高市首相がトランプと交わした密約は・・・

 外交交渉には「密約」が付きものである。公表される協定や合意文書作りの裏側で、秘密の約束が交わされる。高市早苗首相は今回、アメリカのトランプ大統領とどのような密約を交わしたのだろうか。

 ◇   ◇   ◇

 今回の首脳会談では、事前に「日本に対してアメリカはペルシャ湾への艦船の派遣を求めるのではないか」との観測が広がり、メディアの関心もそこに集まった。だが、米海軍の艦船すらペルシャ湾から遠い海域に展開している。他国に戦闘海域への艦船の派遣を求めるのはそもそも難しい。日本に軍事面での貢献を求めてくるなら、迎撃ミサイルなどの装備品ではないかとの見方もあった。

 そういう目で、両国の共同宣言や合意文書に目を通していたら、日米間の密約にかかわる可能性のある文書が見つかった。両国で作った文書ではなく、アメリカ政府が自国民向けに出したファクトシート(概要文書)だ。「トランプ大統領はすべてのアメリカ国民のために米日同盟を強化する」とのタイトルが付いており、ホワイトハウスの公式サイトにアップされた。文書には次のような文言が盛り込まれている(*日本語訳は筆者、その下が原文)。

自国の防衛力を迅速に強化し、防衛予算を増額し、日本と(周辺)地域に駐留する米軍との連携を継続するとの日本の決意を、米国は歓迎した。

日米両国は、強力な拒否的防衛態勢を築くため、日本国内に先進的な装備を配備するとの決意を確認した。

The United States welcomed Japan’s commitment to rapidly strengthen its own defense capabilities, increase its defense budget, and continue partnering with U.S. forces in Japan and the region.

The United States and Japan affirmed their commitment to deploying advanced capabilities in Japan to enable a strong denial defense posture.

 官僚は、こむずかしい表現を使って意味を分かりにくくするのが得意だ。それは日米共通である。拒否的防衛態勢(denial defense posture)とは、敵のミサイル攻撃を無力化もしくは被害を軽減する態勢を意味する。つまり、日本国内に迎撃ミサイルをさらに多く配備するということであり、より端的には最新式のパトリオット・ミサイルを配備する、ということである。

 アメリカは、ロシアのミサイル攻撃にさらされるウクライナに迎撃ミサイルを供与しており、在庫に余裕がなくなってきていた。そこに今回のイラン戦争である。湾岸諸国で大量の迎撃ミサイルを発射したため、いよいよ在庫が乏しくなっている。CNNの報道によれば、パトリオット・ミサイルは1発400万ドル、管制レーダーや誘導装置を含めたシステム全体では1セット11億ドルもする。経済的な負担も大きい。

 そういう文脈の中でこの文書を読むと、高市首相は「迎撃ミサイルをたくさん生産して貴国にも提供いたします」と約束した可能性がある。日本では、三菱重工がパトリオット・ミサイル(*下の写真参照)をライセンス生産している。2023年には「防衛装備移転三原則」の運用指針を改定して、ライセンス元国(米国)に完成品を輸出できるようになった。木原稔官房長官は2025年11月の記者会見で、実際にアメリカにパトリオットを輸出したことを明らかにした。今回の会談では、舞台裏で具体的な数量を示したうえで提供を約束した疑いがある。

 パトリオット・ミサイルだけではない。ファクトシートでは、弾道ミサイルを撃ち落とすためイージス艦に搭載される迎撃ミサイル「SM3ブロックⅡA」について、「日本でのライセンス生産をすみやかに4倍にする」と明記している。さらに、中国本土も射程に収める中距離ミサイル「タイフォン」の日本配備(岩国の米軍基地)にも触れ、「緊密な連携を維持する」と記した。

 これらのミサイル装備への言及にも増して注目されるのは、人工知能(AI)と量子技術についての記述だ。文書には「新たに結んだ了解覚書に基づき、アメリカのアルゴンヌ国立研究所、日本の理化学研究所、富士通、米エヌビディアは、公的研究機関や民間パートナーの力を活用してコンピューターのハード・ソフト両面での開発を加速する」とある。

 今年1月のコラム「激しい逆流、新しい戦争への道」(末尾にURL)でも指摘したように、米ロ中の3カ国は暗号解読の分野で熾烈な争いを続けており、そこで決定的な役割を果たすのは量子コンピューターと考えられている。研究所や企業の具体名まで挙げて「開発の加速」をうたったのは、軍事的に量子コンピューターの開発と実戦への応用が枢要かつ切迫したテーマだからだろう。

 トランプ大統領は「ディール(取引)の人」である。口約束で満足するような政治家ではない。ミサイルの配備と生産、量子コンピューターの開発それぞれについて「いくら出す?」と迫ったのではないか。おべっかで切り抜けられる話ではない。日本側は具体的な数字を提示し、密約に応じた可能性がある。

 密約があったとして、それを今後、どのような形で予算化し、野党の追及をかわし、国民の目をごまかすか。日本の財務官僚や外務官僚にとっては「お安い御用」だろう。なにせ、彼らには「十分な実績」がある。

 例えば、1971年の沖縄返還協定である。この協定を締結した際、日本政府はアメリカと密約を結び、協定締結の際に公表した以上の費用を負担する約束をした。「沖縄返還密約」と呼ばれる。これが発覚した経緯はややこしいので省くが、政府は疑惑が表面化してからも一貫して「密約などない」とはねつけ続けた(2002年の川口順子外相発言、福田康夫官房長官発言)。アメリカ側の関係公文書が公開され、密約の概要が分かってからも、自民党政権と外務省および財務省は否定し続けた。

 全容が判明したのは2009年に民主党政権が誕生し、密約の解明を官僚に命じた後のことだ。実に38年かかった。沖縄の返還に伴って日本側が負担したのは公的には3億2000万ドルとされたが、実際には密約に基づいて約2億ドルも上積みされていた。

 財務官僚のごまかし方は巧妙きわまりないものだった。当時、首相として密約事件の解明にあたった菅直人によると、沖縄が返還された1972年から27年間、日本政府はニューヨーク連邦準備銀行に無利子で5300万ドル、日本銀行は5000万ドルをそれぞれ預金し、その利子相当分が事実上、裏負担の原資になった。これでは、単年度の予算案をいくら精査してもカラクリは分からない。財務官僚にとって「税金の使い方と隠し方など自由自在。いくらでもごまかせる」のである。

 日本の官僚のそうした体質は、その後もあまり変わっていない。安倍政権下の森友学園問題を通して、私たちは嫌と言うほど思い知った。首相の息がかかった案件ということで、財務省は国有地をただ同然で森友学園に払い下げた。そして、疑惑が表面化すると、近畿財務局に命じて関係文書を改竄(かいざん)した。

 改竄を命じられた職員が自死し、彼の妻が関係文書の情報公開を求めて裁判を起こしたことで文書が開示され、ようやく財務省幹部の所業が明るみに出つつある。官僚たちは「公職にある政治家や公務員が作成する文書は国民のもの」という情報公開制度の根幹をあざ笑い、ないがしろにし続けている。

 もちろん、情報公開を請求しても、防衛や外交上の機密、捜査当局の調書や証拠は非開示になるケースも多い。それはやむを得ないことだが、そうした文書類も歳月がたてば、いずれは公開される。

 ただし、日本の場合は「特定秘密の指定期間」が長い。第2次安倍政権時に制定された「特定秘密保護法」では30年、内閣の了承があればさらに30年間、「特定秘密」として公開されない。つまり、関係者が存命中は公開されない仕組みになっている。アメリカの情報公開制度では特別の事情がない限り、25年で公開されるのとは大違いだ。

 25年と60年の違いは大きい。25年後には公開されるとなれば、責任者や関係者は生きていることが多い。だが、60年となると、ほとんどの関係者は鬼籍に入る。責任を問われる人はほとんどいないのだ。公文書を作り、保管する際の緊張感がまるで異なる。日本の政治家と官僚は、いまだに逃げおおせる制度になっている。

 密約の中身が明らかになるまで、60年も待つわけにはいかない。秘密の壁をうがつ方法をあらゆる手段を使って探さなければならない。官僚機構の中にも、心ある人はいるかもしれない。彼らの良心に訴えかけなければならない。パトリオット・ミサイルは三菱重工がライセンス生産しているが、その生産には関連会社や子会社の大勢の人たちがかかわっている。そこから密約を解明する糸口が見つかる可能性もある。

 それは検察の仕事でも、裁判所の仕事でもない。メディアの仕事である。困難なことだが、あらゆる手段を駆使して突破口を見つけ、押し広げていかなければならない。

 大国の大統領がいきなり他国に侵攻してその国の指導者を爆殺する決断をし、気まぐれな発言で世界を振り回す現状は耐えがたい。私たちの首相がそのような大統領に媚びへつらうだけでなく、こっそり貢ぎ物を差し出す約束をしていたならば、なおさら耐えがたい。

長岡 昇(元朝日新聞論説委員)

長岡 昇(ながおか のぼる)
山形県の地域おこしNPO「ブナの森」代表。市民オンブズマン山形県会議会員。朝日新聞記者として30年余り、主にアジアを取材した。2009年に早期退職して山形に帰郷、民間人校長として働く。2013年から3年間、山形大学プロジェクト教授。1953年生まれ、山形県朝日町在住。

≪写真説明&Source≫
◎パトリオット・ミサイル(防衛省のサイト

≪参考記事&サイト≫
◎2026年3月21日付の読売新聞「日米首脳会談」特別面
◎米国が公表した「米日同盟の強化に関するファクトシート」(ホワイトハウスのサイト
◎ウィキペディア「パトリオット・ミサイル」(日本語版英語版
◎パトリオット・ミサイルの推定価格(CNNのサイト
◎ウィキペディア「SM3ミサイル」(日本語版英語版
◎財務省の「密約」調査 政権交代が可能にした情報公開(菅直人のサイト ⇒こちら
◎特定秘密保護法—-制定の経緯と背景とその影響(三木由希子 ⇒こちら

≪参照コラム≫
◎トランプ大統領への高市首相のピエロ的賛辞(2026年3月23日
◎核兵器と核開発をめぐるダブルスタンダード(2026年3月16日
◎戦後秩序を打ち砕く新しい戦争が始まった(2026年3月5日
◎激しい逆流、新しい戦争への道(2026年1月18日

 

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