「菅・河野」神奈川コンビへの抵抗感

7割という驚異的な支持率でスタートダッシュに成功したかにみえた菅義偉内閣が、新型コロナウイルス対策で躓き、失速した。

一連のGO TOキャンペーンで感染拡大を招き、緊急事態宣言の再発出に踏み切らざるを得ない状況になったのは、菅首相の判断が間違っていた証し。後手に回るばかりの対応で支持率が急落する中、政権与党の幹部たちが深夜に銀座のクラブで遊んでいたことが判明し、国民から厳しい批判を浴びる事態となった。支持率は、これでまた下がる。

■逆風下で囁かれる「ポスト菅」

逆風に晒される自民党にとってはまさに悪夢のような毎日が続いており、先月31日に行われた北九州市議会議員選挙では、公認候補22人のうち元議長や県連幹部など現職6人が議席を失う結果に――。“弱り目に祟り目”とはよく言ったもので、週刊文春の取材で、首相の長男が映像制作会社の社員として総務省の官僚を接待した場にいたことが分かり、永田町や霞が関が騒然となっている。

日増しに強まる「菅首相では選挙は戦えない」「この政権は秋までもたない」といった党内の声。いまのところ“ポスト菅”に向けた動きは水面下のものだが、政権の先が見えてきたことだけは確かだろう。早く総理総裁を変えることには大賛成だ。

■好きになれない菅と河野

記者は、同じ神奈川を地盤とする菅首相と新型コロナのワクチン接種を担当する河野太郎行政改革担当相に好印象を抱いたことはなく、むしろ二人とも“嫌いな政治家”。安倍晋三前首相も好きではなかったが、菅・河野両氏への嫌悪感はそれを上回る。

すでに証明された形ではあるが、菅氏は黒子のナンバーワンであってトップリーダーではない。あらゆる局面で判断が揺れるのは、自信のなさの表れだろう。「志操」としての国家観を持たぬ同氏が、宰相の座に就いたことが不幸だったと言うしかない。

国家観を持たぬ政治家が考えるのは、目先の人気取り。ゆえに大衆迎合的な政策に走るきらいがある。菅政権が進める「押印廃止」や「デジタル庁」は、その最たる例だ。

記者が、「押印廃止」で物議を醸した河野行革担当相を忌避する理由は、彼が二世議員にありがちな単なるパフォーマーで、弱い立場・少数派を平気で切り捨てる人間にしかみえないからだ。そうした懸念が現実のものとなったのが、行革担当相就任直後に打ち出した「押印廃止」の方針だった。

インターネットが普及した現代社会において、手続き一切がデジタルで出来るということは、おそらく進歩と言えるのだろう。手書きの書類は姿を消していき、印鑑すら存在しなくなる未来がすぐそこまで来ている。

だが、人気取りのために、あたかもハンコを捺す行為が悪いものであるかのように受け取られる政策の打ち出し方は、あまりに乱暴。印鑑の製造業者や販売業者は、たまったものではあるまい。

拙速に事を運んだのは、国民が便利だと喜ぶのなら、伝統ある業界といえども無くなって構わないという河野氏の思い上がりがあるからこそで、そうした不遜な態度こそが、政治家二世である彼の本質なのである。二世政治家の勘違いは、同じ神奈川を地盤とする小泉進次郎衆議院議員も同様と言える。

■「デジタル化」への懸念

デジタルと言えば、菅首相の肝いりで創設が決まった「デジタル庁」にも、うさん臭さが漂っている。

デジタル庁の創設は、菅首相が総裁選で打ち出した政策で、行政のデジタル化を進めるための役所になるのだという。人気取りにはもってこいの話ではあるが、拙速に過ぎよう。

デジタル化は情報流出の危険性と表裏一体の関係にあるが、政府がその点について対策を検討した形跡はなく、不安を残したままのデジタル庁発足となる。デジタル化事業のうまみを独占するのが、アマゾンというのも気になるところだ。

先述した「押印廃止」は、行政のデジタル化を進める上で避けて通れない事項の一つになるが、お役所仕事のデジタル化に伴うメリットやデメリットについて、丁寧な説明がなされたことは一度もない。パソコンやスマホを必要としない――あるいは嫌う――人々を、置き去りにした政策には不同意だ。

ネットを利用した行政手続きの簡素化自体に、異論を唱えるつもりはない。超高齢化社会の日本においても、数十年後にはインターネットに精通した世代が老後を過ごしているのであるから、不公平とは言えなくなるだろう。

「市民に分かりやすい手続き」――聞こえは確かに良い。紙ベースの手続きからデジタルによる手続きに移行するのは時代の要請なのかもしれない。しかし、唐突な「押印廃止」が印鑑業界に混乱や反発をもたらしたように、待ったなしの行政デジタル化は、一部の人々の生業(なりわい)や普通の暮らしを奪いかねない。

例えば、「代書屋」と呼ばれて国民に親しまれてきた行政書士。文字通り“住民の代わりに”役所に出す書類などを“書く”のが仕事だ。その手段が手書きからパソコンに移ったとはいえ、役割は昔も今も変わらない。行政書士が「まちの法律家」と呼ばれる所以である。

実はデジタル庁が進めるという行政のデジタル化は、その行政書士の仕事を奪いかねないという側面を持っている。デジタル化で、行政がらみの手続き一切が「誰にでも分かる」「誰にでもできる」という簡単なものになれば、行政書士の果たす役割の多くが不必要になるからだ。

だが、前述したようにパソコンやスマホを嫌う人や、操作そのものが苦手な人も数多くいて、その人たちにとっては、身近な「まちの法律家」である代書屋さんこそが頼り。いなくなったら困る存在なのである。

もちろん、弁護士や司法書士などの仕事にも影響が出るのは必至。それぞれの組織が、デジタル化時代の「士業」の在り方を探っているのが現状である。だからといって拙速は禁物。「デジタル庁」だけが先走る現状は、後の混乱や猛反発を招きかねない。

■「照一隅」とは無縁の政権

政治家に求められるのは「照一隅」の精神であり、弱者や少数派の声や思いを大切にすることだ。「押印廃止」「デジタル化」と大衆受けする政策をゴリ押しする前に、それによって困ることになる人々と向き合い、善後策を講じておくべきだろう。だが、菅首相や河野行革担当相には、そうした気遣いや思いやりが、かけらもない。だから“嫌い”、なのである。

コロナ禍によって仕事が減り――あるいは無くなり――、先の見えない状況に不安な思いを抱いている人が大勢いる。基礎疾患を抱え、コロナ感染に怯えるお年寄りもいる。そうした国民に、菅政権がはきちんと寄り添ってきたのか――?

「会食自粛」を呼びかけておきながら大人数でステーキを食べたり、高級クラブで遊んだりしている与党政治家の姿が、じつはその問いに対する答えなのかもしれない。

ところで、「便利ならばデジタル万歳」との主張もあろうが、そもそも「デジタル」は「電気」がなければ機能しないもの。何らかの原因で停電が長く続いた場合、「書類がなくなった」で済むのだろうか?代書屋さんやハンコ屋さんは、やっぱり大事にしておいた方が良い。

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