今月25日、福岡県議会の佐々木允元副議長が、女性との不適切な関係を認め議員辞職した。田川市選挙区は定数1のため、50日以内に補欠選挙が行われる。同氏の選挙区である田川市では村上卓哉市長が不倫で炎上したばかり。相次ぐ地元政治家の不祥事に市民も呆れ顔だ。ただし、佐々木氏の辞職理由は単なる不倫ではないともいわれており、辞めて済む話になるのかどうか判然としない。
不可解なのは、佐々木氏の辞任と同時に市長選と県議補選が同時に行われることを前提にした動きがあること。連休明けには、市長の部下である女性職員側から“セクハラだった”と指摘された村上市長の辞任を求めるデモなどが行われるとの情報もあり、一部の市議などが市長への辞任圧力を強める構えだ。だが、市長に関することに限れば、かなり無理のある展開だと言わざるを得ない。
■辞任圧力への疑念
結論から述べるが、佐々木氏の問題は別にして、現在は周りが市長に辞職を迫る段階ではない。セクハラを訴えている女性側が求めているのは、田川市公平委員会での審査と第三者委員会の設置、さらにはハラスメント対策条例の制定など職場環境改善につながる措置だ。結末がどうなるかは審査や調査の行方次第であり、ひとっ飛びに市長の辞任を求める動きには賛同できない。まずは、女性職員側の措置要求に誠実に答えるべきだろう。
「いや、辞任しても調査はやるんだ」という強弁が聞こえてきそうだが、それはおかしい。市長が辞めるのはセクハラを認めた時であって、そうなると、わざわざ税金を使った調査を行う意味はなくなる。市と議会が、当然やるべきハラスメント対策条例制定などの対策を粛々と実行すればいいだけの話だ。女性職員側の要望を無視して辞任を求める方々には、別の思惑があるとしか思えない。不倫発覚からの周辺の動きを振り返ってみれば、それがハッキリする。
■怪文書ばら撒きに大任町長の影
初めに市長の不倫を報じたのはネットメディア「現代ビジネス」の2月の配信記事。その後、市長は不倫を認めて謝罪。残り任期いっぱい給与を50%削減することを表明し、議会もこれを全会一致で認めている。
しかし、反市長派――というより二場公人前市長を選挙で破った村上氏を、事あるごとに痛めつけてきた永原譲二大任町長と近い存在――の今村寿人田川市議らは収まらず、市長の辞任を求めて不信任案を提出。これが否決されると、立て続けに百条員会の設置や辞職勧告決議案を要求し、強制力のない辞職勧告だけが可決されるという事態になった。セクハラを訴えている女性職員のためというより、何がなんでも辞めさせるという自分たちの目的を優先させた格好となっているのは確かだ。
議会における今村氏らの動きに呼応するかのように、田川市内に「怪文書」がばら撒かれた。
怪文書が田川市長の不適切行為を攻撃する目的なのは分かるが、週刊誌のウェブ版や新聞記事を断りなく貼り合わせたようなお粗末な作り。「田川市の未来・財産を守ろう女性の会」という怪しげな団体名と卑劣なやり方が、市民の顰蹙を買ったのは言うまでもない。
ハンターは複数の関係者から、怪文書ばら撒きに永原町長の身内や今村市議の実弟が関与していたとの証言を得ており、独裁町長の影がちらつく状況となっている。
・参照記事⇒【速報】大任町“公務員”が怪文書ばら撒き|指示者は永原譲二町長の親族職員|不正の拠点はごみ処理施設
・参照記事2⇒人権無視!市長の辞職を迫る田川市議らと怪文書|裏で動く関係者判明
■辞任を迫る勢力と大任町長との関係
市長攻撃の急先鋒となっている今村寿人市議は、永原譲二大任町長と近い関係にあるとみられている。今村氏が理事を務める社会福祉法人の監事や評議員には、永原氏の長男や娘婿が名を連ねている他、怪文書ばら撒きに参加していた同市議の弟は昨年、大任町の会計年度任用職員に採用され、今年4月からは町長が組合長である「田川地区広域環境衛生施設組合」の正規の職員として働いているという。
また、市長に辞任を迫っている市議の一人、田守健治氏の実子を含む複数の身内も大任町の会計年度任用職員に採用されていたことが分かっており、大多数の住民はもちろん、ほとんどの自治体関係者が知らなかった会計年度任用職員の公募において、永原町長に近い関係者だけが優遇されていた形だ。地方公務員法が禁じる「縁故採用」が行われた可能性さえある。
村上田川市長に強く辞任を求めているのは、かつての二場市長派、いまは永原派とでもいうべき議員たちだ。市内では、二場前市長もしくはその身内が市長選出馬を狙って動いているとの話さえ出ている。不倫・セクハラ問題をネタに、かつて隠ぺいに明け暮れた二場 ― 永原体制に戻そうということなら、市民の共感は得られまい。
■反市長派に同調する西日本新聞田川支局長が恫喝取材
ハラスメントを政治利用する連中には呆れるしかないが、この動きに同調し、市長派とみられる議員たちを恫喝する新聞記者まで現れた。西日本新聞の田川支局長だ。
同紙のY支局長は、田川市長に対する議会の不信任案を巡る取材過程で、一部の市議らに、記者として絶対に吐いてはならない発言を行っていた。残された記録を確認したが、明らかに矩を越えている。不信任案への対応についての取材時に行われたY支局長と、ある市議会議員とのやりとりの概要を以下に示す。
Y記者:○○さんが無記名なのは、(これまでに)脅迫とかがあったからってことですか!
市議:その辺も含めて、警察に相談していますので。Y記者:内容を教えられないということか!
市議:警察に相談している最中なので、すみません。Y記者:はあ!?猫の記事(*)書いてあげたよね!?私は協力したのに、なんでおしえてくれんの!
市議:それはありがとうございます。ただ、それとこれとは(別)。警察に相談しているので詳しくは話せないんですよ。Y記者:はあ!?茶番よ茶番。○○さんはもっと話せる人と思ったのに。まーいいや。で、○○さんは前回の不信任に反対したの?賛成したの?
市議:すみません。教えてしまうと、無記名の意味がありません。Y記者:私には教えて下さいよ!
市議:議長選の時は無記名でしたが、その時も賛成か反対かを聞いて回ったのですか?Y記者:私はその時、田川にいなかったので知りません。それって、私に調べろってことよね。○○は無記名と書きますよ!
*「猫の記事」とは、2023年11月26日付西日本新聞朝刊の筑豊版に掲載された記事のこと(下のネット版記事画面参照)。野良猫の殺処分ゼロを目指すNPO法人の田川市内での活動を紹介したもので、市議もその活動に取り組んでいた。Y支局長は、自分が書いた記事を取材対象との取引材料にしており、紙面の私物化だ。記者として最低の行為と言わざるを得ない。
Y支局長は、1回目の不信任案が提出された際にも記者とは思えない言動を見せていた。別の市議に賛成か反対を聞きに行き、「現時点では答えられません」と当たり前の対応をした同市議に対し、「はあ!?この期に及んでそれですか!」と捨て台詞を残したという。不信任案採決の前日には、社会面に次のようなコラムも書いていた。
市長が不倫と認めた行為は、出張先でのことながら用務を済ませた後のこと。設置予定となっている第三者委員会での調査も終わらぬうちに、「市民の血税が不倫出張デート代に溶けた」と断定するのは早計だ。「市長を擁護する市議たちにも閉口する」というのなら、口を閉じて下手な恫喝などすべきではあるまい。
この支局長、何がなんでも市長をクビにしたいらしいが、大手メディアが大好きな「公平・中立」をかなぐり捨てた、解りやすい態度だと言えるだろう。記者として田川の記事を書く資格はあるまい。
■不倫、セクハラに踊る前に
週刊誌のウェブ記事を発端とする田川市長の不倫問題は、怪文書配布、不信任案否決と続き、いったんは収束するものとみられていた。しかし、問題が「セクハラ」に移ったことで再燃。大手メディアは「セクハラ」を大きく取り上げた。軌を一にして辞任圧力を強める反市長派とそれに同調する新聞社員たち――。一連の動きは、真偽を確かめぬままSNSのニセ情報に踊らされた兵庫県を想起させる。村上市長は不倫を認めて謝罪したものの、セクハラについてはまだ何も語っていない。議会やマスコミがやるべきは、予断を排した上での真相解明ではないのか。
(中願寺純則)