東京オリンピックと新型コロナウイルスの感染拡大で国内がざわつく中、「鶏卵マネー」が引き起こした贈収賄事件の裁判が始まった。収賄の疑いで裁かれるのは、菅義偉首相と当選同期で仲の良かった吉川貴盛元農相だが、贈賄側からカネを受け取った政治家は他にもいる。その中の一人が、総務大臣政務官を務めている宮路拓馬衆議院議員。今後の公判で、その名が出てくることも予想されており、改めて同議員と鶏卵マネーとのつながりを検証しておきたい。
■鶏卵マネー供与の手口
今月4日、鶏卵生産大手「アキタフーズ」(本社・広島県福山市)の元代表・秋田善祺被告から500万円の賄賂を受け取った疑いで逮捕・起訴された元農相・吉川貴盛被告の初公判が行われた。(参照記事⇒「アキタフーズ鶏卵汚職事件で暴かれる自民党金権政治」)
吉川被告は、現金受領を認めながら収賄容疑を否認したが、検察と弁護側の冒頭陳述で秋田被告がカネを配る際のパターンが明らかになっている。
・<平成26年頃以降、秋田から、盆暮れの挨拶名目で現金をもらった>
・<被告人の政治団体が開催する政治資金パーティーのパーティー券をアキタフーズ等の名義により購入してもらう>(いずれも検察側冒頭陳述より)
・平成26年8月、吉川被告は公職選挙法違反容疑で実刑判決を受けた河井克行被告(控訴中)と共に秋田被告と会食。<秋田氏から現金100万円を差し出されたところ、秋田氏が河井氏に対してもその場で現金を差し出していたこと及び秋田氏がかねてから河井氏側に献金を行っている旨を聞いていたことから、パーティー券と同様(中略)と考え、秋田氏から現金100万円を受領した>(弁護側冒頭陳述)
・<(吉川被告は)大臣退任後、2019年12月5日、2020年6月29日と2回にわたり、秋田氏からそれぞれ現金100万円を受け取った>
つまり、秋田被告は政治家に近づくと、①まず会食を通じて現金。②年末年始、夏のお盆時期に挨拶と称して現金。③パーティー開催時には、パーティー券を購入という、3つのパターンでカネを提供していたということだ。
■黒革の手帳に何度も登場する宮路氏
ハンターで度々政治資金絡みの「疑惑」を報じてきた総務政務官の宮路拓馬衆院議員も、アキタフーズが「タニマチ」となっていた一人だ。河井被告は、「向日葵(ひまわり)会」という集まりを主宰しており、宮路氏もそのメンバー。「向日葵会」とは、無派閥議員を中心に河井被告が結成を呼び掛けたグループで、こうした関係からアキタフーズとのつながりができたとみられている。(*下は、河井被告のフェイスブックの画像)
宮路氏とアキタフーズは、よほど関係が深かったらしく、検察が押収した秋田被告の「黒革の手帳」には宮路氏が何度も登場する。
こうした付き合いの先にあるのが「資金提供」であることは言うまでもない。実際のカネの流れは、一部だが表面化している。まず、宮路氏の関連政治団体「新政策研究会」が2019年12月に、秋田被告から50万円の政治献金を受領していたことが判明(参照記事⇒「宮路拓馬総務大臣政務官側に鶏卵マネー50万円」。
2017年12月2日には、秋田被告側から資金管理団体「拓翔会」に50万円の寄附をもらいながら、政治資金収支報告書に記載していなかったことも分かっている。
■贈収賄事件で明らかとなった献金の手口と符合
ここで、「黒革の手帳」の記載のうち、問題となる箇所の記述からその日の出来事を確認しておきたい。
・2017年12月6日 キャピトル東急ホテルの和食店で秋田被告と宮路氏、自民党の伊藤忠彦衆院議員(愛知8区)が「会食」。
・2019年12月2日 帝国ホテルの高級中華料理店で秋田被告と宮路氏、伊藤氏が「会食」。
前出・2017年の「拓翔会」に対する50万円の献金は「会食」の当日。2019年12月4日のものは「会食」の2日後となっている。当日に受け取って2日後に記載したとも考えられるが、まさに、吉川元農相が裁かれる贈収賄事件の冒頭陳述で検察側が主張した、「会食」絡みの資金提供パターンと合致する。すると、宮路氏は秋田被告との会食の場で、直接カネをもらっていたのでないのか――。誰もが抱く疑問だろう。
黒川の手帳で確認された宮路氏に関する記述は、まだまだある。
・2019年2月26日 12:00 宮路氏アキタフーズ東京本社来社
・2019年7月31日 13:30 宮路氏アキタフーズ東京本社面談
・2019年12月12日 13:00 宮路氏アキタフーズ東京本社来社
宮路氏が、わざわざアキタフーズ東京本社に足を運んだのが以上の3回。7月と12月はまさに冒頭陳述で指摘された「盆暮れ」にあたる。
また、宮路氏は2019年3月6日に政治資金パーティー「衆議院議員宮路拓馬君を励ます会」を、8月27日にも「衆議院議員宮路拓馬と国政を語る会」を都内のホテルで開催している。秋田被告との会合や東京本社訪問は、政治資金パーティーにも近接していた。
宮路氏は農林水産委員会や自民党農林部会に所属しており、鶏卵業界への政策決定に影響を与え得る存在だ。自民党のある幹部は、次のように話している。
「秋田被告の賄賂の手口が法廷で明らかにされた。これまで秋田被告からカネをもらった議員は、疑われるようなことがないようにキチンと説明すべきだろう。選挙直前に、政治とカネの問題が噴き出ないことを祈っている」