低額応札の裏に川内原発|薩摩川内市スクールバス運行業務の闇(4)

鹿児島県薩摩川内市の教育委員会がスクールバス運行事業者を決めた際の入札結果を隠蔽している問題を巡り、同市に本社を置くバス会社が、2年続けて他社の半額もしくは3分の一の金額で応札し、同業務を事実上独占していることが分かった。

不正常な入札実態は、ハンターの記者が関係者に取材し、2020年度及び2021年度の入札に参加した各事業者の応札額を確認して判明したもので、県内のバス業界関係者からも「不健全な入札」「業界の首を絞めるような愚行」などと批判の声が上がっている。

■2年続けて常識破りの低額応札

2021年度のスクールバス運行事業者を決める入札は、今年2月22日に実施され、6コースのうち5コースを、市内に本社を置く「川内観光交通」が落札していた。下は、ハンターが薩摩川内市教委に情報公開請求して入手した「入札結果表」だが、従来通り開示されているのは落札した業者の応札額だけで、他のバス会社の応札額は黒塗り非開示となっている。

市教委はこれまで、「市議会の決算が終わるまで直近の入札結果は公表しない」という理由で、落札した業者以外の応札額を非開示にしてきたが、今回もその姿勢は同じ。入札当日に各社の応札額を読み上げる形で「公表」しておきながら、やはり不自然な隠蔽にこだわった。

前稿で掲載した次の表は、非開示となっていた2020年度の応札額を関係者から聞き出してまとめたもの。6コースのうち5コースを川内観光交通が落札しており、すべて最高額の半分以下。3路線については、最高額の約3分の1という安さだった。

川内観光交通が入札を辞退した「東郷小学校(山田・南瀬・烏丸・藤川地区)」というコースを落札した南九州開発(株)グリーン観光交通の応札額が他の会社と大きな相違がないことを考えると、川内観光交通の応札額が突出して低かったことがわかる。

では、今年2月に行われた2021年度の入札は、どのような応札状況だったのか――。前述したように、開示された入札結果表は黒塗りばかりだったが、関係者から各社の応札額を聞き取り、以下の表にまとめた。

懲りないと言うべきか、川内観光交通が6コースのうち5コースを落札。前年度と同じように東郷小学校コースの入札を辞退して地場の有力企業グループに譲った他は、1コースが他社の約半額、4つのコースは最高額の約3分の1という常識破りの応札額となっている。

黒塗りで隠されているが、市教委の入札予定価格は落札を逃した複数のバス会社の落札額と近いもの(市関係者の証言)だったとされ、2年続けて非常識な低価格入札が容認されるという事態を受けて、議会筋からも「入札予定価格の意味がない」「積算に問題があるのではないか」といった声が上がりはじめている。

■原発で潤うバス会社

川内観光交通が落札したスクールバス運行業務の委託金額は、2020年度が5コース計約3,376万円、2021年度は約3,300万円。一方、川内観光交通以外のバス事業者による5コースの応札額の最低額だけ足すと、軽く6,000万円を超える計算だ。同社は、他のバス事業者の半分以下の費用で、スクールバスの運行を行っている。この点についてあるバス事業者は、次のように分析する。
「バスの維持管理、人件費、燃料代などが他社と大きく違っているとは思えない。川内観光を辞めた運転手さんも、そう言っているから間違いない。スクールバスだけでいうと、おそらく赤字か、それに近い状態。それでも、常識破りの低入札を繰り返しているのは、他のバス会社が疲弊して倒れるのを待っているからとみられてもおかしくない。不健全であり、こんな異常な入札が続けば、地元のバス業界の首を絞めることにもなりかねない」

薩摩川内市の事情に詳しい県の関係者は、首を傾げてこう話す。
「川内観光交通は、どうして無理な低入札を続けているのか。理解に苦しむ。そもそも、同社は別の業務で大きく売上げを伸ばしており、無理してスクールバスの運行業務を独占する必要などないはずだ。業界の健全な発展を阻害しかねない話で、裏に何があるのか気になるところではある」

取材に応じた県の関係者が言う通り、川内観光交通はここ数年、大きく売上げを伸ばしている。同社の業績を確認してみたところ、2017年3月期に約1億8,000万円の売上げだったものが、2018年は約2億8,000万円、19年は約3億9,000万円、20年には4億2,000万円を超える水準にまで上がっていた(民間の調査機関調べ)。

毎年1億円ずつ売上げを伸ばしている形だが、理由は詮索するまでもない。同社の重要な取引先は九州電力や三菱電機グループ。つまり川内原子力発電所に通う作業員などの輸送を、ほぼ独占的に請け負っているのだ。川内原発ではここ数年、テロ対策を目的とする「特定重大事故等対処施設」の整備が続いてきたため、多くの関係者を運ぶ必要があったのだという。もともと川内原発と関係の深い川内観光交通に、「原発特需」がもたらされていたというわけだ。スクールバスの運行業務をダンピング受注しても、会社が傾く心配はなかったとみられる。

ただし、それでも仕事は欲しかったらしく、同社は、本来なら事実を正確に報告すべきスクールバス運行中の事故について虚偽の報告書を提出し、市と市民を欺いていた。しかも2回、である。

(つづく)

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