【教育崩壊】伊敷中いじめ、学校・市教委「隠蔽」の手口

長期にわたるいじめが原因で学期途中に転校するという「いじめ防止対策推進法」で「重大事態」と定められている事案を、県教委や首長に報告せず隠ぺいを図っていた鹿児島市立伊敷中学校と同市の教育委員会。被害者生徒の家族が市教委への個人情報開示請求で入手した学校長名の文書から、当該事案を「人間関係」に悩んだ被害生徒の精神的な問題だと決めつけ、物品の収奪や暴言、暴行といった加害者生徒の行為を記録に残さず処理した「隠蔽の手口」の全貌が明らかとなった。

■どこにもない「いじめ」の3文字

伊敷中の2年生のクラスでいじめが起きていたのは令和元年。ハンターは、鹿児島市教育委員会への情報公開請求で入手した学校側作成の報告書を精査し、いじめが矮小化され文房具の貸し借りに関するトラブルとして処理されていたことや、「転校」という言葉を一切使用せず「環境を変え、新たな気持ちで頑張っている」などとごまかしていたことを報じてきた。

事案の状況を示すチェック欄では、『他校への転学、退学等』とすべきところをいじめが解消している』を選び、嘘の報告まで行っていたことも分かっている。(*下の報告書参照。画像クリックで拡大)

では、なぜ学期途中の転校が許されたのか?転校するには、学校長の意見書が添付された「指定学校変更申立書」を保護者が市教委に提出する必要があるが、意見書には何が書かれていたのか?――いじめの隠蔽を知った被害生徒の家族が、令和元年12月に市教委に提出した転校に関する一連の文書を、個人情報開示制度を使って確認した。

案の定と言うべきだろう。いじめの報告書をでっち上げた元鹿児島県教育次長の寺園伸二校長(当時)は、被害生徒の転校にあたって指定学校変更申立書への添付が必要となる「指定学校変更許可申請についての意見書」においても真相を歪め、被害生徒がいじめられて教室に入れないという実態を隠し、同人が周囲になじめないことが原因で転校に至ったかのような内容を綴っていた(*下が問題の意見書)。

記述内容に沿った学校側の筋立てはこうだ。まず、「保護者からの申し出の理由」のまとめ。

・被害生徒が同じ学級の女子生徒との関係に悩み学校に相談し、その生徒との関係については改善した。
・しかし、その後同じ学級の他の女子生徒数人との人間関係に悩んだり、学級の雰囲気になじめなかったりして、教室に入れなくなった。
・被害生徒は、おとなしく、周囲の状況を極度に気にする性格であり、精神的に不安定。
・環境を変えるために“校区外通学を許可していただきたい”と申し出ている。

いじめられて教室に入れない状態になっていたにもかかわらず、物品の収奪や暴言、暴行といった加害生徒らの行為については記述されていない。被害生徒が「周囲を極度に気にする性格」で「精神的に不安定」だから、転校を申し出てきたという筋書きだ。これでは、被害生徒の過剰反応が招いた事案とみられてもおかしくあるまい。

指定学校変更申立書を提出した際に被害生徒の父親が添付した説明文は、A4の用紙4枚にそれまでの経緯をびっしりと綴ったもの。加害生徒が被害者の机を蹴ったり、胸ぐらを掴んだり、「マジうざい、死ね」と言ったことなど、いじめの詳細が記されていた。校長作成の意見書では、そうした事実を意図的に隠したものとみられる。次に「学校の対応」をまとめると、こうなる。

・9月、担任は同じ学級の女子生徒Aとの人間関係に悩んでいることについての相談を受けたため、女子生徒Aに指導した。
・10月中旬、女子生徒Aと修学旅行の部屋が同じであることやバスの座席が隣であることから修学旅行に行きたがらないとの相談があり、部屋や座席を変更するとともに、女子生徒Aに再指導した。修学旅行後に、校長と生徒指導主任が被害生徒の母親と面談し、女子生徒Aとの関係に配慮することを確認し、全職員による観察及び声掛けをした。その後、女子生徒Aとの関係は改善した。
・11月、学年主任と担任は、6月頃から同じ学級の女子生徒Bとの人間関係に悩んでいるとの相談を受けた。その後、父親からも同様の相談があり、女子生徒Bに事実確認をし、学年職員で指導した。
・女子生徒Bが物を借りて返却しなかったこと等に対する謝罪の手紙を書き、Bの両親も謝意を示した。被害生徒の両親は、そのことについては了承したが、学級の雰囲気になじめずに授業に行けないことへの対応を要望した。
・学年職員を中心に、被害生徒のその日の状況に合わせた支援が行えるようにしており、本人は、別室(オアシス)に午前中のみ登校している。また、受けることが可能な教科のみ授業を受けている。

「保護者からの申し出の理由」で実際の被害状況を端折ったのに対し、こちらは「やっております」と言わんばかりの記述が並ぶ。これまで報じてきた通り、担任は被害生徒の訴えを聞き流し、家族からの電話にも出なかった。逃げ回って被害者側と向き合おうとしなかったのに、きちんと対応していたかのような書きぶりだ。「教育者」たちの汚さを、如実に示した一文と言えるだろう。

「女子生徒Bが物を借りて返却しなかったこと等に対する謝罪の手紙を書き、Bの両親も謝意を示した。被害生徒の両親は、そのことについては了承した」とあるが、これも虚偽に近い。実際には、被害者の保護者がいじめを行った生徒と親による説明を求めたが、伊敷中側が、被害者本人が出てこなければそうした場は設けないと突っぱねていたことが明らかになっている。

最大の問題は、備考欄に「心療内科への通院」と記しておきながら、なぜか「いじめ」の3文字はどこにも出てこないということ。いじめを解決できなかった担任や校長らの責任を回避する目的で、事案を矮小化し、表面上の記録にはきれいごとを並べたということだ。ただし、隠蔽を質す立場の市教委も、伊敷中の校長らとグルになっていたことは明白だ。新たな証拠を、被害生徒の家族が得ていた。

■市教委「共謀」の証拠

下の文書は、転校を余儀なくされた女子生徒側が、市教委に提出した「指定学校変更申立書」。《申立理由》の中には、「いじめ・不登校により指定学校に通学することが困難なため」という項目があり、当然そこに〇をつけなければならないはずだが、何故か「その他特別な理由」に○が付けてある。

被害生徒の家族に確認したところ、文書提出の当日、この用紙に所定の内容を書き込むよう指導した市教委の担当が、「ここに〇をつけて」と事務的に指示してきたのだという。申し立て理由を記入する欄に「申立書のとおり」とあるのも、市教委の指示によるもの。前述したように、いじめの経過をA4の用紙4枚にびっしりと書いて提出した被害生徒の家族は、訝りながらも「指示通りやらなければ、転校を認めないということなのかと考え、市教委側の言う通りにしてしまった」と話している。

一貫して「いじめ」はなかったという立場をとっていた伊敷中と市教委の、転校を急ぐ被害者側の弱みにつけ込んだ、卑劣な隠蔽工作だった。隠蔽に加担した関係者に、「教育者」を名乗る資格はない。

おそらく市教委は、「終わった話」「解決済み」として幕引きを図ろうとするだろう。しかし、いじめ被害にあったあげく、無責任な教員たちのせいで「転校」という不利益を被った女性生徒は、「隠蔽」が分かったことで再び心に傷を受けている。「教育委員会は信用できない」「汚い大人ばかり」――そう思っているはずだ。勇気を出して過去のいじめ被害を訴えた女子生徒を、放っておいていいわけがない。教員互助会と化した教育委員会に自浄能力がない以上、ここは政治の出番だろう。「いじめ防止対策推進法」によれば、いじめの重大事態が発生した場合に教育委員会が報告しなければならない相手は当該自治体の長。鹿児島市のトップは、庶民感覚を持った下鶴隆央市長である。

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