鹿児島県知事選挙の裏事情 不人気知事の再選に暗雲

今月4日、自民党鹿児島県連が会議を開き、夏に予定される県知事選挙で現職の三反園訓氏(62)を推薦する方針を決めた。2月に三反園推薦を強行した同党県議団の決定を尊重した形だ。

だが、その県議団も一枚岩ではなく、不穏な空気が漂う。県選出国会議員で三反園支援に汗を流しそうなのは、県連会長の森山裕国会対策委員長くらいといったお寒い現状である。

■「全会一致」強調するも……

三反園推薦を決めた県連の会議後、「初の民間出身で県民との直接対話に大変努力し、財政的にも厳しい中で頑張っている」などと推薦理由について述べた森山国対委員長は、決定が「全会一致」だったと強調。「決まったことに従うのが自民の伝統」と話し、三反園推薦に反対している国会議員や県議らに、造反しないようくぎを刺した。わざわざ「全会一致」を宣伝しなければならないほど、県連内部の意見が割れているということだ。

2月の県議団総会で現職推薦を決めた際も、三反園派の副会長が真っ先に口にしたのが「全会一致」。これについては、総会の中で外薗勝蔵県議会議長が、三反園推薦に慎重な意見を述べた議員を「うるさい、黙っとけ!」と恫喝し、屁理屈を並べ立てて無理やり推薦を決めさせたことが分かっている。

森山氏の「全会一致」も、県議団の「全会一致」も真っ赤なウソ。県連会長がどれだけ凄んでも、鹿児島の自民党が事実上の分裂選挙に突入するのは確実とみられている。

■「処分」で恫喝に反発も

知事選には、現職の他、伊藤祐一郎前知事(72)、塩田康一前九州経済産業局長(54)、有川博幸前鹿児島大学特任助教(61)の3人が出馬予定で、複数の議員が、それぞれの考えで三反園氏以外の候補を支援する可能性がある。

森山氏は造反した議員を党規違反に問うつもりなのかもしれないが、党本部が動くことはなさそうだ。

昨年の福岡県知事選挙では、麻生太郎副総理が安倍首相に直談判してまで推薦を勝ち取った元官僚の新人が、山崎拓元自民党副総裁らが支援した現職の小川洋知事に95万票もの大差をつけられ惨敗。武田良太国家公安委員長ら数名の衆院議員が造反し、保守分裂となったことが大きく響いた結果だった。その折、二階俊博幹事長は武田氏らの行動を容認し、県連サイドから上がった処分を求める声に対し、「必要ない」として一蹴している。

鹿児島で反三反園派を処分すれば、福岡県のケースと違う方針になるため、党本部は沈黙を守るしかない。鹿児島県連内部で無理に処分しようとすれば、反発する議員らの離党という事態を招きかねない。そうなると。県連組織そのものが崩壊に向かう。

ある自民党関係者は、こう話す。「なんで自民党が三反園を推薦しなければならんのよ。現職とはいえ、三反園推薦はまったく筋が通らない。前回の知事選で我が党が推薦したのは伊藤さん。上海研修やら発言問題などで落選したが、県政運営はしっかりやっていたから“公認並み”で支援した。敗れたのは、自民党全体の責任でもあるだろう。一方、三反園は共産党を含めた野党が支援した人物だ。なんが悲しくて自民党が推薦しなきゃならんのか。しかも、三反園は原発廃炉で県民に嘘をついた。薩摩隼人に嘘はご法度じゃ。嘘つきを応援せいと言うなら、喜んで離党してやる」

■変節した三反園氏

憤る自民党関係者の言い分は、間違いではない。三反園氏は2016年の知事選で、現在は共産党県議の平良行雄氏と「政策合意」(下、参照)を結び、4選を目指した伊藤祐一郎前知事を破って初当選した。

平良氏は反原発派の代表であり、この政策合意の結果、野党陣営が三反園支援に回り、当時15~20万票あるといわれていた反原発票もごっそり新人の三反園氏に流れている。三反園氏の得票は426,471票で、伊藤氏342,239票。反原発票がなければ、三反園知事は誕生していなかった。

政策合意にあたって三反園氏が確約したのは、“『廃炉』を前提にした『反原発派を入れた原発検討組織の設置』”。しかし、知事に就任した三反園氏は平然とこの約束を反故にし、九電から研究費をもらっている学者をトップに据え、原発容認の御用組織を立ち上げている。

知事選で支援を受けた反原発派からのメールや電話は、すべてシャットアウト。度々の面会要請にも応じようとせず、黙殺を決め込むという徹底ぶりだ。知事選期間中、候補者である三反園氏を支えた後援会長や支持者も知事就任と同時に追放し、対立した自民党にすり寄ったことは周知の通りである。

有名な薩摩武士の郷中(ごじゅう)教育で守るべきもとして教えられたのは、「負けるな」「嘘をつくな」「弱い者をいじめるな」の三つだったと伝えられるが、三反園氏は最も縁遠い存在と言えるだろう。そうした人物を推薦するというのだから、鹿児島の自民党には薩摩隼人を自負する資格などあるまい。

■現職推薦のシナリオは森山国対委員長?

国対委員長として安倍政権を支えてきた森山氏の手腕は、さすがにたいしたものだった。最後の最後まで意中の人物を明かさず、無理やり「全会一致」で収めたのだから、大物は違う。

ただ、一連の経緯を振り返ってみれば、森山氏は昨年の早い時期から三反園推薦を決めていたと思われるフシがある。

三反園陣営の事務局長には、元衆院議員で自民党鹿児島県連の事務局長だった人物が就任しているのだが、この点について古参の党員は、「森山氏の了解がなければできない人事」だと断言する。

県議団に推薦に関する事実上の決定権を与えたのも森山氏だし、三反園派と反三反園派が割れて県議団が県連に議論の下駄を預けた際も突き返し、何としても話をまとめるよう指示を出した。責任回避を図りながら、うまく現職推薦という結論を引き出したと言えるだろう。

県連として正式決定を出す直前には、他の県選出国会議員らとの会合の席で、ひと悶着あったのだという。自主投票を主張する議員に、「それはできない」と突っぱねる森山氏――。「大喧嘩になったらしい」(県連関係者)という話もあったが、最終局面では強い反対など出なかった。ガス抜きが終わっていたということだ。自民党国会対策委員長の肩書は伊達ではない。

■三反園<伊藤+塩田の現実

怪しいのは、森山氏の周辺から漏れてきていた情勢調査の数字だ。選挙前の調査では、よほど酷い失敗を犯さない限り、何年間も知事として顔を売ってきた現職に有利な数字になるのが普通。毎回の「調査結果」は、当然三反園氏のポイントが一番高かったのだが、「出所」が明らかではなかったため、途中から「あれはでっち上げ」「信用できない」という声が上がり始めた。

「自民党本部が行った調査だ」という情報もあれば、「森山会長の地元企業のコールセンターがやった」という話もあり、どれが真実なのかまるで分らない。ハッキリしているのは、自民党の推薦候補選びの最終盤まで、出馬の可能性があった“三反園知事以外の3人”のポイント合計が、三反園氏を上回る結果だったということだけだ。

3人とは、伊藤前知事、塩田前九州経済産業局長、そして一部の自民党関係者が推していた森博幸鹿児島市長であり、この3人のポイント合計が三反園氏のそれを下回ったことは一度もなかった。出回っていた調査結果が本当なら、有権者の半数以上が現職の続投を拒否しているということになる。現職不人気の証明だろう。

ちなみに、HUNTERが入手した別の調査結果では、伊藤+塩田の数字が現職の三反園を凌駕する結果となっている。

新型コロナウイルスの感染拡大であらゆる社会活動が自粛を余儀なくされる中、19日に行われた鹿児島市議会議員選挙の投票率は、過去最低の37.32%に終わった。組織戦に頼ろうとしている変節した現職に、新人・元職の各陣営がどう戦いを挑んでいくのか――。鹿児島県知事選挙は、6月25日告示、7月12日投開票の予定だ。

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