新型コロナ対策の政治的背景 ―政界の重鎮・山崎拓元自民党副総裁インタビュー(下)―

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて安倍晋三政権は7日、「緊急事態宣言」を発令した。

習近平国家主席の訪日や東京五輪・パラリンピックの開催にこだわったせいでコロナ対策が後手に回った結果なのだが、事態悪化の責任が首相にあるのは誰の目にも明らかだ。

安倍政治に厳しい目を向けてきた山崎拓元自民党副総裁が、先送りされた形の「次の政局」について語るインタビューの2回目。

 

■次期総理 ― 能力・識見は石破氏だが……

――その菅さんですが、このところのゴタゴタで、次の総理・総裁の目が無くなったとみられています。各報道機関は次の総理には誰が適任か、という調査を行っています。石破茂元幹事長がトップに躍り出ているようですが、安倍さんは岸田文雄政調会長に禅譲するのではないかと言われています。どちらが適任ですか?

人柄は別として、能力と識見の問題で言えば、石破氏が上だと思いますし、国民的人気は石破氏の方が圧倒的に高い。

 

――しかし、国会議員の数でいくと、やはり岸田さんが有利?

永田町の論理で言えば、つまり自民党国会議員の勢力比で言えばそうなります。安倍総理が岸田さんに譲ろうとすれば、いわゆる実質安倍派の細田派プラス宏池会の数は多い。それに加えて麻生派で元々宏池会ですから――。その構図からいうと、岸田さんが三派、つまり細田、麻生、岸田派を合わせると、だいたい半分ありますね。二階派や菅のグループがどう動くのかは、まだ何とも。マスコミも読み切れないでしょう。

 

――マスコミも分かっていないと?

マスコミは数合わせばっかりする。国会議員の頭数だけで計算はしているんだけど、どうだか。菅グループがどうするだろうかとか、青木さんの関係がどう動くだとか分析はするけれども、それが石破氏に付くとみてない。要は、今までのところは岸田有利という考え方が、だいたいマスコミ界には浸透している。だけど、一寸先は闇ですからね。

今の記者は、あんまり政局に強くないからね。昔は政治部長、あるいは編集局長は相当なベテランだった。今は必ずしもそうじゃない。末端を見たら、なおのこと。政治家の質ももちろん低下したが、政治記者の質も低下した。だから、政治をドラマ化する面白い記事が書けない。先も読めない。

――反省します。ところで古賀誠さんが、岸田さんを容認したという報道が流れました。実際そういったことをおっしゃったと。一時は菅さんを持ち上げてみたり、いろいろされていましたけれども、ここにきて岸田さんを担ぐということに同意されたとみていいんでしょうか?

そうじゃないかと思いますがね。私は古賀誠さんの出方はよくわかりませんが――なぜかというと、野田聖子さんを推しておられましたからね。それから、派内的に言えば、林芳正さんとも関係が深かった。もちろん岸田さんとも関係が深いわけですが、単純な人じゃない非常に複雑な思考をなさる方であると思いますね。岸田氏で行かないとしょうがないと――いうふうに踏み切られたんじゃないですか。菅さんも弱ってるしね。

 

■新型コロナで政局がなくなった

――岸田さんや石破さんについてお話を聞いてきたんですが、来年の9月に総裁選があります。どうなりますか?

来年の9月が総裁の任期です。従って今年から来年にかけては政局になるとみなされていましたが、コロナウィルスの問題で延びると思います。オリンピックが延びましたから。

 

――総裁選自体の日程も延ばすということですか?

いや、政局がなくなるということ。本当は今年9月がひとつの山場だったんですが、仕掛けるほうはできなくなっていますね。仕掛けようにも、仕掛けられない状況ですね。安倍政権側は、国民の結束を呼びかけているわけだから、そういう時に騒ぐというのは……。ちょっと対応が難しい。

 

――どうしても災害とかそういう時は、権力側が強くなるといいますか、これはもうしょうがないですよね。

世論調査とか見てもね、安倍内閣の支持率は下がっていない。

――下がっていたのが、総理会見後に上がったという調査結果もあります。

全部上がっている。少しだけどね。本当はドンと下がる時期なんだけどね。自殺された近畿財務局職員の手記が出てきたり、検察人事とかミスが続いているから。

一連の国会議員の不祥事問題、秋元逮捕とかいろいろあるわけです。河井案里さんもたぶん連座制の対象になるでしょうから失職すると思いますが、そういう問題が度重なっており、本当は安倍内閣の支持率が急低下するところです。だが、コロナウィルスに助けられたようなところがある。ここで争いごとが起こったらまずいと――、国民が団結しなきゃいかんと――、だから指導者たちが権力闘争やるのはいただけないという方向に、国民の気持ちというのは動きますからね。こうなると動くに動けないですよ。

 

――非常に政権批判もしづらくなってきていますね

コロナ対策は超党派でやらざるを得ない。ここは対立できないから。安倍さんにとっては救われたということでしょう。

 

――報道機関の世論調査について重ねておうかがいします。確かに安倍内閣の支持率は、下がっても4割前後あります。本当にそうなのか。肌感覚と違う気がするのですが……。

確かにそうなんです。安倍さんが出てくると、テレビを消す人もいますからね。ただ、いまは敵はコロナだと。敵はコロナだから結束しようと。国民は今内閣を変えるということはまずいと。そう考えますよね。

 

――結論から言うと、しばらく政局はないということですね。

ないですね。できないです。

■森友問題 ― 再調査は当然

――最後になります。森友問題で自殺した近畿財務局職員の手記が公表されました。文書改ざんなどの隠蔽行為は、ハッキリと当時の佐川宣寿理財局長の指示だったと記されています。発端は、安倍さんが国会で「私や妻が森友問題に関与していたら辞める」と発言したことです。

コロナウイルスの問題で、すべての政治上のイシューが些事になったんですね。パンデミックになったので、日本国内の問題に止まらず、国際社会全体の問題になった。東日本大震災よりも大きな波が来てると言っても過言ではない。世界中に新型コロナという津波が襲っている感じになってるので。その他のあらゆる問題が些事化しているということはあると思います。

しかし、森友問題だけを捉えれば、これは渦中の人が亡くなったんですから、無視することはできない。人間の良心の問題だと思いますね。コロナで失われる人命もあるが、一人の人命が軽いということではない。

近畿財務局の職員の自殺は森友問題の中で発生したわけです。その原因が財務省にあり、これが総理側に対する忖度であったということも、常識化しています。忖度の最高責任者が本当は財務大臣の麻生太郎氏だけど、佐川という部下に被せた。佐川氏が公文書改ざんの責任者であったことは間違いないのですがね。

 

――財務大臣は麻生さんです。普通辞めるべきだと思うのですが。

幾多の前例から言って当然ですよ。私も、すぐ辞めると思ったんです。しかし、あの騒ぎの中で誰も責任取らなかった。人命が損なわれたのにもかかわらず、麻生大臣は責任を取ろうともしなかった。政治的良心というものが失われているんですよ。官僚の良心も失われているが……。もう一度、森友問題の調査をするべきでしょう。

 

――安倍さんや麻生さんは再調査しないと頑張っていますけれども、森友はコロナウィルスとこれとは別だと?

再調査は当然ですよ。命がけで告発した人がいるんだから、一事不再議にはならない。

 

――本日はありがとうございました。

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