関連会社と合わせ、負債総額約47億円を抱え倒産した整骨院チェーン「MJG」。破産管財人は主な破産の要因を、過剰投資による財務悪化や行政処分による売上低下に加え、新型コロナウイルスの感染拡大による客足減少が決定的だったことを挙げる。
一方、MJGの関係者からは「コロナ以前の問題。複数のコンプライアンス違反が常態化していた」との声が上がる。開業からわずか8年で全国に約180の店舗を展開するまで急拡大を果たした整骨院チェーンの内部で、何が起きていたのか――元従業員に話を聞いた。
8年前に東京都昭島市に初出店した後、最大約180店舗まで急拡大したMJGは4月10日、東京地裁から破産手続の開始決定を受けた。関連会社と合わせた負債総額は、売上高(約50億円。2019年11月期)に匹敵する約47億円だった。
対外的には整骨・接骨業界のリーディングカンパニーとして認知されており、木崎優太代表は昨年10月、初の著書『社員を勝者にする経営』を幻冬舎から出版している。ビジネス書籍で売上ランキング上位となり、ビジネスパーソンから注目されるまでになっていた。
◆労働条件の変更で退職迫る
「コロナは原因ではない。昨年10月頃には、すでに経営に行き詰っていた」――HUNTERの取材に答えた複数の元従業員は、異口同音にそう語る。
元MJG従業員の男性Aさんが見せてくれたのは、昨年10月における全170店舗の売上数字をまとめたもの(下の画像参照)。170店舗のうち、単月で黒字になっているのは3割から4割ほどで、残りは赤字店舗である。「これを見て、経営が苦しいのは一目でわかりました。でも幹部からは『うちは規模が大きいから大丈夫』と聞かされていました」(Aさん)
「大丈夫」と言いながら、会社は昨秋、人員削減に舵を切る。9月ごろから受付職員の労働条件の変更を一方的に通知してきたが、従業員にとって不利益になる労働条件の変更で、ほとんどの受付職員が退職を選択せざるを得ないものだったという。
この方針に納得がいかない社員の有志は、労働組合の結成に向けて動く。現在、MJG労働組合準備会(以後、MJG労組)の代表である安藤研人さんがその一人だ。
「それまで、受付職員は希望通りのシフトで働けたが、それができなくなりました。また、無期限雇用となっていたものが今年3月までの有期雇用に変更されています。11月中旬には、社長から各院長宛に『これに従えない受付スタッフを入れないでくれ』と指示がありました。実質的な解雇です。これにより、退職した受付スタッフの数は少なくとも300人。『施術者が受付事務もカバーしろ』という会社の方針だったということです」(安藤さん)
受付職員を置かなくなったことで、会社は人件費の削減に成功したが、状況はより悪化する。「それまで受付職員が担っていた利用者への細かいサービスが提供できなくなったことで、来院者が大幅に減りました。施術者に話せないことを、利用者は受付スタッフに相談するものなんです。いわば受付は最後の砦。施術者で兼務はできませんでした」(前出のAさん)
すでに経営が苦しくなっていたところで、コスト削減に動いたのが裏目に出た。昨年11月には、埼玉県から景品表示法違反による行政処分を受け、追加の銀行融資がストップ。そして、今年に入りコロナによる客足鈍化で売上が低下した。3月には給与遅配が発生し、4月の破産とにつながったというわけだ。
◆診療部位水増し指示、資格免許は使い回し
破産に至る以前から、MJG労組が会社側に指摘していたコンプライアンス違反は複数ある。健康保険療養費(治療費)が大きくなるように、診療した部位を増やすように経営陣から指示があったというのだ。
「『患者一人当たり、全国平均で2.6部位の請求がなされているが、それ以下の院が多いので、部位数を増やせ』という指示でした。つまり、お客さんが不調を訴えていない部位を意図的に施術することになります。役員の説明では、現状は過少請求の状態で、『これは会社に損害を与えていることになる』というもの。到底納得いくものではありませんでした」(安藤さん)
経営幹部から各院長に送信されたメッセージには、「部位増し」に関する記述があり、だれが読んでも「部位を増やすように」という指示だと分かる。診療報酬の不正請求は社会問題となっており、この指示はコンプライアンス違反を助長するものだったと言えるだろう、
他にも問題があった。本来、柔道整復師の免許証は本人が保管する決まりだが、MJGでは入社時に会社が預かっていたという。同業者によれば、通常入社時に免許証を持ってきてもらい、コピーを取って返却するのが普通だが、会社が一括保管するというのは聞いたことがないという。
MJG労組の安藤さんは、呆れ顔にこう話す。「入社の際に、柔整師の免許証を持ってくるように指示され、会社側に渡しました。会社が管理していたはずです。後で分かったことですが、会社は、預かった従業員の免許を使い回ししていました。新店舗開設の際に、免許の足りないところに勝手に貸し出していたんです」
店舗急拡大の裏には、資格者免許不正使用のからくりがあったということになる。
施術を担当していた複数の元従業員からは、「高額回数券の販売を強要された」という証言も出ており、MJG経営陣の考え方は、まさに「金儲け主義」。「いくら売上を作ったかが昇進の基準となり、施術のレベルや接客サービスは二の次だった」(元施術担当者)という話からも、本来もっとも重視すべき利用者の満足度が軽視されていたことが分かる。
破綻したMJGの経営陣は、従業員への給与を未払いにしたまま、120名に上る採用内定者も放置。新型コロナの感染拡大を口実に休業という形で逃げ出し、弁護士に対応を委ねるという無責任極まりない姿勢だ。多くの不正を犯したことを認めた上で、元従業員や採用内定者にきちんと向き合うべきだろう。