福岡5区で訴訟沙汰|原田元環境相陣営が地元県議二人を「告訴する」

衆議院議員の任期満了日は10月21日。泣いても笑っても5カ月以内に総選挙が行われることになる。現職も新人も、来るべき決戦に備えて準備に余念がないが、一強を誇ってきた自民党にあって肝心の公認候補が決まらず、支持者を戸惑わせている選挙区がある。

公認争いがもつれている注目の福岡5区で、大臣経験のある現職代議士と自民党の地元県議二人が「戦闘状態」になっている。

■元大臣に有力県議が反旗

福岡5区の現職は当選8回のベテラン原田義昭元環境相(76)。その原田氏に公然と反旗を翻したのが、自民党県議団所属で議長も経験している栗原渉県議(55)である。昨年秋に出馬表明してからは、「次の次は栗原公認」とする党本部の調整にも応じようとせず、無所属でも出馬する構えだ。今年2月には、県内の関係者などに『私の決意』と題する一文を記した葉書(下の画像)を発送していた。

保守分裂は確実な情勢となっているが、自民党県議団は昨年9月に栗原推薦を決議。今年3月には5区で最大の集票力を誇るといわれる福岡県農政連が栗原氏の推薦を決めており、事は「現職優先」という党のルールとは違う方向に進んでいる。その福岡5区内で、集票活動の最前線に立つ県議らと、原田氏の後援会幹部が対立。訴訟沙汰になりかけているという情報が飛び込んできた。

■公認巡り「告訴する」

発端となったのは、今年1月に原田元環境相が関係団体に出した「ご推薦のお願い」。この中で原田氏が、『自由民主党としても、すでに「公認」の決定を頂いており』と記したことが、自民党地方議員の怒りを買った。(*下が推薦願の文章)

ご推薦のお願い

令和3年1月吉日

時節柄、貴会におかれては益々ご健勝にてご活躍のことと心からお慶び申し上げます。

さて年も改まり、今年は政局も一気に衆議院総選挙に焦点が絞られて参りました。不肖私は前回選挙来3年間、万全の対策を講じてきたところでありますが、ついては次回選挙に向けて引き続き、貴会のご支援とご推薦が必須のものとして、ここに伏してお願い申し上げます。

自由民主党としても、すでに「公認」の決定を頂いており、私もその責任と誇りの上であらゆる努力を傾注しているところであり、貴会のご推薦をもって選挙態勢はさらに完璧なものになるものと考えております。

未だ新型コロナ禍によって社会、国家は不安定、不透明の極みにありますが、私は政治家の一端として、これら国家の諸問題に対しては懸念の解決努力を行うことを誓うものであります。以上を踏まえて、早急なご推薦を賜ることを重ねてお願い申し上げます。

その際
①ご推薦は早急に頂ければ幸いでございます。
②会(組織)の会員名簿を併せて頂ければ大変ありがたく存じます。
③会の総会・会合その他お集りの際に、出来る範囲でお呼び頂きたく、万難を排し参加させて頂きます。
等、何卒よろしくお願い申し上げます。

貴殿の益々のご健勝をお祈り申し上げます。

自由民主党福岡県第五区支部長
衆議院議員 原田義昭

福岡5区の「公認」は決まっていない。正式決定を前に、調整が続いているというのが現状だ。5区内には栗原氏を除いて7人の自民党県議がいるが、そのうちの2人が、「公認決定」に異を唱える形で、選挙区内の党員に下の一文を記した文書を配布した。

令和3年4月吉日

自由民主党福岡県第五選挙区支部
          党員の皆さまへ

 

自民党福岡県連第五選挙区支部
幹事長 中牟田伸二
副幹事長 渡辺勝将

陽春の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます

昨今、「自民党福岡県連第五区支部の公認候補」に関し事実に反する風間が流布されております。党本部はもとより福岡県支部連合会においても、原田氏に決定した事実はありません。

福岡第五選挙区内7地域支部における原田・栗原両候補予定者の推薦状況は次の通りです。
1.福岡市南区支部   栗原氏を推薦
2.那珂川市支部    栗原氏を推薦
3.春日市支部     栗原氏を推薦
4.大野城市支部    栗原氏を推薦
5.大宰府市支部      未定
6.筑紫野市支部      未定
7.甘木朝倉支部    栗原氏を推薦

なお、各級選挙において、常に自民党とともに保守系候補を推薦してこられた「福岡県農政連」におかれましては、栗原渉氏推薦を決定、去る3月26日推薦証を授与されました。

 

「党本部はもとより福岡県支部連合会においても、原田氏に決定した事実はありません」とした上で、5区内に7つある自民地域支部のうち、5つの支部が栗原氏を推薦していることを明記したもの。農政連の推薦にも触れており、書かれている内容は事実だ。しかし、収まらないのは原田氏側。すぐさま反撃に打って出た。自民県連の会長宛てに提出された文書の内容はこうだ。

抗議と意見陳述

自由民主党福岡県支部連合会
会長 原口 剣生 殿

令和3年4月7日

原田義昭連合後援会
会長 ●● ●●

この度突然に不明な文書が多くの自民党員に郵送されましたが、私たちは深甚の怒りを込めて抗議します。本件は自民党の公認決めという最も神聖な手続きに対し、著しく不名誉で良識にかけた行動であると断ぜざるを得ません。

まず発送者たる「自民党県連5区支部」という組織は存在せず、その組織の責任者たる「県連5区支部長は」は誰なのか、同「幹事長」の根拠は何か。自民党にとって、例え地方組織とはいえ、このような虚偽の名義で公党の権威と名誉、信頼を傷つけるような行動は厳しく非難されなければなりません。

さて次期衆議院選挙の自民党の「公認」については現時点で未だどの選挙区も公表しておらず「内定、または事実上決定」として扱われており、正式な発表は選挙直前に行うのが慣例となっています。「小選挙区支部長」とは原則としてその「公認」内定の意味であり、一貫して小選挙区当選の現職が充てられ、刑法違反でもない限り取り消されることはありません。昨年12月11日に党選対委員長と県連会長も執行部との話しで原田氏に一定の条件を呑ませた上で、原田氏を次期公認候補とし、次次回こそ栗原氏を公認しようとの設定が行われた。また同15日に県連会長が五区内県議会議員らに対し、その旨明確な注意が与えられた。

公認決めを巡って激しい議論が行われるのは各地で珍しいことではないが、ゆめ自民党の名誉と権威を傷つけることは許されず、まして「泥試合」的なものに堕すことは絶対に避けなければなりません。

尚、当方は昨年10月5日付で原口県連会長に対し、原田氏は公認は党本部に直接申請すること、県連の立場はあくまでも「公正公平に行われるよう」特設の申し入れを行った経緯があります。

私どもは今後とも一連の動きを誠実に踏まえ、原田氏をしっかりと支え指導して参りたいと存じています。県連各位におかれては、今回行為の的確な処分、並びに国民との信頼関係を維持しつつ、自民党の使命と責任を、新型コロナ対策など実効ある政治にいかして行くべく最大のご努力をお願い致します。

原田氏が選挙区の支部長である以上、「公認内定」を意味するののだという主張。これもまた、決して間違いではない。ただし、正式な「公認決定」ではないことは、原田氏側も認めざるを得ない。そこで問題にしたのが、二人の県議が所属先として記した「自民党県連5区支部」という組織名。たしかに、そうした政党支部も政治団体も存在しない。だが、そこを突っついても党員にとっては「?」。まさに、文中に出てくる「泥仕合」である。

泥仕合は過激さを増す。ついには、2名の県議を「告訴」するという文書まで登場している。(*下がその文面)

 

自民党支部に関する虚偽の文書について

<趣旨>

今回の虚偽文書については、刑法233条の「虚偽、偽計による業務妨害罪」に当たるものとして、中牟田、渡辺両名を告訴する

<事案と評価>

両名は現に「自民党福岡県第五選挙区支部」「幹事長」等の職にあるが、この文書は虚無の団体である「自民党福岡県連第五選挙区支部」「幹事長」の名前で数千に及ぶ自民党党員に送付された。

文書内容については事実に反する部分も多いが個々には諭評を控える。しかし、文書を受けた有権者に誤情報と多大な心理不安を与えたこと、さらに原田義昭議員は甚大な政治的被害を被った事実がある。

およそ選挙戦一般では、ある程度の情報、宣伝合戦は社会通念として許されているが、本件では発信者にとって最も重要な肩書に明白な虚偽、「なりすまし」が行われており、一般党員の錯誤に乗ずることを目指したもの。国(党本部)から与えられた真正な「県第五区支部」に限りなく似せて、しかし全く虚無の「県連第五区支部」の名称を持って善意の一般党員へデマ、誤情報を流したことは、公党自民党及び原田議員への信用棄損と業務妨害を狙ったきわめて巧妙かつ悪質なものと断ぜざるを得ない。ついては厳正な司法判断を仰ぎたい。

令和3年4月 衆議院議員原田義昭 連合後援会
会長 ●● ●●

文書の内容について、あれこれ論じるつもりはない。告訴するというからには、告訴するのだろう。あとは警察なり、検察なりが判断することだ。ただ、これが国権の最高機関である「国会」の議席を巡る争いだというのなら、いささか幼稚過ぎはしないだろうか。

菅政権の支持率は続落しており、30%を切りそうな調査結果も出ている。盤石の強さを誇ってきた原田氏と言えども、集票活動の中心となるはずの地元県議らを敵に回して勝てるほど選挙は甘くではない。栗原氏にしても、原田氏と保守票を分け合うような状況となれば、勝利はおぼつかない。“共倒れで野党が漁夫の利”――その可能性もないとは言えない。ただ、立憲民主党陣営も地方議員の多くは公認候補と距離を置く状況で、一枚岩とは言えないのだという。どうでもいいが、有権者不在の選挙だけは御免被りたい。

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