賃貸名称をみると、「キッチンスペース」と記載されている。つまり、業者にはキッチン部分だけが貸し出された形になっており、広々とした客席はそれに含まれていない。通常、飲食店の賃貸借ではありえない契約だ。なお、客席部分40.56㎡を含めた契約にすれば、月額賃料は12万9,512円となる。

この契約について市に説明を求めたところ、「あくまでキッチンを貸し出しているだけで、他は屋上利用者への公共スペース」なのだという。しかし、上掲の写真のようにキッチンカウンターの前に広々と並べられたテーブルと机に、店の客以外が座ることがあるだろうか。4階はたしかに屋上庭園があり、天気のいい日には景色を眺める利用客がいないわけではないが、店舗の営業時間に飲食以外の客が座ることはまず考えられない。

7月に入ってに同店を訪れてみたが、雨天にも関わらず店内は満席。30名を超える客が利用していた。店は貸し切りや団体客を受け付けており、眺望を楽しむだけの客は利用しづらい状況だ。市の主張する「客席は公共スペース」という言い訳は、かなり苦しい。

4階にはトイレが設置されているが、契約対象ではないスペースである以上は「公衆トイレ」。しかし、内部は店舗事業者が装飾しており、占有されたものとしか思えなかった。キッチンスペースだけを貸しているという市の説明に、納得する市民は少ないだろう。

■不適切な契約実態に市民からの批判

問題は他にもある。百歩譲って、キッチンスペースのみの賃貸借だったとして、客席部分の床や屋根、ガラス張りの窓、トイレなどが破損した場合にはどこが責任を持つのか?また、メンテナンスに関しても、キッチンのみの使用であればフリースペースと称する部分の清掃は市(この場合は指定管理者)が行うことになる。店舗が営業で客席を使用しながら、清掃は市が行うというのでは、まさに税金の無駄遣いだ。

この点についての市側の言い分はこうだ。「現在、客席等の使用箇所については、ビル全体の清掃と同様に指定管理者による日常清掃を行っていますが、テナントによる清掃も随時行っています。破損に関しては状況を見た上で判断することとなりますが、市と指定管理者間で協定書に基づいて修繕を行うこととなります。また、テナントの管理についてはキッチンスペースのみとなります」

“客席はフリースペース”だという立場を崩そうとしない那珂川市。市民感覚とは大きなずれがある。問題の店を利用したことがあるという那珂川市在住の女性は、呆れ顔に語る。
「だれがどう見ても店の客席。フリースペースとは言えないでしょう。そんなに賃料が安いなら、私も借りて店を出したいぐらいだ」

別のある会社経営者は、「どうみても不適切な契約」とした上で、次のように話している。
「周辺の相場から言っても、20万円程度の賃料が発生してもおかしくはない場所。4階だけがこんな安いとは驚きだ。コロナ禍でどの飲食店も家賃問題を抱えているのに不公平だろう。適正な家賃にすべきではないのか」

(東城洋平)

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