情報漏洩があったとしてハンターの記者が大任町と田川市に損害賠償を求めた裁判で和解が成立し、大任町と田川市が情報漏洩を認めた。「ハンターが金銭の請求を放棄したので和解に応じてやった」と強がってみせる大任町関係者もいるらしいが、和解に至るまでの経過をまったく知らないか、虚勢を張っているかのどちらかだ。裁判は事実上ハンターの勝訴であり、金銭的な賠償を放棄したのは、訴訟の目的が情報漏洩を認めさせることにあったからに他ならない。和解成立までの経緯を続けて報じる。(*下が和解内容)
1 被告らは 、原告に対し、原告が被告大任町及び被告田川市に情報公開請求をした事実が、原告ではなく被告大任町又は被告田川市から本件で問題となっている第三者に伝わった可能性が否定できないことを認める。
2 被告らは 、今後、情報管理を徹底する。
3 原告は、その余の請求をいずれも放棄する。
4 原告、被告大任町及び被告田川市は、本件に関し、原告と被告大任町との間及び原告と被告田川市との間 に、本和解条項に定めるものの他に何らの債権債務がないことを相互に確認する。
5 訴訟費用は、各自の負担とする。
■幼稚だった大任町側の主張
2021年6月14日に両自治体に対して行ったのは、永原譲二大任町長と二場公人田川市長(当時)の選挙運動費用収支報告書、大任町発注のごみ処理施設工事の関連文書、同町発注工事の入札結果表、田川市が行ったゴミ収集運搬業者のプロポーザル選定経過に関する文書など8件の情報公開請求。これに対し翌15日、武田良太総務大臣(当時)の秘書S氏から「なかったことに」との電話を受けたことは報じてきた通りである。情報漏えいがなければ、武田氏側がハンターに圧力を加えることはできない。守秘義務違反や個人情報保護条例違反が確実視される状況だった。
総務省は情報公開制度の所管庁。そこの大臣の事務所が、開示請求自体をもみ消そうとしたのだから問題は深刻だ。情報公開制度の根幹を揺るがしかねない。ハンターが訴訟を提起したのは、一連の経緯を明らかにして「情報漏洩」の事実を両自治体に認めさせ、政治家の介入を白日の下に晒すためだった。損害賠償請求は目的ではなく、そうした形にしなければ両自治体と武田氏の秘書を法廷に引っ張り出すことができなかったからだ。そこで2023年12月1日、代理人弁護士を立て福岡地方裁判所に損害賠償訴訟を提起、結果として勝訴に等しい和解となった。
両自治体が「情報漏洩はなかった」と主張する中、裁判の焦点になったのは、ハンターが証拠として提出した電話の録音データの信憑性。「なかったことに」と圧力をかけているのが武田氏の秘書S氏であるという「直接的な証拠」が録音データ以外に乏しかったからだ。情報漏洩を示す証拠として残っていたのは録音データと携帯の着信記録。案の定、大任町の代理人である加藤哲夫弁護士は、録音データの発言者がS秘書であるとはいえないという趣旨で反論してきた。以下に一部を抜粋する。
《Sが原告に電話したのか否かは不知》
《Sが原告に電話した事実は不明であるし、仮にSが原告に電話したとして、原告に対して情報公開請求をなかったことにしてほしい旨を述べたのか否かも不明》
《「何とかこれはなかったことにしてほしいと」と述べているようであるが、そもそも「これ」が何を指すのかは不明》
《本件情報公開請求がなされた事実は原告を識別させる内容ではなく、個人情報には該当しない》
《情報公開請求がなされた事実は、地方公務員法が漏洩を禁止している「秘密」または大任町個人情報保護条例が保護の対象としている「個人情報」に該当しない》
いずれも相当に苦しい弁明だ。お粗末と言っても過言ではない。録音データの会話の中でS秘書は、ハッキリと「なかったことに」と言っており、この点に議論の余地はない。前後のやり取りから「これ」という語が、大任町と田川市に対する情報公開請求であることは子供でも分かる。
ハンターの情報公開請求は、いずれの場合も記者の個人名で行う。氏名や住所はもちろん、請求内容も「個人情報」に相違ない。公務員が開示請求の内容や請求者の氏名を関係のない第三者に伝えた時点で情報漏洩が成立しており、“犯人”に守秘義務違反が問われるのは言うまでもない。
レベルの低い大任町側の反論の中で、唯一同町側が強気でいられたのは、問題の電話の中で「なかったことに」と申し向けてきた人物がS秘書であるということの証明が困難とみられていたからだ。証人として法廷に呼ばれても、S秘書が出席を拒めば、こちらは不利になる。そこで当方は、録音データの声がS秘書のものであることを証明する別の方法をぶつけた。録音データに残されたS秘書と記者のやり取りを、そばで聞いていた人物に証言を依頼したのだ。その人物が証言を承諾し、2021年6月15日の出来事に関する陳述書が提出されたことで状況が大きく変わる。出廷するかどうかというS氏の動向を気にする必要は、なくなっていた。
■事実関係認めたが・・・
そして証人尋問当日の6月30日、思いもよらぬ展開となる。出廷しないとみていたS秘書が福岡地裁に来たのだ。当方だけではなく、大任町の代理人である加藤弁護士も意外だったらしく、開廷前に田川市の代理人に「聞いてないぞ。何も準備してないぞ」と話すのが聞こえていた。そのせいか、ハンターの代理人によるS秘書への尋問のあと、大任町の代理人である加藤弁護士は反対尋問を行なっていない。実弟を連れて法廷に来ていた永原譲二町長も、S秘書の尋問終了後に姿を消していた。では、法廷でS秘書は何を語ったのか……。以下に、ハンターの代理人弁護士とS秘書の主なやりとりを示す。
弁護士:今聞かれた音声、話されてるのは、一方の話者はSさんで間違いないですかね。
S秘書:たぶん。弁護士:もう一方の声は中願寺さんの声で聞き覚えありますかね。
S秘書:じゃないですか。弁護士:この電話の中で、中願寺さんが当時大任町と田川市に行っていた情報公開請求に関して、あなたからですね、『なかったことにしてほしい』というふうなご依頼をする下りが出てくるんですけれども、改めて聞きます。そういったご依頼をした記憶はありますか。
S秘書:その記憶がある、ないの質問でいうと、ないです。弁護士:「大臣が気にしとるわけじゃないんでしょ?」に対し、「気にしてますよ」。このやり取り、ご記憶ありますか。
S秘書:気にしてますよとか、そういう話の電話をした記憶はあるかもしれないですけど、でもそれ、もういいや、はい。弁護士:あなたは中願寺さんが当時大任町、田川市に情報公開請求してることに関して、誰から聞かれましたか。
S秘書:中願寺さんから。弁護士:ん?中願寺さんから聞いたんですか?
S秘書:はい。弁護士:いつ聞きましたか。
S秘書:それは中願寺さんが電話してきて、情報公開請求しますからということを、僕に電話してきましたから。弁護士:そうすると、あなたは中願寺さんから情報公開請求をしますよというふうに聞かされて、で、どうしたんですか。
S秘書:ああ、そうですか、分かりましたと。弁護士:その段階で、あなたはどうぞとおっしゃったと言いましたよね。
S秘書:分かりましたって。弁護士:どうぞとおっしゃってね。それはなぜこの時には『なかったことにしてほしい』という話に急に変わったんでしょうか。180度変わってますよね。
S秘書:だからそれは選挙区のことなんで、もめてもほしくないですし、どうせなら穏便に終わらせたいという僕の勝手な行動です。弁護士:「大臣が気にしてるわけじゃないんでしょ」という中願寺さんからの質問に対して、あなたは『気にしてますよ』という返答をしてます。そうすると、これって当時武田良太さんもこのことをご存知だったということじゃないんですか。
S秘書:違います。弁護士:あなたは大臣の確認を取ることなく、自分の判断で大臣が気にしていると虚偽のことを言ったということになるんですか。
S秘書:そう。弁護士:そういうことなんですね。
S秘書:はい。弁護士:分かりました。それから、あなたは中願寺さんからこういう情報公開請求が来たということは、『代議士には僕から報告しました』と言っているんですけど、これはこの代議士というのは武田良太さんのことですね。
S秘書:はい。弁護士:情報公開請求があったということを、武田さんにあなたが報告したということですね。
S秘書:いや、そういうことがあったということを報告も何もしてません。僕がそういうふうに言っただけです。弁護士:そうすると、これもあなたがそのとき、中願寺さんに嘘を言ったと。
S秘書:そうです。僕のほうでのやり取りです。
ハンターの代理人弁護士による追及で度々言葉に詰まるS秘書。録音データに残された「なかったことに」が自分の声であることを、投げやりな「たぶん」という言葉で認めた。S秘書が情報公開請求について記者に圧力をかけた時点で、「情報漏洩」は確実だ。しかしS秘書は、苦し紛れの主張で両自治体による情報漏洩を否定しにかかる。なんと、ハンターの記者が情報公開請求を行ったということを、大任町や田川市からではなく「記者(中願寺)から事前に聞いていた」と言い出したのだ。これしかない逃げ道だったと思われるが、録音データの内容と、S秘書のそれまでの法廷での発言とも辻褄が合わない。
そもそも、ハンターが大任町と田川市に開示請求する発端となった情報提供(いわゆるタレコミ)が送られてきたのは2021年6月13日。請求は14日である。S秘書の証言が事実なら、記者は13日か14日の早朝までにS秘書に「開示請求します」という連絡を入れていなければならない。すると前稿で示したS秘書の電話が「ご無沙汰してます」から始まるはずがない。記者が、武田氏の事務所に開示請求することを知らせなければならない義理も義務もない。
それでも「記者から事前に聞いていた」と言い張るなら、録音データの会話自体が極めて不自然なものになってしまう。S秘書は、15日の電話で“大任町と田川市に開示請求したのか”と記者に確認した上で、請求内容の一部を正確に読み上げ、「なかったことに」と言っている。「もめてもほしくない」「穏便に終わらせたい」と考えたのなら、直前の通告時に「やめてくれ」と言っていただろう。
不合理な点は、法廷における短い時間内でのS秘書の証言にも登場する。「なかったことにしてほしい」と言った記憶があるかと聞かれ「ない」と答えた直後、「(武田大臣が)気にしてますよとか、そういう話の電話をした記憶はあるかもしれない」――。記憶にないはずの「なかったことに」について、代理人弁護士の「なぜこの時には『なかったことにしてほしい』という話に急に変わったんでしょうか」という角度を変えた質問には、『だからそれは選挙区のことなんで、もめてもほしくないですし、どうせなら穏便に終わらせたいという僕の勝手な行動です』と“なかったことに”を認めてしまっている。混乱して自分の発言に一貫性がないことに気付かなかったということではないのだろうか。このあと、苦し紛れの“情報公開請求することを事前に記者から聞いていた”というS秘書の主張は、裁判所からも否定される。
(つづく)
(中願寺純則)















